09 ギャグで告白してみた

・【ギャグで告白してみた】


『二〇一九年 二月十八日(月曜日)』

佑助「はいどうも、よろしくお願いします」

波留「佐賀県鳥栖市の市長選で、わずか十票差で現職が勝ったみたいだね、一万二七四四票と一万二七三四票で」

佑助「十票で人生が違いすぎるよね、もうこれからやりたい放題だもんね」

波留「いや市長ってそんなやりたい放題できるポジションでも無いよ。市民の声を聞いたりするんだよ」

佑助「いやいや負けたほうは」

波留「負けたほうは落ち込んでいるでしょ」

佑助「いやいやいや、負けたほうは逆に何やっても怒られないから」

波留「そりゃ市長から比べたら粗探しはされないけども」

佑助「市長が不倫したら辞職だけども、負けたほうが不倫しても奥さんに謝るだけだから。だから負けて良かったぁっ!」

波留「そんなヤツだとしたら最初から選挙に出るなよ! でもそんな人じゃないんだよ! 選挙に立つ人は!」

佑助「でももう負けたからやりたい放題だから、アリの巣に大量の蜂蜜流し込んだって辞職しなくていいし」

波留「次期選挙で票が入らなくなるくらいの噂が立つだけで、現職も辞職まではしなくていいよ、それなら」

佑助「ちょっとキツめのブーメランパンツでスーパー銭湯入ったところで、あのおじさん元気だなぁ、と言われるくらいだから、負けたほうは」

波留「勝ったほうも、自信満々な市長だなとしか思われないよ!」

佑助「鳥栖のサッカーチームのホームゲームで、オウンゴールした選手を強くディスっても『それは言い過ぎ』って言われないから、負けたほうは」

波留「本当に言い過ぎた場合は隣のサポーターから注意されるよ」

佑助「鳥栖のホームスタジアムのスタジアム・グルメをちょっと残して捨てても、何も言われないから」

波留「それは見てた人からはだいぶ嫌な顔をされる上に、あの人、選挙に立った人じゃない? ってなると思うけど」

佑助「鳥栖のホームなのに、あえてアウェイ席に座っていても何も言われないし」

波留「どちらかと言えば向こうのサポーターなんだって思われるだけだからね、鳥栖に住んでいるけども本当に好きなのは浦和みたいな感じになるだけだからね」

佑助「鳥栖のスタジア……」

波留「サッカーばっかりだな! そのおじさん!」

佑助「いや俺の鳥栖の知識がサッカーしかないんだよ」

波留「佑助ってそんなにサッカー好きだったっけ? そのくせに私の応援とか来ないじゃない」

佑助「いや幼馴染の応援には行かないだろ! 恥ずかしいだろ!」

波留「別に来てくれればいいのに、じゃあさ、高校違っても土日の応援には来れるでしょ? 来てよ、応援」

佑助「まあ十票差で行けなくなるかもしれないけども」

波留「何の投票!」

佑助「行く、行かない、の、投票」

波留「佑助の一票で全部決まるでしょ! 母数一票の投票で十票差付かないでしょ!」

佑助「いやでもそこはクラス全員で決めるから」

波留「何で佑助が私を応援しに行くか行かないかをクラス全員で決めるの! 仲良すぎでしょ!」

佑助「別の高校の人間は全員敵だ派がいて」

波留「何か嫌な高校! その高校やめたらっ! というか十票差で行けなくなるって、敵だ派のほうが基本多いんかい!」

佑助「いやそこは俺の演説が下手で」

波留「演説下手はどうにかしなさい! 今後の人生にも響くから練習しなさい!」

佑助「口下手な俺が応援行ったところで、全然良い応援にはならないしなぁ」

波留「口下手と応援は全く関係無い! 声の大きさだから大丈夫!」

佑助「いやでも俺が応援したことによって、十票差で負けるかもしれないよ?」

波留「票で勝負してないから大丈夫! サッカーだから! 得点で勝負しているから!」

佑助「いや引き分けで終わったら、最後投票するんだろ?」

波留「PKするから! 観客の投票でどっち勝ったかやんないから!」

