松風家の光景

「お母さーん、今日の晩御飯はなにー?」

 リビングでくつろぐ巫樹が母に尋ねている。

「今日はお母さんパエリアに挑戦してみようと思って。

 ほら、専用のお鍋も買ってきてみたの」


 『まぁたお母さんの凝り症が出たぁ』なんて茶化す巫樹。

 いつもの松風家の風景である。


「お父さんはどうしたの?

 いつもならもう帰ってきてるじゃん」

「今日は会社の人と飲みに行くんですって。

 なにか大変な話があるみたいだから、私と巫樹で食べてていいよって言ってたわ」

 父親はゲームに関する会社に勤めている。

 だが、開発や企画にはあまりかかわっていない様子で、普段は遅くなることは滅多にない。


 そして、今日に限っては兄である神(じん)も部屋に降りてはこないのだ。

「あのバカ兄貴、いったいどうしたんだろう?」

 いつもならコソコソとリビングにやってきて、無言で食事を食べるとさっさと部屋に戻る。

 仕事もせずに毎日家で何をしているのか、気味が悪くて仕方ない。


 そんな風に思っている巫樹とは違って、母は『やさしい子なのだけど』と弁護する。

 仕事をしないことには、少々思うところはある様子。


 食事を終えても神がリビングに顔を出す様子はない。

 流石におかしいと思い、巫樹は母に言われて部屋を覗くのだった。


「ばか……あにきぃ……」

そーっと部屋の様子を覗き見る巫樹。

 灯りは消えており、廊下の電気でわずかばかり見える部屋はとてもキレイだった。

「え、嘘……めっちゃキレイじゃん……」

 その呟きと共に、巫樹は扉を全開にする。


 フィーン……という小さな音とともに横たわる神。

 メット型のゲーム機を装着して、どうやら遊んでいるようだ。

 あんなもの……いつ買ったのだろうか?


 しかし、これで謎は解けた。

 ゲームに夢中で、きっとログアウトを忘れるほどなのだろう。

 最近開発されたというフルダイブ型のゲーム機ならそれも仕方ない。


 おなかを空かせたら出てくるだろうと思った巫樹は、そっと扉を閉めて母に報告に行ったのだった。

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