24 告白
・
・【告白】
・
『二〇一九年 三月五日(火曜日)』
佑助「はいどうも、よろしくお願いします」
波留「……卒業式終わってさ、カラオケとか断ってきてさ、じゃあ漫才だ、ってなってさ」
佑助「うん」
波留「最後の思い出だ、つってさ」
佑助「そうそう」
波留「で、漫才の題材聞いてさ」
佑助「さっきから”さ”ばかりで、何か『あんたがったどこさ、ひごさ、ひごどこさ、くまもとさ』の唄みたいだね」
波留「くだらないこと言ってんじゃないよ、いやまあまだそれが題材のほうがマシだよ」
佑助「いやでもこの題材しか無かったから」
波留「米朝首脳会議の残り香ニュースすらない?」
佑助「全然無い、このニュースだけだった」
波留「いや抜け出してきたのに、佑助に合わせたのに、これはちょっと……」
佑助「とにかく漫才始めるぞ! 女子ハンドPRのコピー! 卑猥と批判!」
波留「どんな題材だよ! 最後だぞ! 最後でこんな題材あるかっ!」
佑助「最初のテは、この、腕の手で『手クニシャン、そろってます。』と『ハードプレイがお好きなあなたに。』の二つのコピーが卑猥と批判があって、取り下げたらしいんだ」
波留「卒業式の日にする題材じゃないだろ!」
佑助「でも高校卒業と同時にそういう業界に飛び込む人もいるからさ」
波留「中学校の卒業式だし、そういう業界って完全に卑猥方面に行ってるじゃん! ハンドボールの話だろ!」
佑助「ハンドボールも高校卒業と同時にだろ」
波留「そんなことは無いわ! スポーツの世界はもうそういうのシームレスだわ! サッカーなら高校生も普通になでしこリーグ出れるし!」
佑助「まあ今日はこんな感じで頑張ろうぜ」
波留「どんな感じだよ! 何で最後の最後でユースケベなんだよ!」
佑助「思い出に残るを一番に考えた時、これだった」
波留「いやどんな思い出の残り方しようとしてんだよ! トラウマになるわ!」
佑助「でもさ、テクニシャンが卑猥って、ちょっとそういうこと考えすぎだよな」
波留「普通に問題提起を始めるな! というか録音で卑猥、卑猥残すな!」
佑助「いや今のは波留のほうがすごいだろ」
波留「とにかく! 終わり! こんな漫才終了!」
佑助「いやいやいや、ここからどんどん問題提起に次ぐ問題提起の社会派漫才になるんだろ」
波留「なんないわ! 焼き具合漫才も変なシンキングタイムに終始してただろ!」
佑助「いやもうテクニシャンに次ぐテクニシャン登場の上質な寄席も始まるし」
波留「大道芸人がいっぱい出てくる寄席みたいに急に言われても! 私と佑助だけだから!」
佑助「波留もテクニシャンじゃん」
波留「全然そういうこと知らないし!」
佑助「いやいや、ドリブラーらしいじゃん、女子サッカーの話ね」
波留「あぁ、そういうことね、まあテクニシャンとか言われることもあるけども……」
佑助「手もすごいらしいじゃん」
波留「サッカーで手すごかったらそれはキーパーだろ! 私はミッドフィルダー及びフォワードだから!」
佑助「サイドバックにコンバートされるかもしれないし、いずれはセンターバック、そして」
波留「だからってキーパーには多分ならないわ! 体のサイズ的に!」
佑助「とは言え鍛えてるから、やっぱりハードプレイにも対応するだろ?」
波留「いや女子ハンドのPRコピーのほうに持ってくな! いやまあ基本的には持ってっていいんだけど! というかコピーの話だけどハードプレイのほうがどう考えても何か嫌だよね、卑猥かどうかは分からないけども何か嫌さはある」
佑助「確かにハードプレイってスポーツで言わないもんな」
波留「言わないよ、絶対言わないよ、少なくても日本はそういう言い方する文化じゃないよ」
