第2話

「ようこそ、デイズフロント-オンラインへ!

 僕は案内役のチャッピーなのら。

 さっそくだけど、一緒に君が旅を始めるキャラクターを作っていこうよ」

 チャッピーというのか、この犬か猫かわからない生物は。


 まぁ、人気が出なくもなさそうなキャラデザではあるが、真っ先に出会うキャラクターにしては特徴も少なくて微妙なところである。

「じゃあ、まずは名前の入力をお願いするのら。

 苗字の設定は無いから、名前だけでこの世界を旅することになるよ。

 あぁちなみに……」


 チャッピーの話がやたらと長い。

 要約すると、『なんたら=なんたら』というように、プレイヤーが勝手に苗字(ラストネーム)やミドルネームを書き込むことは可能らしい。

 ただし、ゲームの設定上、それをひっくるめて『名前』と判断されるため、ゲーム中の違和感が半端ないよ、とのことだった。


 つまり、無難に名前だけの入力にしてね。ということだろう。

 あとはプレイヤーの判断に任せるということだ。


『おはよう、レーベンゲルグ=ドルイド=アルバート。今日もいい天気だね』

 毎朝幼馴染からそんな挨拶を交わされる、とかそういうことだろう。

 確かに違和感が半端ない。


 そんな俺のネーミングセンスはともかく、まずは簡単な呼び名で登録するのがいいのだろうな。

 と、なると……やはりスサノオだろうか?

 日本神話で風の神といえばこの神様だろう。


 カタカタっと目の前に現れたキーボードで名前を入力するのだが、慣れない配置のためか、何度も打ち間違える。

 バックスペース……エヌ……オー……

 数字を入れようかと思ったが、そんな呼び名を想像したところで再びバックスペースキー。

「まぁ、こんでいいや」

 とりあえず入力をしたところでエンターキー。

 入力にミスがないかを確認しようと顔を上げると、『名前が決定しました』の文字。


「あれ? 確認画面とかないの?」

 普通は『はい』『いいえ』の選択肢くらいあるだろうが。

「スノウだね、いい名前なのら。

 次はステータスだけど、どっちのタイプで入力する?

 簡単に選べる方と、こだわりタイプがあるのら」


 ス、スノウか……まぁ意味の分からない名前にならなくてよかったともいえる。

 アンケート機能でもあれば、絶対にこのシステムは修正するように報告したいところだ。


「もちろんこだわりタイプだな。

 っつか、素早さに極振りしてやろう……」

「良いのら? スノウ。

 極振りはあまりオススメしないのら」

 理由は様々だけど、ストーリーに詰んでしまってやめる原因になることが多いからと。

 そんな製作者側の都合をつらつらと並びたてられる。


「まぁ自分で買ったゲームなら、やめたくなるようなステータスにはしたくないもんな」

「そうのら。それに、一度決めた名前やステータスは変更不可なのら。

 このゲームにやり直し機能は無いし、中の世界も刻一刻と変化していくのらよ」

 まさかのやり直し不可は思っていなかった。

 まぁオンラインゲームだから、中の世界は当然動き続けてはいるだろうけれど。

 それにしても意味深な物言いである。


「わかったのら。

 体力や防御力が低くても、プレイヤースキル次第ではある程度うまくやれるのら。

 きっとスノウはそういう超上級者なのらね」

 ちょっと馬鹿にされたような気もしたが、システム的には応援するつもりで言ってくれているのだろう。

 そう考えるようにしよう……


「じゃあ、あとはなりたい自分を想像するのら。

 難しく考えなくても、僕が君の姿を理想に近づけてあげるのら」

「え? 自分でメイキングするんじゃないのか?」

 よくある髪型などのパーツを組み合わせてキャラクターを作るシステム。

 チャッピーが言うには、『それをプレイヤーに任せると、なかなか先に進めないのら』だそうだ。

「それに、僕の担当する次のプレイヤーが待ってるのら。

 セットアップってごまかして待っててもらってるのら」


 まさかのセットアップ詐欺だったとは。

 ということは、俺の前にキャラクターメイキング待ちでその時間がかかっていたということか。

 いやいや、普通は一人ずつ案内役がいるもんじゃないのか?

「チャッピーの肉体は一つなのら。

 無理を言われても対応できる人数はかぎられているのらよ」


 なんと世知辛いシステムだ。

 俺が目を閉じて、なりたい自分を想像する。

 そんなことをいっても、実際のところよくわからない。

 絵を描くときみたいに、細部まで想像すればいいのか?

 顔はなんとなく浮かんでも、そんな全身の骨格なんてわかるわけがない。

 いや、絵を描ける人はそうではないのだったか……

 全く、すごい才能だ……


「出来上がったのら!

 すっごくかわいいのらよ。スノウにピッタリのら」

 かわいい?

 俺は鎧を着た竜騎兵みたいなものを想像していたのだぞ?


「それと、余計なおせっかいかもしれないけど、それは才能じゃないのら」

 突然なんの話をしだすのだろうか。

「手を描くのが苦手、身体を描くとバランスがおかしい。

 それは見る努力をしていないからなのら。

 試しに目を瞑って僕の姿を想像してみるのら」


 なぜゲームをしようとしているのに、そんなことをシステムに忠告されているのだろうか?

 これは実はお絵かきゲームなのか?

「違うのら、さぁ試してみるのら」

 俺は目を閉じて目の前にいたチャッピーを想像する。

 確か犬のような耳で、輪郭は丸めで……

 途中まではわかるのだけど、指先や関節の向きは想像ができないでいた。


「分かったのら?

 なんでも『才能』で片づけていたら、このゲームはうまくなれないのら。

 努力、注意することで手に入るのがスキルなのら。

 頑張ってゲームをうまくなってほしいから、教えておいたのらよ」

 なるほど、きっと誰にでも同じことを教えるシステムになっているのだろう。

 ゲームのヒントってやつなのだろう。


「じゃあ楽しんでくるのら~」

 えっ? 目的は?

 そんな大事なことを何も知らされることもなく、俺は新しい姿でゲームの世界へと転移させられるのだった……

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