第24話 汁の闘争。
俺はそっと左手を掲げた。
いま思いついた色欲魔法を、クラーケン娘のミルク・オ・ザーザーで試すのだ。
宙を躍る魔法陣は――十八個。
「ぐるるぅ!?」
ミルクが肩を震わせ、一歩後退した。
左手にほとばしる魔力を感じ取り、危機感を抱いたのだろう。
しかし状況は待ったなし。
俺は左の人さし指を立て、ミルクにビシッと突きつけた。
「――己の毒で、天へと昇れ!」
それが射出の合図である。
左手のまわりを漂っていた十八個の魔法陣が、一斉にミルクへと襲いかかる。
魔法陣は乳白色のぬるぬるボディに残らず吸収され――――しばしの静寂が訪れた。
「ぐる……るぅ?」
低くうなるクラーケン娘。
ひっきりなしに粘液を分泌し続けている身体をにちゃにちゃと撫で回し、変化が起こっていないか確かめている。
それはまるで、全身にローションをまぶした美女が、身体の隅々までぬるぬるを行き渡らせているような……。うむ、たいへん興奮する絵面である。
ややあってから、青い瞳がこちらを睨んだ。
「ぐるるうううぅぅ!!」
なによ! 何も起こらないじゃない! とでも言いたげだったが、しかし。
「ぐるっ!? うるるぅ……!?」
時は――来た。
ミルクが自分の身体を両手でにゅるっと抱きしめ、下半身の触手をモジモジさせ始めたのだ。
乳白色のイカ肌が紅潮していく。
鍋で茹でられるタコのごとく。
「ぐるっ……りゅんっ! るりゅ、るぅっ……んりゅんんっ……!」
こちらを悔しそうな顔で睨みつけながらも、ミルクは床に崩れ落ちた。
ヒクッ、ヒクッと背中を波打たせ、下半身のモジモジが時とともに激しくなっていく。
「き、効いてる……んですよねっ?」
「これ……どういう状況なのですか?」
リベルと王女が顔を見合わせ、『ねー?』と仲よく首をかしげている。
俺は二人にも聞こえる声量で、床で悶えるミルクに告げた。
「お前や、外のジャイアント・クラーケンどもの墨や粘液は、強力な媚薬になっている。しかし、お前たち自身は快楽を得ていない――。己の毒で命を落とす有毒生物がいないようにな」
「るぅんっ……んりゅりゅっ……るぅっ、るぅンン……!」
ミルクは切なげな声を上げ、自身の胸部にこんもりとそびえ立つ、立派なやわらか海底火山を揉みしだき始めた。
ついに耐えきれなくなったのだろう。
たっぷりの粘液のせいで、いやらしく光沢を放つツルツルのボディ――それを一心不乱にこね回す美女の姿は、俺の下半身を海神の槍へと導いていく。
「るぅぅっ……んんっ、うりゅりゅうぅぅ……んんっ! んん……っっ!!」
ついにミルクは、空いた片手を下半身へ持っていった。
触手の根元を指先でくちゅくちゅ擦り、そのたびにビクンッ、ビクンッと電気刺激を帯びたかように背筋を跳ねさせる。
にゅるっ、ぢゅぐっ……ぐぢゅるっ、ぬろおぉぉ……。
触手と触手が擦れ合う。絡み合う。もつれ合う。
粘液の分泌が激しくなり、濁った水音が大きくなっていく。
「りゅんっ……るるぅぅ……! はぁ、んりゅんっ……るるぅぅ……!!」
ほどなくして、彼女を覆う粘液が白っぽく泡立ち始めた。
その様子は想像よりも官能的だったが、俺は心を乱すことなく色欲魔法の説明をする。
「俺が施したのは、液体の成分を変化させる色欲魔法だ。……もうわかるな? お前の墨や粘液に含まれる媚薬の効果をアップさせ、なおかつお前自身にも効いてしまうように、成分を組み替えたんだ!」
この色欲魔法を駆使すれば、イカ風味の放出物をミルク味やイチゴ味にすることだって可能なのである!
