第20話
この世界に来てどのくらい経っただろう?
ふと現実を思いだすと、僕の身体は本当に大丈夫なのかと心配になってしまう。
「ゲーム前にトイレって行ったっけ……
いやいや、そんなことより餓死したりしないのか?」
一生ゲームから出られないというラノベを読んだことがあった。
今頃僕の肉体はたくさんのチューブに繋がれているのか?
はたまた、これはもはや現実世界から切り離された、別世界なのではないか……
「ねぇスノウ?
今日の晩ご飯はどうしよっか?」
このままこうやってアイズと生活するのも良いかもしれない。
どうせ現実に戻ったって暗い部屋に引きこもるだけなのだから。
「ねぇスノウ?
きーこーえーてーまーすーかー?
……ねえってば!」
「わっ⁈ ……あ、ごめんごめん。
なんの話だっけ?」
あまりにボケーっと考えに耽っていたものだから、アイズの呼び声に驚いてしまった。
「ちょっとぉ……どうしたのよ一体……」
「どうもしないよ。
なにか美味しいものを食べたいなぁって考えてたんだよ」
「絶対に嘘ね、また私に黙って狩りに出かける計画でも立ててたんでしょ」
カレーやラーメンが懐かしいなんて思ってもいたから、あながち嘘でもなかったのだけど。
アイズから見れば、僕はいつでも狩りをしたがってる少年なのだろうな。
確かに知り合いにそんな少年がいたなら、心配で心配で仕方ないのだろうけれど。
「違うよ、ラーメンでも食べたいなって思ってたんだよ。
確か料理スキルで作れた……んだけど、素材が足りないんだよね」
あれから僕のアイテム生成スキルは凄くレベルが上がり、そこから派生した料理生成スキルや装備生成スキルも習得していた。
「聞いたことのない料理ね、どこの地域の料理なの?
そういえばスノウって、いつの間にそんなスキルを覚えたのよ?
確か初めて会った時って……」
そう、僕がアイズに出会ったのはこの世界に来てすぐのこと。
全くと言っていいほどスキルは無く、今とは逆の意味で驚かれてしまうくらいの少年だったのだ。
「ねぇ、見てもいいよね?
うん、ダメって言われても見ちゃうんだけどさ」
アイズが、ぐっと顔を近づけてくる。
鑑定眼を使うには、真剣に相手のことを見つめなければならないのだ。低レベルのうちは……
「ねぇ……スノウは私のこと嫌い?」
おでこが当たりそうなくらい近づいたアイズが聞いてくる。
嫌いなわけがない。
こんなにも綺麗で優しい人を、なぜ嫌う必要があるのだろうか。
「そ、そんなわけないじゃん!」
アイズの息が僕に当たる。
「うそよ……だったら証拠を見せてよ……」
もう僕の顔は真っ赤になっていたと思う。
アイズのその言葉が一体どういう意味かを必死に考えてみるが、答えは一つしか出てこない。
く……唇が……
ドキドキしながら、僕はアイズのぷっくりと膨らんだ口元を凝視してしまう。
徐々に距離を縮め、今にも触れそうになった……のだが。
「ねぇ、スキルを見えなくするようなスキルって何?
スノウが持ってるスキルが全然見えないんだけど!」
グイッと僕の身体を引き離し、肩を掴んだままアイズが問いかける。
その声色はかなりの怒気を含んでいるようでもあった。
『内緒にされなきゃいけない関係なの?』なんて言われて、僕は目が泳いでしまう。
だって、あまりにも無茶苦茶なスキルばかりで、見られたら絶対に怖がられてしまうんだもの。
仮にだよ、【飛行5:戦闘時、地形効果ダメージを無効にする】なんてスキルがあるとしよう。
あくまでも仮に……そのスキルを発動させると、戦闘中に常に空を飛ぶことが可能になる。
そんなスキルを目のあたりにして、人は驚かずにいられるのだろうか?
「持っているのね……?」
「う、うん……なんでか空を飛べちゃうんだよね……」
深いため息をつくアイズ。
食欲が無くなったと言っていたのだが、僕が料理スキルでハンバーグを作ってあげたら、すっかり完食してしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます