08 題材は祭り

・【題材は祭り】


『二〇一九年 二月十七日(日曜日)』

 今日はこういう漫才をしたいと最初に伝えてから始めた。

 昨日みたいなことが無いように。


佑助「はいどうも、よろしくお願いします。今日はものすごい祭りを紹介します」

波留「そっちから何か教えてくれるわけね、どんな祭り?」

佑助「それはモチ吸い名人レベル」

波留「モチを吸って飲みこむ名人と比べられても、よく分かんないけども」

佑助「それはモチ吸い名人レベル、それはモチ吸い名人レベルなのだ」

波留「計三回言われたところでだよ、早く本題を始めなさい」

佑助「ニシ・ダイジHEY! YO! って、知ってる?」

波留「それ日本の祭り? 威勢の部分が英語なんだけども」

佑助「いやニシ・ダイジって言ってるじゃん、日本語の祭りだよ」

波留「西大事? 西大事って、そんな関西色丸出しの人じゃないんだから。何か覚え間違えていない?」

佑助「いやいや! 絶対に、ニシ・ダイジHEY! YO! だったよ」

波留「自信持ちすぎると話って進まないものだよ、どんな字だったかちょっと教えてよ」

佑助「口頭で?」

波留「まあ口頭にはなってしまうけども」

佑助「背中に文字書かなくていい?」

波留「それはちょっと別の意味で拒否もしちゃうかな」

佑助「じゃあまず西、そして大きい、で、寺」

波留「寺! 西大事の大事って大切とかの大事じゃない!」

佑助「でもまあ言葉にした時、その大事になると思うんだ」

波留「言葉にした時って何だよ! 言葉にした時もその漢字で発せ!」

佑助「いやでも漢字は寺だとしても、いざ言葉にした時は大切とかの大事になるでしょ」

波留「ならないよ! 漢字だったのをカタカナの感覚で言うとかはあるかもしれないけども、字が変わるのは無いよ! というかそれだと多分”さいだいじ”だよ!」

佑助「最大の痔だなんて、そういう言葉は言わないでよ。こっちは男子だよ?」

波留「女子だよ? みたいに言うな! 最大の痔なんて言ってない! さいだいじ! 西大寺!」

佑助「じゃあ、西大寺って読むのね、分かった、それは納得した」

波留「で、HEY、YO、の漢字を教えなさいよ、漢字なんでしょ、本当は」

佑助「漢字は漢字、ただ絶対波留も発する時にはHEY! YO! と言っているだろうね」

波留「発する時も漢字で発してやるわ」

佑助「漢字は、人と会うの会う、太陽、陰と陽の陽」

波留「じゃあ”えよう”だろ! 西大寺会陽だろ! 岡山市の祭りだろ!」

佑助「最大の痔HEY! YO! ……ちょっと、もう痔がデカすぎて正気を失っているじゃないか」

波留「西大寺会陽って言ってるだろ! 空元気飛ばしまくってる人たちの祭りじゃねぇよ!」

佑助「いやまあ祭りの内容とかは正しく知っているよ? こっちだって」

波留「じゃあ言ってみろよ! ただ何だかいろいろ間違えていそうだなぁ!」

佑助「まず風呂待ち時代に始まったとされるんだ」

波留「大家族か! 風呂を待ってるって! 室町時代なっ!」

佑助「室町時代ね、じゃあもう乾いたタオルを持って脱衣所で待ってなくていいのね」

波留「風呂の順番待つ時は脱衣所で待つな! 脱衣所の外で待て!」

佑助「で、回数だけども、今年でなんと佐藤」

波留「……何がだよ! 数を言え! 全国的に数の多い苗字を言うな!」

佑助「あっ、後藤だった」

波留「何の話だよ! というか五百十回目な! 佑助、五百十(510)を後藤として覚えているだろ!」

佑助「そうそう! 五百十回目だよ! 語呂合わせで覚えていたら、語呂合わせしか思い出せなかった」

波留「テストの時のあるあるか! 五百十くらいはスッと覚えろ!」

佑助「境内の明かりが一斉に消された闇夜の午前十時から始めるんだよね」

波留「全然暗くない! 午後十時なっ! 二択というか闇夜って言ってるから、もはや一択なのに!」

佑助「住職が地中約四メートルの穴から大切なアイテムを投げ渡すんだよね」

波留「高さ四メートルの御福窓からな! 何で住職、穴の中にいるんだよ! 住職そのあとどうやって出てくるんだよ!」

佑助「それは普通に梯子じゃないかな」

波留「嫌だろ! 穴にいるヤツからスタートする祭り!」

佑助「いやでもあるかもしれないじゃん、穴スタートの祭り」

波留「聞いたこと無いわ!」

佑助「で、そのアイテムというのが、福を呼ぶとされる鎖鎌」

波留「鎖鎌投げ入れねぇよ! 危ないだろ! 木の棒!」

佑助「そう、木の棒の紳士」

波留「宝木! 宝の木と書いて宝木(しんぎ)と言うんだよ! 木の棒の紳士って何だよ! 相当佇みそうだなっ!」

佑助「それを奪い合うスーツ祭り」

波留「裸祭り! スーツで木の棒を奪い合う祭りなんて無いんだよ! スーツで五百十回目じゃないんだよ!」

