第22話
「す、すまねぇ……
もうお嬢ちゃんたちの素材は買い取れねぇんだ……」
親父さんがいつもの少女二人組に謝罪を述べている。
そりゃあ毎日のように高価な素材を売りにこられては、ギルドの運営資金は底を尽きてしまう。
「ちぇっ……しょうがないわね」
「ねぇチャッピー、そろそろ別の街に行った方が良いんじゃないの?」
「そうね……ラスボスの手がかりも見つかったし。
それに、スキルレベルもこの街じゃこれ以上は無理そうだわ……」
きっと、何か理由があってお金が欲しいんだろうな。
それにしてもチャッピーと呼ばれた獣人は、えらくピリピリした雰囲気だなぁ。
「……ん? チャッピー?」
「なによ、誰か私のこと呼んだ?」
聞き覚えのある名前に僕の手は止まり、ふと二人の少女と目があってしまう。
「女の子? んー……でもどこかで……
茜の知ってる子?」
「私も知らないわチャッピー。
毎日ここに座っているから、見覚えがあるだけじゃないの?」
僕を見てヒソヒソと会話をする二人。
確かにコサージュとブレスレットまで着けている僕が男に思われる方が珍しい。
「いや、同じ名前の変なマスコットキャラがいたなぁって思ってさ。
ごめん、気にしないでよ」
語尾も普通だし、キャラクターがいきなりNPCとして出てくるなんて考えられないよ。
たまたま同じ名前の設定になっちゃただけだろうな、獣人だし。
しかし、僕の話を聞いた二人の動きは固まってしまう。
どうしたのかと、僕も二人の方を再びチラリ。
「ねぇ……そのマスコットって、犬か猫みたいなやつで、語尾に『のら』なんて付けてないわよねぇ……」
獣人の子が僕に詰め寄ってくる。
ドキッとしてしまったが、僕は冷静になって『そういえばそうだったかなぁ〜』なんて返す。
な、何か変なことを言ってしまったのか?
っていうか、それを知っているこの獣人族の少女は実はプレイヤーなのか?
「わかった!
君たちも、あの変なマスコットを探しているんだね?」
それなら納得だ。
ようやく初めての他のプレイヤーに出会えたのだ。
そんな気持ちで僕は嬉しくなった。
「違うわよっ!
私がそのチャッピーよ! 変で悪かったわね!」
せっかくプレイヤーだったというのに、なかなかに最悪な挨拶で迎えた出会い。
隣にいる茜という女性はチャッピーの親友らしいのだけど、どうやら好きでこのゲームの世界に来たのではないと言う。
「う……うん。
確かに声はそんな感じのアニメ声だったけどさぁ……」
「わかればいいのよ。
それと、このゲームを終わらせるのにアンタにももちろん協力してもらうわよ」
「えっ? あー……ログアウトできるんだぁ……」
実はかなり諦めていた。
それっぽいシステムを見れるようにはなってきたが、いつまでもログアウトの項目は表示されないでいたのだ。
現実の僕はどうなっているかなんて、もはやどうでもいいことだった。
家族のことは気になるけれど、滅多に口を聞くこともない。
今の僕にとっては、そんな世界よりも、このゲームの世界が現実になりつつあったのだ。
「できるんだぁ……じゃないわよ!
こんな世界、早く出たいんだからラスボスを倒しに行くわよっ!」
どうしてそんなに切羽詰まる勢いでまくし立てるのだろうか?
ゲームなのだから、もう少しのんびりしてもいいんじゃないのか?
「あ……あの……」
隣にいた茜も口を開く。
「実は、チャッピー……指名手配されちゃってて……」
なにを突然言うのかと。
チャッピーがイライラとする横で茜は僕に説明するが、要約すると色々な街や村でやりたい放題だったらしい。
「ふんっ……そんなに嫌なら別にいいわよ。
どうせレアスキルの習得方法も知らないようなプレイヤー、放っておいたらどこかでのたれ死んでるに決まってるわ」
チャッピーがそう言い残してギルドから出て行く。
茜もそれを追いかけて、僕は再び一人になってしまった。
「おうっ、なんかよくわかんねぇが、面倒そうなのに巻き込まれちまったな」
「うーん、そうなのかなぁ……?
でも、あの様子だったら多分、もうギルドには来ないと思うよ」
「そうか、そうだと助かるんだが」
親父さんがカウンターに頬杖をつきながら出入り口を眺めている。
本当に嵐のような少女たちだったとでも思っているのだろう。
しかし、非常に気になることをいくつか喋っていた。
一つはラスボスの存在。
放っておいたら世界が崩壊するとか、そんなものでなければいいのだが。
そしてレアスキル。
入手方法をチャッピーは知っているようだった。
どんなものかは知らないけれど、ラスボスと戦うためには必須のスキルなのだろう。
そしてもう一つ。
なぜ……あのマスコットのチャッピーは、プレイヤーとなって街にやってきたのか……である。
色々と秘密がありそうで不安ばかりが募ってしまう。
そして僕は、翌朝になって二人の宿泊する宿を訪ねたのだった。
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