佑助「でも俺はこっからハードプレイで行くから」
波留「どういう意味だよっ! いや卑猥な意味なん? 卑猥な意味だったらすごい困るけどもっ!」
佑助「波留って彼氏いるの?」
波留「馬鹿じゃねぇのっ? どういうハードプレイだよ! いるはずないじゃん!」
佑助「でも気になってる人はいるんだよな」
波留「あーー……別にいないかなぁ、もう気になってないかも」
佑助「もう気になってない、スカウティングしきったってこと?」
波留「サッカーの戦術みたいなこと言わないでいいのっ、そういうことじゃないけども」
佑助「どこか嫌になったってこと?」
波留「そうそう、何か変なこと言うから」
佑助「じゃあチャンスあるみたいだ」
波留「何の? というかさっきから変なこと言い過ぎなんだけども」
佑助「波留、俺はオマエのことが好きだ」
波留「……はぁ……ホント変なこと言い過ぎ……そういうボケ、面白くないから」
佑助「いや、ボケじゃないよ」
波留「だからそういういじりは止めろって言ってるだろ! そういうの一番つまんないからなっ!」
佑助「いやボケじゃない」
波留「早口に短く端的にそういうこと言うな!」
佑助「ボケじゃないって」
波留「いやそろそろボケなら変化つけろよ! それとも変化しないパターンのヤツか! シンキングタイムの時のヤツか!」
佑助「シンキングタイム、設けようか」
波留「……何それ、何か全然つまんない、せっかくさ、抜け出してきたのにさ、題材も変だし」
佑助「題材はゴメン、何か、気恥ずかしくて、変な前振りじゃないと、何かさ……」
波留「謝るなよ、どういう種類のボケだよ」
佑助「俺がテクニシャンならもっと自然に告白できたんだけども」
波留「いやいや、もう何だよ、どんなボケだよ、もっと分かりやすいボケをしろ」
佑助「また変な題材使っちゃった、ダメだなぁ、カッコ付かないなぁ、でもしょうがないか、漫才中なんだから」
波留「そうだよ、漫才中なんだから面白いボケをしろよ」
佑助「でも漫才ってアドリブだから」
波留「そうだよ、ずっとアドリブで漫才してきたわ」
佑助「ずっとずっと即興で、漫才のネタ合わせをしてきたんだ」
波留「まあそうだな」
佑助「でも正直、これは僕にとっては逢瀬みたいなもんだったんだ」
波留「逢瀬て、急に古来な言い方したな」
佑助「漫才のネタ逢瀬だったんだ」
波留「駄洒落かい、急に古来のオンパレード、というか逢瀬て、何? 私のこと好きなのっ?」
佑助「好きだよ、波留」
波留「……だからそういうボケはさ、ショック受けるから止めてよ」
佑助「何でショック受けるんだ? キモいと言って笑い飛ばせばいいじゃん」
波留「……キモいと言って笑い飛ばさない?」
佑助「いや何が。こっちの台詞じゃん、どう考えても今のは」
波留「聞いてんの、答えろよ」
佑助「いやまあ何が何だか分かんないけども」
波留「いや答えろよ、というか要望に応えろよ」
佑助「……何が、まあ、うん、要望に応えられることなら応えるけども」
波留「絶対に私のほうが佑助のこと好きだから」
佑助「……! いや……」
波留「絶対に私のほうが佑助のこと好きだから!」
佑助「……その要望には応えられないよ」
波留「……何それ、やっぱり私のことからかったんじゃん、そういうボケ、ヤバイって、やめてよ……」
佑助「俺のほうが波留のこと好きだから!」
波留「……何それ、やめてよ……馬鹿じゃん……やめてって……」
佑助「そう、ボケじゃないんだ、全然ボケてない、真剣に、真剣に波留のことが好きだ」
波留「……いつから?」
佑助「ずっと前から」
波留「ハイ、絶対嘘」
佑助「いや本当にずっと前から好きだから」
波留「私はもっと前から好きだから」
佑助「分かんないじゃん」
