スノウ……散った一欠片の雪

「ん……ここはどこ……?」

 プテラの攻撃を受け、多分僕は死んでしまったはずである。

 だが、意識があるということは、またゲーム世界のどこかで復活するのだろうか……?


「おつかれさまでした、松風……神様」

 ジン様、決してカミサマではない、僕の名前だ。

 暗い暗い空間で、死んだはずの僕の意識はハッキリとしていた。


 「診断の結果ですが、あなたは晴れてこの世で存(ながら)えることとなりました。

 特に、最後の愛する人を庇う行動は、NPCから多くのポイントを獲得したようです。

 現実世界に戻っても、その気持ちを忘れずにいてください。

 我々は、決して貴方達を見捨てようとは思っていないのですから……」


 暗闇が晴れ、明るい荒野に舞い降りていた。

 だが、進めどここは仮想世界。

 街は無く、森も林も見つけられなかった。


 何かが用意されているわけでもなく、僕が現実に戻るまでのタイムラグのようなものだと説明された。


 そうか……どうやら僕は現実に戻れるらしい。

 あの後、アイズがどうなったのか……街は救われたのか……

 そんなことは、今ではもうわからなかった。


 僕はゲーム世界に入ったのはいつ頃だっただろうか?

 たしか卒業式を迎える頃だったとは思うのだが……


 次第に意識は薄れ、僕は再び暗黒の世界へと戻されていった……


「ねぇバカ兄貴?

 ……ねぇってば!!」

 気付けば妹の巫樹が目の前にいた。

 何を呼びかけているのかと思えば、朝食ができたのだから、いい加減ゲームをやめるように言いに来たらしい。


 ぼ……俺は今まで何をしていたのだろうか?

 確か、宅急便でゲームが届き、興味本位でプレイを始めたはずであった。

 それにしても、何か大事なことを忘れているようで、すごくモヤモヤとした気持ちにはなっていたのだ。


「あら? 起きてきたのねジン」

 母が笑顔で僕を迎えている。

 珍しいとさえ思ってしまったその表情。

 ……俺もまた嫌な気分ではなかったのだが。


「なんだよ……残り物のシチューかよ」

「ごめんね、マカロニとチーズを使ってグラタン風にしようかとも思ったんだけどね」


 こんな食卓の光景は珍しくない。

 父が帰らなければ、残り物が食卓に出ることは多いのだ。

 俺は黙って黙黙とシチューを食べ始めていた。


 そういえば、昨日も同じものを食べた記憶はある。

 だが、今回に限って言えば、妙に懐かしく、今まで以上に美味しいと感じてしまうのだ。


「んっ……今日も美味しいよ母さん……」

 自然とそんな言葉が口から出てしまった。

 残り物に言うような言葉ではなかったのだろうが、自然と口から出てしまったのだから仕方ない。


「そうっ? 今日はもう無くなっちゃったけど、喜んでもらえるのならいつでも作ってあげるからね」

 いつになく上機嫌な母である。

 向かいに座る巫樹は、僕をみてしかめっ面。

 なんだ? なにか言いたいのだろうか?


「ば……お兄ちゃん、なんか変なもの食べた?」

 ば?? 一体何を言おうとしたのだ?

 とにかく、俺は何も変なものは食べていない。

 しかし、なんだろうか?

 妙に違和感は感じてしまうのだが、全く嫌な気分にはならないのだった。


 その日の夜、再び部屋に戻った俺は、妙な感覚に囚われる。

 ベッドに置かれたゲーム機と、しっかり片付けられた部屋の状況。


 滅多に見ることにない『母が勝手に部屋の片付けをしました』という状況にそっくりなのだ。

 ゲーム機は動かしてデータが消えたら怒られる。

 だからそれ以外を綺麗にしよう。

 そんなことを考えているのだろう。


「……ん?

 でもこれって、俺が片付けたんだよなぁ」

 ゲームプレイ時に、たしか時間があって……

 それ自体はどうでもいいのだが、どうにもゲーム内容が思い出せないでいたのだ……


 たった一夜しかプレイしておらず、挙句に寝落ちしてしまったのだ。

 きっとキャラクターメイキングとか、そのあたりで面倒になったに違いない。


 俺はその日の夕食後、再びゲーム機を起動してみたのだった。

 フルダイブ型という、新しいゲーム機に期待を込めながら……

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