11 架空の奇祭漫才

・【架空の奇祭漫才】


『二〇一九年 二月二十日(水曜日)』

佑助「はいどうも、よろしくお願いします」

波留「満月が富士山頂に沈む、パール富士が見れたみたいだね。また今日はスーパームーンで、朝焼けで赤く染まった山頂に丸い月という幻想的な風景だったらしいね」

佑助「俺も見た」

波留「いやここから富士山遠すぎるから、絶対嘘でしょ。あっ、テレビでってこと?」

佑助「裸眼で」

波留「いや裸眼だろうけども、メガネ掛けていないから。でも裸眼って言い方はメガネ掛けている人のオフ状態を言うわけで」

佑助「細かいな、じゃあ肉眼、これでいいだろう」

波留「まあそう、その言い方が妥当。でも嘘は嘘でしょ」

佑助「本当だって、バウム武士だろ?」

波留「いや全然違う! パール富士! 真珠と富士山みたいなヤツ!」

佑助「あっ? バウム武士の話じゃなかったのか」

波留「いやバウム武士って何っ! ちょっと気になるわ!」

佑助「武士というのは、まあ侍とか、そういうの、ちょんまげのヤツね」

波留「武士のことを最終的にちょんまげのヤツて、荒い言い方するなぁ」

佑助「で、バウムはバウムクーヘン」

波留「バウムクーヘンだった!」

佑助「武士のちょんまげにバウムクーヘンが引っかかるところを肉眼で見た」

波留「何どういうことっ? 偶然なのっ? それとも意図的になのっ?」

佑助「勿論、意図的にだよ。神輿に乗せられた武士のちょんまげにバウムクーヘンを引っ掛けるという祭りだよ」

波留「奇祭! なかなかの奇祭!」

佑助「まず神輿に乗せられているわけだから、ワッショイ・ワッショイとその武士は上下に揺れているわけで、そのちょんまげに向かってバウムクーヘンを輪投げのように入れるんだ」

