第5話

 女性はアイズという名前らしい。

 鑑定眼という珍しいスキルを持ち、ギルドで働いているそうだ。


「時々、嘘をついていそうな人を捕まえては、私たちに鑑定を依頼してくるのよね。

 少しでも疑わしければ即有罪。

 荷物は没収して、被疑者は国の名のもとに裁かれるのよ……」

 そんな鑑定依頼は正直受けたくはないそうなのだが、兵たちに逆らえばギルドも立場が危うくなるそうで、仕方がないのだそうだ。


 ギルドっていうのは、主に冒険者を相手にしている『冒険者ギルド』を指す言葉で、依頼の受注や素材の買い取りなんかを行う施設のことだ。

 民営ということもあって、国からはあまり良い扱いを受けることはないという。

「ぼ、僕に言われても難しくてよくわからないよ……」

 嘘です、本当はすべて理解できました。

【スノウはスキル:嘘つき1を習得しました】

 あ、危なかった……もし調べられる前に習得していたら、どうなっていたのだろうか?

 いや、あの時は『虚偽』のスキルと言っていた気がする。

 もしかしたら嘘つきのレベルが上がると、そちらにランクが上がるのだろうか?


どちらにしても、身分証を持たないうちはあまり嘘は言わないほうがいいだろうか……

「そうよね、ごめんね私の愚痴に付き合わせちゃって」

 話に出てくるスキルだのギルドだのは、僕の知っているゲームに近いものを感じる。

 まぁゲームの設定なんて、どれも似たようなものだ。

 偶然僕の知っているゲームが酷似していただけで、そんな深い理由などはあるはずもない。


 アイズが、帰る前に僕の身分証の代わりを用意すると言う。

 方法はとても簡単で、今からギルドに行って冒険者登録をするだけであった。

 とは言っても、こんな子供のような身体で……

 いや、完全に子供なのだし、喋り方をわざと変えているものだから、心まで子供になってしまいそうである。

「僕みたいな子供でも、登録ができるの?」

「えぇ、問題ないわよ。

 基本的に身分の証明できない子供は教会の世話になるか、冒険者登録をして依頼をこなすものなのよ。

 もちろんモンスターと戦うなんて危険なことはさせられないから、専ら街の掃除なんかをやってもらうんだけどね」


 なるほど、つまり冒険者とは名ばかりの何でも屋さんなのだろう。

 教会に行った子は何をするのか聞いてみたが、毎日教会内の掃除か農作業。

 時々行うことが、お札やアイテムの売り歩きなのだとか。

「托鉢するお坊さんかよ」

「ん? どうかしたの、スノウ君」


 君付けで呼ばれるのは、また一層歯がゆいものがある。

「ど、どうもしないよ。

 それよりも、モンスターってうさぎとかも含まれるの?」

 気付いたらいなくなっていた僕の捕まえたうさぎ。

 多分、兵に詰め寄られた時に逃げて行っちゃったんだけど、よく考えたらモンスターを抱きかかえたままでも兵たちは何も動じていなかった。

 それはつまり……


「うさぎ?

 もちろん捕獲対象のモンスターよ。

 下手に殺してしまうよりは生け捕りの方が価値は高いわね」

 『そうだっ』なんて言って、アイズは食事の提案をしてきた。

 ギルドの近くに美味しいうさぎ料理の出すお店があるのだそうだ。


「あそこのお店は血抜きが完璧なのよ。

 絶対に生きたうさぎしか扱わないし、こだわりが強いのねぇ」

 アイズにそこまで言われると、僕もよだれがあふれてきそうになる。

 美味しい肉料理、いやジビエ料理といったところだろうか。


 ただ、その前に大きな問題発生である。

「おうっ、帰ったかアイズ。

 ん? どうしたんだ、そのガキは」

 確かにギルドで登録を、とは聞いた。

 そして僕は『ゲームみたい』と思って浮かれていたのだ。

 いやまぁゲームなのだけど……


「おう小僧! まずは名前だ、文字は書けるか?」

 顔面に大きな傷をもったスキンヘッドのおやじ……

 どこのぼったくりバーに行けば会えるんだよ、こんな人。

「大丈夫だよ、おやっさん。

 どうだ坊主、書きながらこっちで一杯飲んでいかねぇか?」

 かたや、その様子を見て晩酌に誘おうとするモヒカン頭の青年。

 いやいや、金髪に染めて……いや多分あれは地毛だ。

 めっちゃ怖い、そして早く出ていきたい。


「どうしやがったんでぇ。

 途中までスラスラ書いてやがったのに手ぇ震えてやがんぜ」

 おやじのその言葉で、見かねたアイズが僕に近づいてきた。

「んなもん、アンタらが怖くて怯えてるだけに決まってるだろうが。

 まぁだ自覚ねぇのかよお前たちは……」

 ちょ、ちょっとアイズさん??・

 さっきまでの喋り方とちょっと違う気がするのですが???


「ごめんねスノウ……

 あっちの席に座って落ち着いて書きましょう?」

「う、うん……」

 そうか、きっとアイズさんも、このギルドに順応するために、そういう喋り方も身に着けたのだろう。

 僕も怯えてばかりで、相手の気持ちなんて何も考えていなかった。

 きっと善意で教えてくれようとしていただけなのに……


【スノウはスキル:度胸2を習得した】

 ん? いつの間にか【2】になっている。

 初めてとったスキル……だよね?

 もしかして会話をしている内に習得していたのかな?


 視線の端にあるインフォメーション。

 気付いていなければログは流されてしまっているようだ。

 まぁ確かにバーン隊長と話しをしている時点で取っていておかしくないスキルだ。

 きっと見落としたのだろう。


 こうして僕は無事(?)冒険者として登録することができた。

 周囲からは『なんてキレイな字を書くんだ』とか、『こんな礼儀正しい坊主、初めて見たぜ』なんてもてはやされてしまう。

 怖かったけれど、悪い気はしなかった。

 きっと根は良い人たちばかりなのだろう。

 怯えて話もできなければ、そんな一面にも気付けなかったに違いない。


「じゃあ約束のお店に向かいましょう」

 そう言ってアイズが僕の腕を引っ張って歩く。

 外に出ると、冷たいはずの夜風が気持ちよく感じられた。

 また、あの人たちとお話をしたいと思った夜だった。

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