波留「いや分かる、私は付き合ってた時から本気で好きだったよ」
佑助「付き合ってた時て……誰かと付き合ってた時ってこと? いやいやそれは付き合ってたヤツに失礼だろ」
波留「失礼なのは付き合ってた佑助のほうだよ!」
佑助「いやいやいや俺、人と付き合ったことないし! どういうことだよ!」
波留「幼稚園の頃、私と佑助って付き合ってたんだよっ」
佑助「えっ? 何それ? マジで何それっ?」
波留「ほら覚えてない! 最低! 私の初恋なんだからねっ!」
佑助「いや……そんな、きっと昔の口約束じゃん……」
波留「いやいや! ラブレターだってもらったし! 佑助から私に告白してきたんだよ!」
佑助「じゃ、じゃあ……その……今告白したから、それでチャラでいいだろ……」
波留「全然ダメ! 本当はずっと付き合ってたんだから! それなのに何もしてこないじゃん!」
佑助「するはずないじゃん! 忘れてんだからさぁっ!」
波留「というか浮気はしてないよね? 途中で他の人を好きになってないよねっ?」
佑助「なっ、何に嫉妬してんだよ……無いって、他の人を好きになったことないし……て! じゃあ俺のほうが長く波留のこと好きってことじゃん! ハイ! 勝ちー!」
波留「いやいや、私が告白させるように仕向けたから」
佑助「めちゃくちゃ良いオンナみたいなこと言い出した! いやいや! 俺のほうが波留のこと好きだから!」
波留「途中忘れてるくせに……」
佑助「いやでもずっと好きだったから!」
波留「私のほうがずっと好きだわ!」
佑助「うぅー……何だよこの言い合い、どっちに転んでも幸せじゃん……」
波留「でもさ、お別れだね」
佑助「んなんすぐ会いに行けるわ! 同じ日本だぞっ!」
波留「でも私サッカーうますぎて、海外リーグに移籍しちゃうかも」
佑助「じゃあ海外転勤になるくらい、すごいイケてるサラリーマンになるわ!」
波留「いやもう逆に私が佑助のこと養うわ」
佑助「何でだよ! 進学校行くヤツをナメるなよ!」
波留「ずっと一緒にいたいじゃん」
佑助「そりゃそうだけどさ……」
波留「今だって一緒にいたい」
佑助「いや今は一緒にいるじゃん」
波留「ううん、遠いよ」
佑助「これ遠いって言ってたら高校ダメだろ」
波留「もっと近づいてよ、というか抱き締めてよ」
佑助「抱き締めたらハンドになるじゃん」
波留「サッカーじゃないから大丈夫だよ」
佑助「女子ハンドになるじゃん、卑猥と言って批判されるじゃん」
波留「そりゃまあ卑猥な気持ちで抱き締められるのは困るけども、こういう時のハグは普通だよ、普通、挨拶みたいなもん」
佑助「嫌だわぁ、もう心が海外リーグ行ってんじゃん、ハグが挨拶の文化圏に言ってんじゃん」
波留「ゴメンね、私うまいから、すぐ海外リーグ行くの」
佑助「テクニシャンってことな」
波留「まあ手じゃないけどね、足だけどね」
佑助「足絡ませるハグってどうやんの?」
波留「ハグの時は足絡ませなくていいのっ、足絡ませるハグはまだ早いから」
佑助「いやでもレッドカード出ない?」
波留「出ないって、審判いないじゃん、二人きりじゃん」
佑助「血出ない?」
波留「ハグで血なんて出ないよ、そんな筋肉馬鹿じゃないから」
佑助「鼻血出ない?」
波留「発想が古来過ぎるでしょ、出ないって、まあそんな卑猥な気持ち満々だと困るけども」
佑助「……何で困るの? 卒業式はもう終わったじゃん」
波留「何の比喩だよ、そういう卒業式じゃないでしょ、中学生の卒業式だから」
佑助「じゃあまあいいか、ハグするか、うん……うん」
波留「いやハードプレイで行くかみたいなこと言ってたのに全然じゃねぇか!」
佑助「批判されて取り下げちゃったから」
