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『二〇一九年 三月一日(金曜日)』

佑助「はいどうも、よろしくお願いします」

波留「ネットの広告費が首位のテレビに迫っているみたいだね、五年連続で二桁増えて」

佑助「順位はどんな感じなの? テレビ、ネット、雑誌、砂浜に書くの順?」

波留「砂浜に書くはそもそも存在しない。テレビ、ネット、新聞、雑誌、ラジオの順」

佑助「タトゥーは?」

波留「海外のピザ会社でそんなんあったけども、それもほぼ存在しない」

佑助「スポーツのユニフォームは?」

波留「いやどんどん正しいほうに近付くな! 飛躍してボケていけよ! その情報は入っていないです……まで近づいてくるんじゃない」

佑助「砂浜に書くが秀逸過ぎて、それを越えられない」

波留「そう言ってしまうほど秀逸ではなかったよ! まあとにかくメディアのランキングだから」

佑助「メディアね、広告出すならやっぱりもうネットかな」

波留「まあそうなんじゃないの? 予算の関係もあるけども」

佑助「ラジオは安いって聞く、ハム三枚でしょ」

波留「そんなに安くは無いし、ハムでやり取りする世界はきっと無い」

佑助「いや、ハムと言っても生ハムだから」

波留「高級だからみたいに言われても所詮ハムだから」

佑助「そんな開幕戦は日本ハムみたいな風に言われても」

波留「所詮って初めての戦いの初戦じゃないから、開幕戦みたいな話はしていません」

佑助「いやでも生ハムでも特に特上の、障子紙の代わりになるほどの生ハムだから」

波留「障子紙の代わりになる生ハムなんてないから! ピンクじゃん!」

佑助「いやもう脂身ばかりで白だから」

波留「脂身ばかりの生ハムは特上じゃないでしょ!」

佑助「じゃあもうハッキリと特上中の特上の話を出しますよ!」

波留「何ちょっとイライラしてるんだよ、どっちにしろマジで無いからな、生ハムは」

佑助「笹団子の笹の代わりになる生ハム三枚!」

波留「それはもうハム団子じゃん、そんなん聞いたこと無い、ぶっちゃけ障子紙以上に聞いたこと無い。というかさ、その生ハムは実際何円なの?」

佑助「値段は付けられないってヤツだよ、もはやかぐや姫が結婚相手に欲しがった品くらいのレベル」

波留「それだと存在しないという話になるけども、ラジオの広告費は想像の限界以上に高いということになるけども」

佑助「広告ってそれほど力のあるものだから」

波留「いやそもそも安いって話をしていたんだけども、あれでしょ、地方のラジオCMだと三十秒で五万円でしょ、確か」

佑助「えっ、お年玉を溜めれば俺も広告出せるじゃん、それなら」

波留「確かにまあ二年くらい溜めれば出せそうだけどもね、でもどんな広告出したいんだ」

佑助「波留の修行場所募集」

波留「勝手に私の修行場所を募集するな、普通に強豪校の高校に進学するから大丈夫だし」

佑助「やっぱりブラジルじゃないですかね、とか情報が入ってくるとは思うんだ」

波留「いや女子サッカーの本場はアメリカと欧州だから、普通に間違った情報が入ってる」

佑助「いやいや、花嫁修業の話さ」

波留「ブラジルに花嫁修業なんて行かないから! 日本人なら日本人の場所で花嫁修業するわ!」

佑助「でも魅惑のステップで生け花したりしない?」

波留「しないわ! 何でサッカーの武者修行と日本の花嫁修業が混じってるんだよ!」

佑助「食器洗いでゴラッソ決めない?」

波留「食器洗いでゴラッソ決めたら、十中八九、皿を割ってるだろ!」

佑助「割るのはゴールラインだけにしてくれよ」

波留「何もうまくない!」

佑助「他の男とマリーシアしない?」