これが、何を意味するのか。
そう。
ぶっかけのハードルを、限りなく低くできるのだ!!
ぶっかけが全人類共通の標準的なプレイになる未来を、俺は願って止まない――。
さて。
このように、俺の想像力と発想の転換をフル稼働させることによって、新たな色欲魔法は常に生まれ続けるのである。
階段パンチラが多く発生する場所と時間帯はどこか、屈みブラチラを効率よく目撃するにはどう立ち回ればよいか、そういったことを考え抜くのと、まったく同じように。
「るるうぅぅぅぅっ!?」
俺の言葉が通じているのかいないのか……。クラーケン娘のミルクは両目を吊り上げ、怒りを露わにしている。
――だが、抗えない。
「るぅぅっ……んっるゅぅ! るぅんっ、るぅんっ、るうぅぅぅぅうぅんっっ!!」
ビクンッ! ビクンビクンッ!
ミルクは全身のローション……いや、発情粘液を撒き散らしながら激しく痙攣すると、その場にふにゃふにゃと崩れ落ちた。
――ぷっしゃああああぁぁぁぁぁぁ…………。
彼女の下半身から漏れ出した大量の墨が、毛足の長い絨毯にじわじわと広がっていく。
「るる、ぅ……。るぅ……んっ。…………」
それっきり、ミルクは気を失ってしまった。
下腹部の淫紋がだんだんと薄れていく。
「消える淫紋か……。こいつは誰かにテイムされていたというのか? ……ユニヴェール聖教の残党が、クラーケン娘を使って王都を襲撃した……?」
一人でブツブツと可能性を検討する。
テイムされていたというなら、ミルクから詳細を聞き出そうとしても無駄だろう。おそらく、淫紋が消えると同時に記憶も消えるパターンである。
ともあれ。
クラーケン娘のミルク・オ・ザーザー。
どうやら再起不能のようだ。
「スンスン……ふむ」
ミルクが描いた恥ずかしい世界地図からは、ほのかに海の香りが感じられた――。
「さて、どうやら外も終わったようだな」
俺は世界地図の香りを堪能しつつ、リベルと王女様に向き直った。
窓の外から、盛大な歓声が聞こえてくる。
おそらく魔法騎士団や憲兵たちが、ジャイアント・クラーケンどもの討伐に成功したのだろう。
「王女様、お疲れ様でした。皆の団結が王都を守ったようです」
俺は歩みを進め、ベッドの裏に隠れていた王女に手を差し伸べる。
彼女はおずおずとその手を握り、
「あ、ありがとうございます、ゼクス……様。王都を守ったのは騎士団たちかもしれませんが、私の命を救ってくださったのは、他ならぬゼクス様です……」
うっすら頬を染めながら、とろけた視線で俺を見上げてくる。
さっきまでの冷たいツリ目がウソのようだ。
俺は王女の金髪を撫で、
「こちらに駆けつけられたのは、弟子のリベルが邪眼を使いこなせたからです。リベルの邪眼がなければ、クラーケン娘の初撃には間に合いませんでしたよ」
そこまで言って、はたと気づいた。
いつものクセで相手の髪を撫でていたのだ。
王女様のロイヤルブロンドを、である。
これはいかん。不敬罪だ。
よし、首をはねられる前に、いっそロイヤルな膨らみに顔を埋めて舌で――。
と、思ったのだが。
「あぁっ。殿方に、頭をナデナデ……。こ、こんなの初めて……はぁ、ぁあっ!」
トロンとした上目づかいで俺を見つめて、王女はご満悦の様子。危なかった……。これなら、あえて謝罪することもないだろう。
それから王女はリベルにも感謝を述べ、固い握手を交わした。
「ゼクス様。リベル様。この御恩は一生忘れません!」
ドレスの裾を優雅につまみ、王族式の礼をする王女。
思わぬところでロイヤルな繋がりができてしまったが、忘れてはいけない。俺とリベルが王都を訪れた目的は別にあるのだ。
――勇者の世界樹。
二〇〇〇年前、前世でともに戦った大切な相棒、レヴィ・ベゼッセンハイトの墓参りである――。
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