佑助「いやまず自分たちで投票するでしょ、十一人と十一人と、あと両チームの監督入れての投票」

波留「その場合は全員自分たちのチームに投票するから、完全に同数の引き分けになる!」

佑助「いやでも引き分けはもはや私たちの負け派がいて」

波留「いないよ! サッカーは結構嘘でも負けって言わないほうのスポーツだから!」

佑助「じゃあ観客勝負の投票になって十票差で負ける、俺が応援していたせいで」

波留「そんな卑下しないでよ! 佑助の応援は力になるよ! 大丈夫!」

佑助「でも俺、息がクサくて、周りのサポーターをヒかせちゃうんだよね」

波留「その場合は口臭チェックをちゃんとして!」

佑助「でもとあるおじさんが『コイツ、めちゃくちゃ口臭チェックしてました!』と言いふらし始めてさ」

波留「何その嫌なおじさん!」

佑助「あのジジイ、選挙で負けたほうだからってやりたい放題しやがって」

波留「ここで出てきた! と・い・う・かぁっ! 投票で勝負しねぇから!」

佑助「そっか、じゃあ、応援行けるかもしれないな」

波留「応援来てよ! 言い方悪いけども、枯れ木も山の賑わいだから!」

佑助「どうせ俺なんて枯れ木ですよ……」

波留「あっ! 言い方悪くてゴメン!」

佑助「渋い紳士で、熊の拠り所」

波留「何かよく分からないけども、良いほうで受け取っていた!」

佑助「熊の爪とぎに最適だから、よっしゃっ!」

波留「喜んでいた! よく分からないけども喜んでいた!」

佑助「十票差で熊が爪とぎに最適だと言ってくれた」

波留「誰と勝負していたんだっ」

佑助「枯れ木状態の俺と、生身の波留」

波留「いやその場合なら十票以上の差で佑助が勝つでしょ! もっと大差つくでしょ!」

佑助「いやもうギリギリの勝負だったね、でも最後は枯れ木が根性見せました」

波留「もっと根性見せろ! 生身の女子といい勝負するな!」

佑助「波留の鍛えた硬い筋肉も爪とぎに良さそう、という意見もありました」

波留「その熊、馬鹿だろ! 全然枯れ木のほうがいいだろ!」

佑助「でもまあ最後に樹液を配って勝利しました」

波留「いや賄賂渡した! 最後の最後で賄賂渡して勝った!」

佑助「枯れ木の根性」

波留「枯れ木の根性腐ってるな! 根が腐ってるな! そろそろ根から崩れ倒れるだろうな、その枯れ木!」

佑助「というわけで枯れ木なんで、波留の応援行くよ」

波留「本当にっ? 本当に来てくれるっ? やったぁっ!」

佑助「……嬉しいの?」

波留「嬉しいよ! だって応援に来てくれるんでしょ! 絶対頑張れるじゃん!」

佑助「でも彼氏でもないのに男が応援っておかしくない?」

波留「別におかしくないよ」

佑助「他のサッカー部員からアイツは本当に彼氏じゃないのか投票されて、十票差で彼氏に認定にならない?」

波留「何で彼氏だと思われる可能性が高いと踏んだんだよ!」

佑助「いやまず俺ってカッコイイし」

波留「普通だわ! 一緒にいて全然緊張しないわ!」

佑助「身長も高いし」

波留「高くないわ! 身長160センチくらいは普通の中三男子だわ!」

佑助「でも高校になったら伸びるから!」

波留「伸びてから言えよ!」

佑助「カッコイイのパロメーターも伸びるし!」

波留「伸びてから言えよ!」

佑助「一票差で彼氏に認定か……」

波留「何でまだ認定のほうが勝ってると思ってんだよ!」

佑助「お似合いだから」

波留「にっ……似合ってないから! 枯れ木と女子が釣り合うわけないじゃん!」

佑助「でも賄賂という観念があります」

波留「マイナスに働くわ!」

佑助「全然付き合えないじゃん」

波留「もうただただ付き合おうとするな! 急にどうしたんだっ!」

佑助「満票で付き合いたい」

波留「急に本当にどうしたんだよ! そういういじりはダメだって言ったじゃん!」

佑助「満票で付き合いたい」

波留「仮に投票で決めるなら一票だから! 私の一票しかないから!」