波留「他の男と狡賢くって、それはもう浮気してるじゃん! ブラジルの男と浮気に走ってるじゃん!」

佑助「夜のカテナチオしない?」

波留「何だよ夜のカテナチオって! ただのナイターの守備じゃん! 花嫁修業が完全にどっかいった!」

佑助「いやこれは結構下ネタのつもりで言ったんだけども、サッカー馬鹿だから通じなかったか」

波留「じゃあ下ネタを言うな! でも分かんないから! 私はサッカーのことしか知らないから!」

佑助「初心な私にカテナチオを教えて下さい、ってヤツか」

波留「いやだからそれは、フォワードからコンバートされた選手がこれからディフェンスを教えて下さい、という台詞!」

佑助「いや下ネタなんだけどなぁ」

波留「何でカテナチオが下ネタなんだよ! 何か似た単語でもあんのか!」

佑助「あっ、チオ言わない派? 確かにチオは省略することが多いからね」

波留「いやあるんかい! チオが付く下ネタあんのかい!」

佑助「じゃあまああえて教えるのもアレだから、ここは大人しく引き下がるよ」

波留「そうして! わざわざ下ネタを教えられたくはないから引き下がって!」

佑助「貴方を四六時中ホペイロします、みたいな感じ?」

波留「それ結構今の時代じゃ男尊女卑だからね、奥さんを用具係として扱うって」

佑助「そうか、確かにそうだな、じゃあ時にはホペイロのようにホッペ・ペロペロ」

波留「急にアホみたいな単語出てきた!」

佑助「いやだって波留が下ネタ事情に詳しくないからさ」

波留「いや別に下ネタ欲してないから! 積極的じゃないから!」

佑助「下ネタに鬼プレスしてなかった?」

波留「全然プレスしてない! 下ネタには壁作るほうの守備してた!」

佑助「いやでも花嫁修業にはそういう一面、俺はあると思う」

波留「まず花嫁修業したいとは言ってないから! しかもブラジルで! サッカーにまみれたほうの花嫁修業を!」

佑助「でも波留もいつか花嫁になるんだから、修行していたほうがいいって」

波留「まだ全然なる気無いし、そもそも彼氏すらいないし!」

佑助「彼氏候補くらいはいるでしょ」

波留「…………いなぁい!」

佑助「何だその間と大きな声は」

波留「いないったらいない! というかそもそも広告の話でしょ! 何でこんな話に!」

佑助「中学生に広告の話はそもそも難しいよ」

波留「じゃあ何でこの話題を持って来たんだ!」

佑助「でもネット広告って怖いヤツもあるよね」

波留「怖いって? 私あんまりネットしないから分かんない」

佑助「いや怖い漫画の一シーンみたいなのがあるんだよ」

波留「漫画かっ! いやそれは大丈夫でしょ」

佑助「いや怖いのっ、良くない感じのエロで怖いヤツがあんの」

波留「いや下ネタの話はしなくていいんだよ!」

佑助「あれ? 欲してなかったっけ?」

波留「全然欲してない! 下ネタは全く欲してません!」

佑助「ピンクを欲していたりしなかったっけ?」

波留「いやいや! 一度もそんなこと言ってない!」

佑助「嬉しそうにピンクじゃんとか言ってたような」

波留「言ってないって!」

佑助「……あ、あれ、生ハムの時だった」

波留「豚肉のピンクは確かに一回言ったわ! でも全然下ネタじゃないし!」

佑助「でも生ハムって、食感も含めてちょっとエロいよね」

波留「全然そう思わない! 食感も含めてとか全然分かんないし!」

佑助「舌にまとわりつく、ねちょっとした感じが何かすごいよね」

波留「女子に話すな! そんな話を女子にするんじゃない!」

佑助「危険な行動にはレッドカード出るけども、ファンサービスには生ハムを審判が出す。ファンサービスはエッチだから」

波留「ファンサービスってエッチな目的じゃないから!」