波留「結構ゲーム性があるんだね」

佑助「そう、最初にバウムクーヘンを入れられた人が今年の一番福」

波留「一番福って結構どこでもやるんだね……」

佑助「ちなみにバウムクーヘンは自腹で用意する」

波留「それを投げるって、もったいない感じがするなぁ」

佑助「いやでもほしいじゃん、一番福」

波留「でも元手無しでならいいけども、お金払って一番福は、私はいいかなぁ」

佑助「俺はほしくてさ、喫茶店からバウムクーヘン持ってきて」

波留「何で普通の袋に入っているバウムクーヘンじゃなくて、皿に盛り付けされてるヤツを持っていくのよ」

佑助「だからバウムクーヘンに、ちょっと生クリームが付いていたよ」

波留「武士に目がけて投げるんだから、生クリームとかは無しでいきなさいよ! マナーが悪い!」

佑助「マナーが悪いで言えば、カットしていない、めちゃくちゃデカいバウムクーヘン投げつけるヤツのほうが悪いよ」

波留「それはかなりマナーが悪いねっ! もうただの憂さ晴らしで投げつけるみたいな!」

佑助「まさしくそういうヤツもいるんだけども、さすが武士だよね、大半のバウムクーヘンは斬ってしまうんだよ」

波留「あっ! 抵抗するんだ!」

佑助「武士だからね、やすやすとちょんまげを捧げないよ」

波留「これはゲーム性も高いし、考え方によってはチームワークも必要ね」

佑助「そうなんだよ、まさにそうなんだよ、俺もチームを組んでさ、俺はおとりバウムクーヘンなんだ」

波留「おとりバウムクーヘンという新しい単語」

佑助「生クリームのあるバウムクーヘンで視界を覆ってしまおうって」

波留「あっ、意図的な生クリームだったんだ! それはそれで汚い!」

佑助「まあ確かに喫茶店で出てきた瞬間に、つい『旨そう!』と叫んで、ツバ飛んじゃったけどな」

波留「全然そっちの汚いじゃなかったけども」

佑助「で、おとり隊が俺以外に三人いて、さらに武士の刀を打ち落とそうとする火縄銃部隊もいて」

波留「合戦か! かなり用意周到じゃん!」

佑助「火縄銃部隊を用意していたのは、俺たちのチームだけだった」

波留「じゃあやりすぎてる!」

佑助「歴史上、俺たちのチームだけだった」

波留「完全に反則の範疇でやりすぎてる!」

佑助「火縄銃部隊は後に罰金払わせられていた」

波留「いやトカゲのしっぽ切りすんなよ! 佑助たちも、おとり隊も本隊も払えよ!」

佑助「おとり隊と本隊は本当に仲間じゃないフリをした」

波留「最低だな! そういうのチーム戦で一番やっちゃいけないからな!」

佑助「でも火縄銃部隊も『同じ立場なら俺らもそうしている』と言ってくれたから大丈夫だった」

波留「優しいな火縄銃部隊! そんな優しいヤツらに火縄銃を扱わせるな!」

佑助「というわけで、おとり隊がバウムクーヘンを投げたんだけども、全部うまいこと武士に生クリームだけ舐められて」

波留「武士、生クリーム大好きだった!」

佑助「本隊のバウムクーヘンも簡単に切られて」

波留「武士強い! 神輿の上という不安定な場所でめちゃくちゃ強い!」

佑助「結局今年は誰もバウムクーヘンをちょんまげに掛けることはできなかったよ」

波留「あぁ、残念だったねぇ……いや見てない! じゃあバウム武士見てない!」

佑助「いや、そういう誰も掛けることが出来なかった年は、市長が形式的に武士のちょんまげにバウムクーヘンを掛けるんだ」

波留「何その盛り下がる最後! 今年は無しで、に、なったほうがマシ!」

佑助「それ見てまばらな拍手」

波留「やっぱりまばらなんだ! その形式的なヤツは止めてしまえ!」

佑助「赤く染まった武士のちょんまげにバウムクーヘンは掛からなかったなぁ」

波留「あっ、そのバウム富士も朝にやっていたんだ、朝焼けで赤くなったんだね」

佑助「いや、血だね」

波留「何で血が!」

佑助「バウムクーヘンだけ切るつもりが、ちょっとだけ自分の頭も切ってしまったみたいで」

波留「やっぱり神輿の上という不安定な場所では、ちょっとミスが起きてた!」

佑助「まあこれがバウム武士だね」

波留「そっかぁ、そういうのもあるのかぁ……いやねぇだろ! そんなん!」

佑助「いやいや本当にあるんだって、波留はこの世の全ての祭りを把握しているわけじゃないだろ?」

波留「いやそうだけども、まず武士って何だよ! どこから出てきたんだよ、その武士!」

佑助「そりゃタイムスリップに決まっているじゃないか」

波留「決まってねぇよ! というかタイムスリップなんてねぇから!」

佑助「去年一番タイムスリップした武士が、その武士に選ばれるんだって」

波留「去年一番タイムスリップした武士って何だよ! マジでよく分かんないから!」

佑助「本当にあったのになぁ、でもさ、パール富士も本当にあったの?」

波留「パール富士はあったよ! 割とあるよ! 貴重なニュースみたいに紹介したけども、実際まああるよ!」

佑助「満月が富士山頂に沈むって、富士山頂に吸われているの間違いじゃないの?」

波留「そっちのほうがおかしいだろ! 吸われてるって何だよ! というかどっちにしろ見た目一緒だしなぁっ!」

佑助「スーパームーンって本当に存在するの? 大きく見えるだなんて、ちゃんとメガネ合ってる?」

波留「全員が全員メガネじゃないだろ! 現に佑助もメガネじゃないし! 私もメガネじゃないし!」

佑助「いやパール富士を見ようとするヤツなんて大体メガネでしょ」

波留「どういう種の偏見だよ! 悪いようにも感じられない、ホントどういう種の偏見だよ!」

佑助「勉強ばっかして、自然現象を調べて、美しいモノを見ようとするなんて、本当大体メガネでしょ」

波留「全然悪口じゃないな、その偏見! 良い偏見って何だよ!」

佑助「いやメガネの人に対して目は悪いと思っている」

波留「それはまあ事実だからな! 事実だから言ってもいいというもんじゃないけども『メガネは目が悪い』はまあそれなりの事実だからな!」

佑助「いやでも本当スーパームーンなんて見たことないし」

波留「私は普通にあるけども、部活が遅くなって空見たら月がいつもより大きいの見たことある」

佑助「夕方頃から人間は寝るもんだろ」

波留「大体の人はそんなに早くから寝ない! ただ佑助がスーパームーン見たことないだけじゃん! それに今回のスーパームーンは朝焼けだから、朝だから、朝も早く起きないの?」

佑助「朝は家でゲームだろ!」

波留「よくそんなんで進学校に推薦で入れたな!」

佑助「地頭が良いんだよ」

波留「そんなクソみたいな直球の自慢は止めろ!」

佑助「地頭が良い人間から言わせて頂くと、朝焼けって何だよ、赤いって何だよ」

波留「何でそこが全然分かんないんだよ! 地頭よく無いわ!」

佑助「イチゴ味のバウムクーヘンか」

波留「イチゴ味のバウムクーヘン以外に赤い色いっぱいあるだろ!」

佑助「いやイチゴ味のバウムクーヘンはそんな赤くないわ、薄いピンク色だ」

波留「じゃあ何で赤の流れで言ったんだよ!」

佑助「魔が射した」

波留「ただの馬鹿なんだよ! もういいよっ」


 俺は録音をストップさせた。

 吸われている、で、エロい方向にいくかなと一瞬思ったけども、別に吸われている、は、エロ用語じゃなかったので、そういう方向にはいかなかった。

 そんなことをちょっとでも考えてしまうのは、やはり最低だな俺。

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