佑助「じゃあどっちにしろ満票じゃん、分かりやすっ」

波留「一票の時に満票という言い方するな!」

佑助「満票で付き合いたいし、満票で付き合いたくない」

波留「何だよ! ただの満票マニアかよ!」

佑助「十票差とか嫌だよね、やっぱり満票に限るよね、結果は」

波留「そりゃそっちのほうが諦めがつくけども!」

佑助「だから十票差で負けたら本当、泣きたい放題だよね」

波留「そうだね、やりたい放題というか正直泣きたい放題だよね」

佑助「もし俺、何かで十票差で負けたらもう本当出家するかもしれない」

波留「それはまあ勝手にすればいいけども」

佑助「ハワイに出家するかも」

波留「癒しの旅行じゃん」

佑助「ナッツのチョコ、買ってくるから」

波留「普通に帰ってくる気じゃん、小さめのやりたい放題じゃん、もういいよっ」


 俺は録音をストップさせた。

 すぐさま波留が、

「フリースタイルだといろんな方向に話が進むね、でも佑助、あんまりそういういじり止めてって言ったじゃん!」

 顔を近づかせ、ちょっと凄みを利かせて睨んでいる風だが、どう考えてもあまりに可愛いので、つい吹き出して笑ってしまうと、

「そんな面白い顔してた? にらめっこじゃないんだからさ、というか本当そういういじり止めてよ」

 と今度は、顔をそっぽ向かせてしまったので、俺は波留の顔が見たいので、こっちに振り向いてほしくて喋り始めた。

「いじりじゃなかったらどうする?」

 ……あっ、いきすぎてしまった、つい、何かテンションで言ってしまった。

 漫才中の応援に来てほしいという台詞が嬉しすぎて、つい口走ってしまった。

 というかそれこそ漫才中の繋ぎの言葉なんだから、本気にしたらダメなのに、何か、何か、もう、応援したいわ、波留のこと近くで応援したいわ、そういういじりを始めたのは、そっちが先じゃん、あぁ、もう、何なんだよ、何なんだよ、おい。

「何、私と付き合いたいの?」

 振り向かない波留の顔を見たい、単純に顔色を確認したい気持ちもあるし、純粋に波留の顔が見たい。だから。

「いじりに決まってるじゃん! ゴメン! ゴメン!」

 そうハイテンションで言うと、波留は勢いよく振り向き、その振り向いている遠心力を利用して強めに俺の肩を叩き、

「そういうの止めろって言ってるじゃん! もう!」

「痛いっ、でもさ、波留も漫才中の繋ぎとは言え、応援に来てほしいみたいなこと言うなよ。ちょっとビックリするじゃん」

 軽めに放ったつもりの台詞だったが、波留はこの俺の台詞に強く動揺をしたかのように見せた。

 ビクッと前髪を揺らし、硬直したのであった。

「いやいや、何か、ビックリしたんだけども……」

 思ったようなリアクションにならず、どんどん語尾が弱くなる俺、最後は宙に消えていった。

 ちょっとした沈黙、それを急に引き裂くような大きな声の波留。

「いや! 別に! 応援されたら嬉しい! それだけじゃん!」

「あぁ! そうそう! そうだよな! そりゃそうだよな! 応援されると嬉しいもんなぁっ!」

 俺は慌てて同調し、当たり前だよな感を出した。

「何ビックリって、ビックリするようなことなんてないじゃん、応援されたら嬉しい、それだけ、他意は無い!」

 ――家に帰ってからこの波留の”他意は無い”が脳内で何度も繰り返された。

 自分の意図ではなく、勝手に。

 まさか波留も俺のことが少しは気になっているのか、いや考えすぎか、それは自分に都合が良すぎる、だって波留と俺は住む世界が違うんだから、住む世界が違うと、気付かされたんだから。

 きっと波留だってそう思っているはずだ。内心は波留だって……ダメだ、こんなこと考えていると、どんどん憂鬱になってくる。今日は早く寝よう。寝られるはずもないけども。

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