第11話
ステータスを見る方法はわからないが、自己分析スキルもレベルが上がって似たようなことはできるようになった。
攻撃も防御も低いのだが、全くの0ではない。
所持しているスキルの中に、上昇効果のあるものが含まれていたりするのだろう。
それよりも……だ。
【素早さ1655】
この異常なまでの数字に、少々驚きを隠せないでいた。
というのも、実は昨日までは300そこそこだったのだ。
冒険者たちとウルフ狩りをしていたら、【囮役】というスキルを習得した。
多分、追いかけられながらパーティーの元まで引き寄せていたので覚えたのだろう。
手が滑って武器を落としてしまったから逃げていただけなのだが。
囮役のスキルを習得すると、素早さが上がっていたのに気付いたのだ。
およそ二割増しといったところ。
その分、防御力はどんどん0に近づいてしまったが、そちらは防具を装備すればまぁ多少は……
「やるなぁ、今の技なんて言うんだ?」
「えっと……縮地、かなぁ?」
囮役にも慣れてきて、引き寄せてはパーティーに攻撃してもらう。
たまーに出会い頭に攻撃されそうになると、僕は思いっきり地面を蹴って移動した。
それが瞬間移動にでも見えたのだと言っていた……
そんなことをしていたら、ほんの数日で囮役はレベル5に。そして……
【スノウはレアスキル:韋駄天を習得】
習得条件は一切の不明だが、おそらく一定回数以上の何かしらの行動、もしくは一日中走っていたせいなのか。
囮役のレベル上げが楽しくて始めたことだったのだが、これで一気にステータスが上がってしまったのだ。
僕は一人になると、裏路地に行って全力で動いてみる。
ヒュッ……
壁まではおよそ10m、それを一瞬で移動して触れることができていたのだ。
さすがにみんなの前でこの動きは見せられないだろう。
いや、いっそのこと【スキル:縮地】なのだと言って使おうか……
そんなこともあったのだが、今日は倉庫の整理を請け負っている。
実は、毎日ウルフ狩りだけで生活を続けることは難しい。
スライムならばどこでもいつでもポコポコ湧いてくるのだが、ウルフは狩りすぎてしまえば個体数は減る。
だから、数日して冒険者のみんなも街の仕事を優先するようになっていたのだ。
「じゃあ、この倉庫の中の荷物を仕分けしておくれ。
詳細と数の書いた紙を渡しておく。
数が合わないものがあったら、俺に知らせてくれ」
恰幅の良い男性が、僕に紙を渡す。
髪と言ってもアレだ、羊皮紙とかいう硬いゴワゴワなやつだ。
荷馬車四台分の積荷が倉庫の中に下されて、その内訳がこの紙に書いてあるってことだろう。
しかし、これって子供一人でやらせる仕事か?
『依頼主が、あんまりお金は出せないみたいなのよ。
それにスノウだったらきっと大丈夫。
無理でも、できる範囲で整理すれば良いだって言ってたからさ。
何事も経験よ、ケ・イ・ケ・ン』
アイズがそう言うから引き受けてみたけれど、広い倉庫の半分は荷物で埋まっていて、どこから手をつけていいものかと悩む。
手前のチェックしやすそうな箱にはリンゴが入っていた。
これはとりあえず食品なので、あちらの隅に……
今度は毛皮か……そういえばウルフからは採れなかったけれど、なんの毛皮なのだろう?
とにかく仕分けしながら数を数えていく。
すると、明細には載っていない糸の束が一つ。
一つだけということは、別の積荷が混ざっただけだろうか?
とりあえず邪魔だし、空間収納にでも入れておこう……
【スノウはスキル:空間収納3を習得した】
おぉ、こんなタイミングで非常にありがたい。
ん? そういえば、今の空間収納の限界ってどれだけなのだろうか?
僕は目の前の鎧を一つ触れてみる。
やはり大きすぎて入らないみたいだ。
今度は、小さな石が詰まった箱に手をかざす。
砕くとしばらく発光し続ける、その名も『光る石』!
マジでこのゲームの本気度合いがわからない……
魔物のネーミングといい、アイテムの名前といい……
今の僕には役二十個が限界のようだ。
もう少し空間収納が便利に使えれば、倉庫の整理整頓などすぐに終わらせられるのだけど。
……だめだだめだ、片付けを始めるとつい余計なことをしたくなる。
【スノウはスキル:非効率1を習得】
いやいや、そんなスキルがあっても困る。
どんな効果だよ、ちょっとコレ、どうにかして効果を見れないの?
【スノウはスキル:自己分析5を習得】
【非効率1:魔力を通常の二倍消費し、威力を五割高める効果を持つ】
お、おぅ……
それは便利……じゃないよ!
僕のMPはギリギリ魔法一発分なんだよ!
倉庫の整理をサボった自分を呪いたくなってしまった。
その後は黙々と明細と照らし合わせながら仕分けていく。
重い箱は、空間収納に入るだけ入れて軽くしてから動かした。
「えーっと、鉄の矢は一束が二十本で35束……と。
まぁ大体で良いって言ってたし、束の本数は数えなくて良いだろ……ん?」
何気なく手に取った矢の束をよく見ると、明かに本数が少ない気がした。
「じゅう……はち?
いや、一束って二十本だよな?」
この一つだけかと思ったのだが、どうも全ての束が少ないような気がするのだ。
これならば空間収納で入る。
一束ずつ数えるのは面倒だし、こんな時くらいは利用できるだろう。
【鉄の矢(18)を収納しました】
やはりそうだ、どれも全て二本ずつ足りないではないか。
細かいモンスター素材の入った袋、その中身もまた数は足りなかった。
そういえばさっきの男性が言っていたのだ。
『今回初めて取引をする相手だからね。
勝手がわからずに荷物を乱雑に置いてしまったのだよ』
……なるほど、すぐには売り捌けない状況を作って、その間にトンズラをかまそうってことなのだろう。
面白くない話だと思い、僕はすぐに男性にこのことを話した。
「なんだって⁈
じゃあ、ワシはずいぶんと損をしてしまっているじゃないか!」
取引相手は、すぐにでも別の街へ向かうと言っていた。
今はもう門の辺りにいるだろうし、外に出られては追いかけるのも難しい。
「大丈夫、まだ街にいるのなら間に合うと思う」
倉庫の整理整頓は戻ったら続けるからと言って、僕は走り出した。
縮地、いやただの全力疾走だ。
門の前までやってくると、幸い行列に並んでいる四台の荷馬車が見える。
「兵士さんっ! そこの荷馬車を通さないで!」
後から聞いた話だけど、あのまま気付かなかったら被害額は300000Gにも及んだらしい。
現実世界だと300万くらいだろうか?
食品以外は証拠として一時的に差し押さえられてしまったけれど、各地で悪質な行商を行っていた人達だったらしく、男性は報奨金を貰ったそうだ。
「一体どうしてこんなにも依頼報酬が多いのよ……」
袋に入った10000Gは、僕への依頼報酬らしい。
それを渡すべきかどうかと、アイズが悩んでしまっていたのだった。
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