波留「全然取り下げてねぇわ! こっちは!」
佑助「いやでも実際ね、ホント……」
波留「度胸ねぇな! コイツ!」
佑助「度胸は無いよ、その分、波留にも愛嬌無いじゃん」
波留「男は度胸、女は愛嬌のヤツ? ホント古来のヤツばっかり……」
佑助「お坊さんはお経というのがマジでつくんだってさ」
波留「いやそんな豆知識いらないし、これから男女がハグしようとしてる時にお坊さんの話やめてよ」
佑助「お坊さんが審判だったら止められるな」
波留「でも神父だったら促されるだろうね」
佑助「良いツッコミだと思う、今のは」
波留「……いやハグしろよ! ツッコミの評価いらねぇっ!」
佑助「波留って時々口が悪くなるよね、ピッチ上でもそうなの?」
波留「サッカートークはもういいだろ!」
佑助「ピッチとビッチって響き似てるよね」
波留「ビッチ上とか言いたいんか! ハグを望むのはビッチのソレじゃねぇからな! 純粋なヤツだからな!」
佑助「純粋というわけで、今日はお開きにしましょうか」
波留「明日一旦別れるんだぞ! 今ハグしろやぁっ!」
佑助「めちゃくちゃ口悪いじゃん……そんな悪い口は封印しなきゃ、な……」
波留「ん……」
佑助「うん……封印、っと」
波留「……いや言葉だけじゃなくて、そこはキスするんだろ!」
佑助「言霊で伝われ……!」
波留「いやキスだろ! 言霊で伝われじゃねぇんだよ! 普通はここで女子の想像を超えてくるんだろ!」
佑助「無理だよ、だってハグすら怖気づいているんだよ」
波留「そりゃまあその流れなら無理だろうけども、その無理を超えるんだよ! 普通は!」
佑助「そんなコントみたいなこと言わないでよ……」
波留「ドラマな! 面白くするんじゃねぇよ! 私と佑助の人生を面白くするんじゃねぇよ!」
佑助「いいじゃん、どうせ俺たちは漫才のネタ合わせじゃん」
波留「佑助がネタ逢瀬とか言ってたんだけど!」
佑助「逢瀬は逢瀬でも、ネタだから。お笑いもんだよね、俺たちの人生は」
波留「そんなんで誤魔化せると思ってんのか!」
佑助「中学生だから子供だましも通用するかなって」
波留「もう中学生は卒業したんだよ! 最低でもキスはするだろ!」
佑助「えっ? ハグだったのにハードル上がってんじゃん!」
波留「佑助がそんな感じのフリをしたからだろうがっ!」
佑助「いやいや、そんなフリしていないし、もういいか、もういいよっ」
俺は録音ボタンをストッ・・・
波留「ストップさせねぇから! こんなんで終わらねぇだろ!」
佑助「いや、もう、終わりだろ、こんなん……最悪仲悪くなって終わりだよ……」
波留「仲は悪くなんねぇ! めちゃくちゃ仲良いからなっ!」
佑助「こんな口の悪い言い方されたら、仲も悪くなるよ……」
波留「じゃあ分かった、普通の口調に戻すわ、佑助、キスして」
佑助「……いや、急過ぎてちょっとなぁ、とりま一ヶ月くらい置いてみるか」
波留「熟成肉じゃないんだから、あぁ、もう……じゃあ先にキスしたほうが、より相手のことが好きってことねっ」
と波留が言ったところで、俺は波留と唇を重ねた。
というわけで!
佑助「やっぱり俺のほうが好きだ! やったぁっ!」
波留「何それ……不意打ちじゃん……」
佑助「これを待っていたんだよ」
波留「そんな嘘……嘘みたいだよ、嬉しい……」
佑助「俺も嬉しいよ、波留、好きだ」
波留「私も、好き、佑助のこと好き」
佑助「これから会えなくて大変だけどさ、たまに会って漫才しようぜ」
波留「いやデート! 漫才はもういいよっ!」
(了)
漫才のネタ逢瀬をしよう 伊藤テル @akiuri_ugo5
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます