最後の戦い?

 街からそれほど離れてはいなかったが、戦闘の被害が及ぶような距離でもないと思っていた。


 誰がラスボスは一匹だと言ったのだ。

 てっきり、そういう名前に騙されてしまっていたのだが、封印されたのはモンスターなどではなかったのだ。


 『封印されし魔導具』


 チャッピーの描いた魔法陣から、そんな名前の巨大な門が現れた。

 いつの時代のいったい誰が作ったのか?


「そんなの知らないわよっ、こんな世界の歴史なんて興味無いしっ!

 資料をまとめてくれたの茜だし、茜なら色々知ってるんじゃないの?」

「あ、うん……でもそんな時間ないよぉ」

「ええぇ……

 僕はすっごく気になるんだけどなぁ」


 ギギギと音を立て、今にも開きそうな不思議な門。

 隙間が見えてくると、そこからはどす黒い渦巻いた何かが溢れそうになっていた。

 闇の塊とでも形容すればいいのだろうか?


 少しして、隙間から小さなモンスターが飛び出してきた。

「じゃあ行くわよっ!」

「う、うんっ!」

 二人は早速飛び出して、出てきた魔物に攻撃を仕掛ける。


「ピギャッ」

 序盤は数で攻めてくるのか、決して弱くはないが負ける気のしないモンスターばかり。

 僕も追尾する矢と攻撃魔法が混ざったようなアイテム『マジックアロー』を取り出して、あちこちに投げていった。


「チュドドドドーン!!!」

 降り注ぐ矢が、辺りに散っていくモンスターを確実に射抜いていく。

「なっ⁈ ……なんなのよアンタの攻撃は!」

 チャッピーは出番が少なくて悔しいのだろうか?

 だけど心配する必要はない、経験値はパーティー全体に均等に分けられるみたいだから。


「ううっ……まぁアンタのおかげで小さいモンスターは倒しきったみたいだし……」

 最初はなんのバグかと思ったが、素早さが高い分アイテム使用速度も上がるようで、一瞬の間に何十個ものアイテムが使用できてしまうのだ。


 さすがに100を超えるような数だったら難しいだろうか?

 門の前に二人がいなければ、そうなったとしても範囲攻撃のアイテムを投げまくる方法も取れたのだけど。


「チャッピー、スノウさん……次のモンスターが来るみたいよ」

 門はようやく三分の一程度開いただろうか。

 次は大群というほどではなく、大型のモンスターが一体一体順番に現れてきた。


 順番というより、ただただ倒すのが早すぎて、次の出現を待ってしまっていたという感じなのだけど。

「ちゃんと素材になるのが凄いよねぇ」

 僕は倒したブラックデーモンなるモンスターから、漆黒の牙を拾っていた。

 ラスボス戦なのに正直どうなのかとは思ったけれど、ある意味希望があるとも言える。


「アンタ、この期に及んでクリア後の冒険なんか夢見てるんじゃないでしょうね?」

 大型のモンスターがひと段落したようで、チャッピーは僕に諦めるよう言ってくる。


 クリア後は強制的に現実に戻されるそうで、今拾った素材など意味がないのだと言うチャッピー。

 初期開発段階の名残だとかで、僕が推察するほどのことは何も起きやしないのだと。


 次に現れたのは二体の超巨大な翼竜だった。

【スノウは???とエンカウントした】

 初めて見るインフォメーションの『?』に、ちょっとだけラスボス感を感じていた僕。


 ここまで到達するプレイヤーを想定していなかったのか、それとも応募した名前の数が足りなかったのか。

 とりあえず適当にプテラとでも呼んでおくことにするが、そのモンスターが出てくると門は跡形もなく消滅してしまったのだ。


「これで最後ってことね!

 行くわよっ、二人とも!」

 一層気合が入るチャッピー。

 全身に身体強化(バフ)をかけて、空を飛ぶプテラ目掛けて大ジャンプ。


「バサッ……バサッ……」

 じっとチャッピーの動きを眺めながら旋回していたものだから、若干不安はあった。

「うそっ⁈ ちょっと、さらに上昇するなんて卑怯じゃないの!」

 ギリギリ届きそうな高さ……それでも数十メートルはあったが、チャッピーのジャンプで届く以上に高く舞うプテラたち。


 地面について、今度は魔法を放つのだが、内一体のプテラは構わずどこかへ飛び去ってしまう。

 『貴様ら虫ケラなど、私一体で十分だ』とでも喋っていたのだろうか?


 だが確かにこちらの攻撃は当たらない。

 先ほど同様にマジックアローを使ってみるが、射程外にまで離れられては意味がない。

「ちょっとスノウ?

 なにか良いアイテム持ってないの?」


 遠距離攻撃ができる装備は持っている。

 だが、射程外に逃げられては何度やっても同じことなのだ。

「どうにか、一回でもチャンスがあればなぁ……」


 プテラは上空からの魔法攻撃を繰り返し放ち、僕たちが疲弊するのを待っているかのようだった。

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