第14話

「いやー、まさか本当に全て倒してくるなんて思いませんでしたよ」

 残すところは領主の住んでいたであろう、屋敷だけであった。

 だが、それほど崩れていない上に、入口は完全に閉じられていた。


 だったら中にモンスターもいないだろう。

 そう思って入るのを諦めたのだ。

「だから言っただろう、スノウ様の手にかかればオークなど他愛もない」

 待ってくれアラン……いつから僕は『様』付けで呼ばれるほど偉くなってしまったのだ?


「私も、廃墟の中に入ったのは初めてですよ。

 こんな風になっていたのですねぇ」

 もしどこかにオークが残っていても、すぐに僕たちが倒すからと。

 そう言うと、御者のおっちゃんも中を見てみたかったのだと言っていた。


 それともう一つ目的が。

 それが領主の屋敷の探索である。

「あなた方が中を確かめなくとも、このオークのいない状況を見た冒険者は、きっと家屋を荒らして回るでしょう。

 でしたら私たちが屋敷の中を見ても同じことですよ」

 そうなの……かな?

 でも僕たちがオークを掃討してしまったが故に起こりうる可能性。

 ひどく荒らされてしまう前に、貴重なものを保存する努力くらいはしてもいいのかもしれない。


「では中に入ってみましょうか。

 少し離れててください、皆さまっ!」

 急に口調の変わる御者のおっちゃん。

 どこから取り出したのか、握り拳ほどはある大きな爆弾が手に握られていた。


「そぉれ! 派手にぶっ飛ばしてくださぁい!」

 急いで身を低くして、僕は耳を塞いでいた。

 それでも『ドーン!!』という音が耳に響いて、慄(おのの)いてしまう。


 『ふぅ……では荒らされる前に、貴重な品を探しに参りましょうか』……って、一体どの口がそんなことを言えるのだ。

 もうすでに、探索開始一秒で、誰が何をするでもなく荒れてしまっているよ。

 いったい誰だよこの空き馬車を選んだのは!


 まぁそんな思いは置いておくとして、僕たちはボロボロに壊れてしまった扉から中へ入ることにした。

 『こんな時のために爆弾を持っておいて良かったですよ』と、まるで悪いことをしたとは思っていないようである。

「はぁ……まぁいいや……」

 どうせ廃墟なのだし、しばらくすればモンスターも復活するだろうし。


 復活なのか繁殖なのかはわからないけれど、ゲームなら復活が正しいのだろう。

 しかし、ウルフが本当に少なくなってしまったことを考えると繁殖に思えて悩むのだけど、まぁどちらでもいいや。


「なっ、中にもオークがいるようですよ!」

 いの一番に飛び込んだ御者のおっちゃん。

 すぐに引き返して、僕たちを見る。


「グォォォ……」

 ぬっ……と壊れた扉から顔を出した一匹のオーク。

 すでに拳は振り上げられていて、今にもおっちゃんが殴られそうになっている。

「あ……あぁぁぁっっ!!」

「「おっさん!!!」」


 アランとボジョレの二人は、もう間に合わないと思ったのだろう。

 大きな声で、オークにやられそうになっているおっちゃんに向かって叫んだのだ。

 ヒュッ……

 そんな二人の足元を、僕が全力で駆け抜ける。

 今ならたった2撃で仕留めることができる僕の攻撃力を見よ!


 ズバッ……ザシュッ……

 振り下ろされたオークの拳は、おっちゃんに当たる寸前のところで光となって消えた。

 ポトッと落ちるオークの皮と、再び現れたレアドロップの指輪。

【怪力リングを装備しました】

【これ以上装飾品は装備できません、別の装備に変更したい場合は一度装備を外してください】


 装飾品は二つまで装備可能なのか。

 まぁ、地味に上がるだけでも十分にありがたい。

 効果としては多分10とか、そのくらいだろう。

 しかし、二つ付けて無双の効果で倍になればプラス40だ。

 大物喰らいのプラス30も合わせれば、トータルで100近い攻撃力があるわけだ。


「あ、ありがとうございます……もうダメかと思ってしまいましたよ」

 ガタガタと膝を震わせながらお礼を言うおっちゃん。

 やっぱり馬車に戻っているかとアランに聞かれるが、それはそれで怖くなってしまったと言っていた。


 道中でモンスターに出会ったらお陀仏だろう。

 いないと思っていた屋敷の中にオークがいたのだから、もうどこに出てきてもおかしくはないと思ってしまったのだ。


「一階はこれで全て……ですね。

 あとは上の階なのですが……」

「心配すんなって、おっさん。

 オークがいても、スノウが全て倒してくれているじゃないか」

 そうなんだよ。問題はそれなんだよな。

 なぜ僕一人でオークを全て倒してしまっているのだろうか?

 そして堂々とおっさんに自慢をするアランは何を考えているのだろうか?


「ねぇ……僕も疲れてきたんだけど」

「あとちょっとだ、頑張るんだよスノウ様!」

 いくらなんでも働きすぎじゃないかと思って進言してみたのだが、すぐにボジョレに背中を押されてしまう。

 みんな二階の様子を見るのが恐ろしいのか、僕を先頭にして上ろうというのだ。


「すぴー……すぴー……」

 確かにモンスターが寝ているような音は聞こえてくるが……

「もうっ、わかったから押さないでよっ!」

 決めた、さっさと倒して馬車で寝よう。

 そう決めたら、少しイライラとしつつも、僕は二階へと足早に上がるのだった。

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