佑助「ちょっと温めたオリーブオイルで体を清め」

波留「何だよ! セレブのマッサージか! 冷水な!」

佑助「体から湯葉を発する男たちが宝木を奪い合い」

波留「湯気! そんな怪人・大豆人間だらけじゃない!」

佑助「境内には裸の馬が出来た」

波留「多分渦! 比喩的表現さえも間違えるな! 何だよ裸の馬って! 二人一組でケンタウロスでも作っていったのかよ!」

佑助「ケンタウロスは馬じゃなくてケンタウロスだから、別物だから」

波留「渦なんだよ! まず渦なんだよ!」

佑助「そして宝木を手にし、境内に出た男性が今年の紳士になった」

波留「福男なっ! 裸で宝木奪い合った結果、紳士にはならないだろ! もっと佇め! 戦局を見極めろ! それが紳士だ!」

佑助「というのが、俺が紹介したかった祭り」

波留「一文ごとに間違えていたわ! もっとちゃんと覚えろよ!」

佑助「いやでもさぁ、湯葉発するほど奪い合うってすごいね」

波留「湯気! 一番奇妙なところを覚え直せ!」

佑助「もう脱皮しているように見えるだろうね」

波留「湯葉だったらな! 湯気って言ってるだろ!」

佑助「その湯葉を財布の中に入れたら金運アップしそう」

波留「湯気! 何、蛇の皮みたいに思ってるんだよ! 湯気だからな! 嫌だろ、財布の中にビチャビチャの湯葉!」

佑助「湯気か、ということはその場合、財布全体を湯気で湿らせる、と」

波留「いや金運アップしないから! 裸の男から発せられるもので金運アップしないから!」

佑助「確かに裸の男から発せられるもので金運アップしていたら、銭湯潰れないもんね」

波留「銭湯基準に考えないとその答えにたどり着かないか!」

佑助「たどり着かなかった、でも今たどり着いて良かった」

波留「何だよその一文! いらねぇ一文だなっ!」

佑助「そうそう、湯気ね、湯気、湯気でもすごいもんね、湯気発するほど奪い合うなんて」

波留「まあ紳士は湯気発するほどに奪い合うことなんてしないだろうね」

佑助「波留は結構湯気発するほど奪い合うほう?」

波留「どんな質問だよ! 奪い合わないわ!」

佑助「レギュラー争いとか」

波留「じゃあ奪い合うわ! 湯気出るほど奪い合うほうだわ! 私!」

佑助「でもそこまでして福男になりたいかな、レギュラー争いなら分かるよ、状況としてそうなるってことだから。でも福男になったと言っても、なったわけではないじゃん、厳密には」

波留「祭りにそういう観点を持ち込むな、いいんだよ、一位になれたっていう名誉が嬉しいんだから」

佑助「それなら住職になりたいよ、結局住職に躍らせれているだけだからね、みんな」

波留「いやまあ、その宝木を持っているのは住職だからね。でもそういう観点を持ち込むな」

佑助「俺も穴から投げたいよ」

波留「いやだから穴から上へ投げるんじゃないんだよ!」

佑助「助けて、と、書いた紙を穴から投げたいよ」

波留「やっぱり出れなくなってるじゃねぇか! もういいよっ」


 俺は録音をストップさせた。

 今日は裸とか出てきたけども、下ネタ方向に行かなくて良かった。

 まあ最初から西大寺の祭りを説明する、という説明をしたからか。

 でもこうすると一気に型にハマった漫才になるから、個人的にはあんまり好きじゃないんだよなぁ。

「何か今日の漫才は大変だったなぁ」

 波留は肩を回しながら、体をリラックスさせながらそう言った。

「波留のやらないといけないことが多いからね、まず最初に正しい文章を覚えないといけなかったし」

「こういう漫才は安心感があるけども、ちょっとキツイかも」

 波留も同じようなことを考えていたのなら、やはりこの形式の漫才はあまりやらないほうがいいのかもしれない。

「佑助、今まで通り、フリースタイルな感じでやっていこう」

「いやまあ俺もそれがいいな、とは、思ったんだけどさ。でもこうすれば何か、変な方向に持っていきづらいだろ?」

「いやいや、昨日の夜考えたんだけどさ、あれは私が変な感じになっちゃっただけだって気付いたの」

 というかまず、昨日の夜も俺とのこの漫才のことを考えてくれたことが嬉しすぎる。

 波留は続ける。

「変に深堀もしちゃったしさ、佑助が私のこと困らせようとするわけないのに」

 ゴメン、ちょっと困らせたい気持ちは存分にある。

 でも俺のそんな気持ちは知らず、波留は元気いっぱいに、

「だからまた自由に作っていこう!」

「うん、そうだな、でもたまにはまたこういう漫才になるかもしれないけどもな」

「たまにはいいよ、たまには」

 昨日から含めていろいろあったけども、漫才を作ることが日常になってくれていて、俺は湯気が出そうなほど嬉しかった。

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