淫妻鈍夫ネトリダウト
ゴッドさん
第1話 買い物にイッちゃう
清太郎君はIT系企業に勤める正社員である。
出勤は朝七時半。残業がない場合、帰宅は夕方六時半頃。勤める会社の実態は概ねホワイト企業であり、残業発生率は二割程度に抑えられているが、ときには深夜まで続く仕事や別の営業所への出張が発生してしまう。それでも家庭のために自分のベストを尽くして働いているつもりだ。
一方、その妻、雛子さんは専業主婦である。Hカップのグラマラスなボディを持ち、モデル顔負けの整った顔立ちをした美人だ。
そんな彼女は、清太郎君と結婚したばかり。親に厳しく育てられた箱入りお嬢様であり、恋愛やセックスにはかなり奥手だ――といっても、それは清太郎君の主観であり、彼女の恋愛観を再検証する余地は残されているが。
現在、二人はアパートで一緒に暮らしている。
ある日、清太郎君に急遽残業が入ってしまい、家で待つ雛子さんへ連絡しておこうとスマートフォンで電話をかけた。
応答が少し遅い。
「ど、どうしたの? こんな時間に電話なんて?」
ようやく電話に出た雛子さんの息遣いは荒く、まるで何か激しい有酸素運動をしていたかのようだった。
普段、雛子さんは運動なんてしない。動きは全体的にのんびりしていて、急いで信号を渡ろうと走ることもなければ、エスカレーター上ではじっと動かずに頂上へ到達するのを待つ。
雛子さんが普段の生活でこんなに息を切らすなんてありえないのだ。
一体、彼女は何をしていたのだろう。
「いや、うん……雛子さん、何かスポーツでもしてた?」
「やだなぁ。私が、スポーツ嫌いなの、知ってるでしょ?」
「随分息が荒いなぁ、って思って」
「さっきね、台所に、アレが出ちゃって」
「『アレ』? アレって何のこと?」
「でっかくて、黒くて、カタい……」
「ゴキブリのこと?」
「そ、そうなの、ゴキブリが出ちゃったの!」
雛子さんは田舎育ちで、昆虫や蛇などの出現には動じない性格だと思っていたが、自分の記憶違いだっただろうか。清太郎君はそんなことを思ったが、特に口には出さなかった。
それよりも気になったのが、会話の外で何かパンパンと何かを激しく打ち付ける音が聞こえることだ。
「ねえ、何か変な音聞こえない?」
「え、そうかなぁ?」
「聞こえるよ。そっちから。『パンパン』って」
一体、何をどうしたらこんな音が鳴るのだろう。
家の中は現在どうなっているのか。電話の向こうでは、何が起きているのか。
「あっ……お隣さんが……干した布団を、叩いて、いるのかも」
「もう夕方なのに?」
「うっ……三交代制で働いているから……生活リズムが私たちとは違うんだよ、きっと」
「さすがに布団はもっと明るいうちに干すと思うけど……」
現在、夕方五時。外は暗くなり始め、空気もひんやりしてきた。普通、こんな時間まで布団なんて干さないと思うが。
「そんなことより、今夜残業の予定が入っちゃって、二時間くらいで帰れると思うんだけど……もしかして、もう夕飯作っちゃった?」
「う、ううん。まだ、作ってないから、大丈夫……」
「そうなんだ。先に食べてて構わないからね」
「まだ買い出しに行ってなかったから、丁度よかったかも」
「え、買い出ししてなかったの?」
「これからぁ、はぁッ、タイムサービスだからぁ、はっ」
「何だか息が荒くなってない?」
雛子さんの息はますます荒くなり、会話が困難になってきた。パンパンという音も勢いを増し、電話のすぐ近くで鳴っているような感覚がする。
「これからッ、うっ、イキます!」
「どうして急に敬語?」
「イク! イッちゃうからッ!」
「行くって、スーパーに?」
「そうそう! そこッ! イクイクイクッ……! アッ、くぅぅ……んはあぁっ! ヒャッ、ウッ、ンウウウウウウウッ!」
雛子さんが暴れ狂う獣のような声を出すと同時に、パンパンという謎の音は鳴り止んだ。相変わらず、雛子さんの荒い息遣いは聞こえるが。
「どうしたの、大丈夫? 何か変な声がしたけど?」
「あ、うん……ゴキブリが急に飛んできたから驚いちゃっただけ」
「ならいいけど」
「そんなことより、清太郎君は残業で帰りが遅くなるんだね?」
「そうだけど……」
「じゃあ、気長にヤれるね」
「ヤるって、何を?」
「もちろん買い物のことだよ?」
雛子さんは嬉しそうに答えた。
今日は妻の機嫌が良い。よかったよかった。
こうして清太郎君は電話を切り、仕事へと戻った。
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