第11話 ヤり手のマッサージ師
「ねえねえ、清太郎君?」
「どうしたの?」
「ここのマッサージ店、行ってみない?」
とある休日、雛子さんは自宅でゴロゴロしていた清太郎君にそんなことを言った。彼女は手にマッサージ店のチラシを持っており、それを清太郎君の前に差し出す。
それは、このアパートの近くについ最近オープンしたマッサージ店の広告で、開店記念に特別価格でマッサージを受けられる旨が記されていた。
その休日、特に予定は入っていなかったので、清太郎君と雛子さんはそのマッサージ店に向かったのである。
「いらっしゃいませ」
店の扉を開けると、髭を生やしたメガネの中年男性が出迎えてくれた。それから全身白い服を来たスタッフに案内され、ベッドとパーテーションが交互に並べられた部屋に入る。
「それでは、奥様はこちらのスペースでマッサージを行います」
「じゃあね、清太郎君」
雛子さんはメガネの中年男性に連れられ、清太郎君の視界から姿を消した。
「それでは、マッサージを始めますよ?」
「お願いします」
清太郎君がベッドでうつ伏せになり、スタッフのお兄さんから背中のマッサージを受けていると、隣のスペースから雛子さんと男の声が聞こえてきた。
あのクリーム色の薄いパーテーションを挟んだ向こう側に雛子さんがいるため、彼女たちの会話は結構クリアに耳まで届く。
雛子さんと清太郎君は受付で同じ60分コースを選択し、同じ内容のマッサージを受けているはずだ。
「奥さんの肌、艶々で、弾力があって、結構やわらかいですねぇ」
「あぁんっ……先生の揉み方……玄人っぽいです」
「おや、ここだけコリコリしてて、かなり硬いですよ? 奥さん、緊張されてますか?」
「少し……これから先生にどんなことされるんだろう、って……んはっ……でもっ、そこ、気持ちいいですぅ……もっと、揉んでくださぁい。はぁん」
雛子さんも自分と同様に背中をマッサージされ、筋肉の凝りを揉み解されていく感覚にリラックスしているらしい。
「それじゃあ、今度はこっちを指先で押してみましょうか?」
「ああっん……くぅん……け、結構奥まで来ますぅ。指でヤるのって、こんなに気持ちいいんですね……」
「おや、この辺、手応えありますよ?」
「んああっ! イグッ……あはん! そこ効くのッ! 効いちゃうのお!」
そのときパーテーションの向こう側で、ビチャア! という、液体を床に溢したような音が聞こえた。
「ああっ、すいません。押すのに夢中で、お湯を溢してしまいました……」
「はぁっ……はっ……いいんです。気持ち良かったですから」
何やら隣のマッサージ師が自分の不手際を謝っている。
清太郎君の部屋にも、タオルやオイルを温めるためのお湯が洗面器に張ってあったはずだ。おそらく、あれを溢してしまったのだろう。
「それでは、こちらの特製のオイルを塗り込んでイキましょうか?」
「はいっ! よろしくお願いします!」
「こちらに、直接、イキますよっ!」
「うぅんっ!」
現在、清太郎君の方でもオイルを使ったマッサージが行われている。雛子さんの方でも同じものを体験しているのだろう。
「熱くなってますから、ご注意ください」
「あっ、はぁ……くぁっ……」
「熱かったら、言ってくださいね?」
「大丈夫です。はぁん、熱いけど……気持ちいい」
「このオイル、匂いは独特ですけど、この白い成分が良いんですよ」
「体の奥が熱くなって……芯まで燃え上がるような感じがします」
「そんなに感じていただけるなんて光栄です」
雛子さん、このマッサージをかなり堪能しているようだ。
確かに、清太郎君に塗られているアロマオイルには鼻にツンと来る匂いはあるが、背中がじんわりと温かくなってきた。運動不足で凝り固まった筋肉が解れていく感覚が気持ち良い。
「んはぁっ……こんなっ……」
「ここも、指で触ってみましょうか? ぐいっとイキますよ?」
「ひぃん……そこ、ちょっと痛いけど、気持ちいいのぉ」
「でも、普通の方より柔らかいですよ? 素晴らしい肉体をお持ちですね」
清太郎君も、このマッサージには少し痛みを感じていた。しかし、その痛みもまた心地いい。固まっていた筋肉が伸ばされ、体が軽くなったような感覚がする。
「それでは、最後の工程に入りますよ!」
「は、はい……」
「奥まで……たっぷり……エキスを、染み込ませますからねっ!」
「よろしくっ、おねがいしますっ! んっ!」
清太郎君の方でも、マッサージコースはもうすぐ終わりになろうとしていた。アロマオイルをたっぷりと背中に塗られ、凝りが解されて血が巡る。その気持ちよさに、ついうとうとしてしまう。極楽とはこういうことを言うのだろう。
「はあ! はあん! 気持ちいい! はあっ! くあっ! んあ! いっ! いいっ! そこっ! いいの! 一番、気持ちいいのぉ! あっ! はぁくっ! はああああああああぁんっ!」
雛子さんもあまりの気持ちよさに絶叫しているようだ。清太郎君もマッサージの気持ちよさに声が出てしまいそうだったが、他の客やスタッフに聞かれるのも恥ずかしいので、時折声を漏らす程度に我慢していた。
「どうですか、奥さん。気持ちよくなっていただけましたか?」
「はぁい……スゴく快感で、やっぱり、たまにはこういうこともヤりたくなりますね」
「ははっ、そうでしょう? さ、これで60分コースは終了です。奥さん、お疲れ様でした。またのご来店をお待ちしております」
「ありがとうございます。またイキますね」
こうして、清太郎君と雛子さんは店の廊下で約一時間ぶりに再会した。
「やっほ、どうだった、清太郎君?」
「うん。気持ちよかったよ? 雛子さんは?」
「私も、スゴくスッキリした」
先程よりも雛子さんの肌艶は増しており、顔色も良くなっている。やはりマッサージの効果は絶大だ。
「また来ようね、清太郎君」
「そうだね」
こうして二人は清清しい気分で帰っていった。
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