佑助「いやでもゴールパフォーマンスでハートマーク作るブラジル人いるじゃん、アイツにはもう生ハムだよ」

波留「アイツにはもう生ハムだよ、って何だよ! そんな言葉存在しないから!」

佑助「脱ぐヤツにも生ハムだよ」

波留「脱ぐヤツには普通にイエローカードだよ!」

佑助「何でイエローもらうって分かってるのに、脱ぐんだろうね」

波留「それは全然分かんないけどもねっ」

佑助「女子のサッカーも脱ぐ? 脱ぐんなら応援に行くけども」

波留「何目的で応援しようとしてるんだよ! いや正直海外のプロ選手で一回見たことあるけど、日本の高校生は脱がないよ!」

佑助「日本の高校生よ、脱ぎなさい、という広告出そうかな」

波留「最低の広告! 絶対出すなよ!」

佑助「ところで波留って点を獲るポジションだっけ?」

波留「何を期待してんだよ! ホント佑助ってユースケベ!」

佑助「獲るポジションかどうかだけ耳打ちして」

波留「耳打ちじゃなくていいだろ! 獲るポジションだわ!」

佑助「厚着して試合に挑むといいと思う」

波留「動きづらいだろ! というか見たいのっ? 私の脱いだとこ見たいのっ?」

佑助「全然普通」

波留「全然普通は失礼だろ! 逆に良くないだろ! 見たいって言えよ!」

佑助「見たいと言ったら嫌われると思って言わなかったけども、じゃあ言うよ、全然普通」

波留「だから失礼だろ! 見たいって言えよ!」

佑助「幼馴染で昔よく一緒に着替えていたから全然普通、ってじゃあ広告で言うよ」

波留「いやもう今言ってる! もういいよっ」


 俺は録音をストップさせた。

 波留はフフッと笑いながら、

「というか佑助さ、よくサッカーの用語知ってるね」

 そう言われて俺はドキッとした、だから咄嗟に誤魔化した。

「まあエロい用語のほうが知ってるけどね」

「そういうこと言うなって! 馬鹿!」

 そう言いながら俺の肩を強めに叩いてきた波留。

 でも言えないんだ。本当のことは言えないんだ。

 波留のことを知りたくて、波留の言葉を理解したくて、サッカー用語をいっぱい覚えたなんて言えないんだ。

 波留は何だか嬉しそうに、饒舌に話しかけてくる。

「ホペイロとかさ、まあ使い方がアレだったけども普通の人は知らない言葉だよ。勉強したの?」

 あれ……やたら突っ込んでくるなぁ、エロみたいな話に持っていけば、そんな話題は消し飛ぶと思ったんだけども。

 じゃあもう一回だ。

「ホペイロはたまたまだよ、ペイチャンネルのペイが入っていたから」

「ペイチャンネルって何?」

 波留、純粋だな! 全然エロい用語知らないじゃん!

 好きな子にエロい用語を教えていくってどんな遊びだよ!

 どうしよう、ここはもう言うしかないだろうな……。

「えっと、ペイチャンネルというのは有料チャンネルのことで、つまり、あの、アニマルプラネットとか、そういう有料のBS放送のこと」

「あっ、そういう言葉なんだー」

 変な嘘のつき方しちゃったな……いつか波留が自分で気付きます様に……。

「でもホントよく知ってたなぁ……もしかして」

 と波留は俺の目をじっと見ながら、

「サッカーのこと勉強してくれてたの?」

 と言って微笑んだ。

 俺はもう顔面が達磨ほどに赤くなったような気がして、すぐさま視線から逃げるように顔を背けた。

 でもそのリアクションが、そのリアクションこそが、勉強してきた丸出しで、

「佑助、優しいね」

 とポツリと呟いた。

 何も優しくは無い、ただ自分が好きで調べただけだ、いや好きだから調べただけだ。

 このまま告白してしまいたいような気持ちが押し寄せてきたが、俺は心をなんとか押し殺した。

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