02 波留の部屋
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・【波留の部屋】
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「久しぶりだね、部屋に来るなんて、どうしたの?」
俺をすんなり部屋に上げた波留。
あんまり男の子として意識していないんだなぁ、と少し残念がりつつも、でもそれによって、噛み合わせの悪いタンスの引き出しのように、ゲツガツ入る入らないの攻防が無く、部屋に来れたのだから、これで良かったんだと自分に言い聞かせながら、喋り出した。
「波留って暇だよね」
言った瞬間に気付いた、直球の悪口だって。
「暇って何よ、まあ暇だけど、それが何なの?」
「あー、えっと、俺たちって暇じゃん?」
「推薦入学決まってるからね」
「暇だからさ、あのさ」
言いたい言葉が出づらくなっている俺。チキン過ぎる。
そんな俺に少し苛立っているような波留は少しムスッとしながら、
「いや早く用件言えって、全然話進まないじゃん」
言うんだ、言うんだ俺……!
「だから、あの、漫才でも作ろうよ、時事ネタ作って、思い出でも作ろうよ」
「急に”作る”が多いなぁっ!」
「いや、嫌なら別にいいんだけど、ほら、暇潰しでさっ」
まだ焦っている俺。
返答聞くまで心臓バクバクだ。
果たして波留の答えは。
「漫才か……まあ暇は暇だしなぁ、私も面白いことは好きだから、う~ん、でも急だね、どうしたの?」
出た! この”どうしたの?”攻撃! 勢いで来ちゃったから正直全然考えていないぞ! どうしよう! どうしよう!
「えっと、今日の朝、波留と会ったら時、その」
「会ったら時て、日本語どうなってんの」
「あのー、会ったら時」
「会ったら時の訂正をしなさいよ、そのまま本当にある言葉みたいに突っ走るな」
「会ったら時、話して楽しかったから、だから、毎日会って、話したいなって」
マジで噛んだ”会ったら時”だったが、それを使って、ボケみたいにして使って、話にリズムを作りつつ、最後は本心をズバッと言ってやった。
こうすれば全体的にボケみたいになって、すんなり受け入れてくれるかなと思っていたが、ここで波留の言葉が止まった。
いや重く受け止めないで! 軽くツッコんで! そして”まあいいよっ”的にゆるく返事して!
いやいや考え込むな! 考え込むな! 口元を手で隠して驚くな!
仕草可愛いけども、今は見なくていいぞ! その仕草!
……まあまあの沈黙のあと、波留が口を開いた。
「……別にいいけど」
……! やったぁっ! 奇跡が起きたぞ! 奇跡が! これから毎日、波留の部屋に来て漫才作れるぞ! 話すことができるぞ! やったぁっ!
「じゃ! じゃあ! 明日から放課後、波留の部屋で漫才作ろうぜ!」
「すごい嬉しそうだね、そんな暇なの?」
少し呆れている様子の波留。
バカな男子を見る目だ。
でも今はまだそれでいい! とにかく今は一緒にいれるようになったことが嬉しい!
「あぁ! そうそう! 暇! 暇! 暇だからだからな!」
「だから一個いらないでしょ、まあいいけど」
そして俺と波留は、明日から漫才を作ることになったのだ。
バレないように、バレないように、だってこれは俺にとっては漫才のネタ合わせではなくて、漫才のネタ逢瀬だから。
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