第2話 色欲魔法――発動!!

 ロリサキュバスのスージーが翼を広げ、宙に浮かび上がった。


「ちょうどいいおじさんを狩ってくれば、一人前のサキュバスとして認めてもらえるんだもんっ! アタシのために、サクッと犠牲になっちゃってね~!」


 八重歯を見せてキシシと笑い、スージーが右手を掲げた。

 鋭い爪が窺える。

 ロリとはいえ、サキュバスだ。爪による攻撃は定番というわけか。


「それぇぇ~!」


 次瞬、スージーの姿がブレる。

 風を切り裂き、小さな影がこちらへ突進してきた!


 ……たしかに普通のおじさんならば、このまま爪の一撃を食らってしまうだろう。


 だが、俺はゼクス・エテルニータ。

 前世では【魔導王】、前々世では【剣聖】と呼ばれた大賢者だ。


「え~い!」


「ふんっ」


 バキンッ!


 あたりに響いたのは、俺の肉が裂ける音ではない。

 スージーの爪が硬いものにぶつかって弾かれる、鈍い衝突音である。


「くっ……。おじさん、それ……」


「木の棒だが、どうかしたか?」


「い、いつ拾ったの!? なんにも見えなかったんだけど!?」


 そう。

 俺はスージーの爪攻撃を、足もとに落ちていた木の棒によって弾き返したのだ。


 ロリサキュバスの顔が引きつる。

 俺にしてみれば、爪攻撃が近づいてくるのを確認してから、普通に棒を拾って応戦しただけなのだが……。


「どうした? まだやるか?」


 あえて挑発的な口調で言ってみる。


 スージーはギリリと奥歯を噛みしめて、


「や、やるもん! おじさんを倒して、一人前のサキュバスに……」


「なにやら事情があるようだが、俺には関係ないことだ。俺には色欲魔法を極め、仲間を集めて宿敵を倒すという使命がある。その障害となるメスガキは、排除するのみだ」


 俺とスージー。

 互いの視線がぶつかり合う。

 

 ……やがて、彼女の顔に冷や汗が浮かび始めた。


 そのときだ。


「きゃあああああ! えっちなおじさんが、太くて長くて硬ぁ~いもので襲ってくるうぅぅぅ~! 憲兵さぁ~ん!」


 起死回生の一撃とばかり、またしてもスージーが悲鳴を上げた!


 が――。


「フッ。俺に二度、同じ手が通用すると思うなよ」


 俺は動じず、太くて長くて硬い木の棒を構え直すのみ。


「うぐぐっ……。だったらもう、破れかぶれだよぉぉぉ~!!」


 スージーが声を荒らげ、再び突進を開始した!


 いやいや、もうちょっと考えればいくらでも作戦は見つかるだろうに……。

 そう思わなくもなかったが、突進してくるのだから仕方ない。


「おじさ~ん! 覚悟してぇ~!」


 このままカウンターでスージーの顔面をぶっ叩いてしまうのは簡単だ。

 しかし、それは少々気が引ける。

 大人をナメきった態度は気に入らないが、それでも愛らしいロリサキュバスなのだから。


 何かいい手は……。


「――そうだ、これを使おう。……そら、食らえっ!」



 どぴゅっ! どびゅるるるっ! ぶびゅるるるるるるるるる……!!



「わぷうぅっ!?」


 俺の攻撃が、スージーの顔面に直撃した。


 攻撃とは――そう、白く濁ったドロドロの粘液である。


「う、うぇぇ……なにこれ!? なにこれぇぇっ!?」


 大量の粘液を顔面に浴びたスージーは、そのまま失速。

 あえなく地面に墜落してしまった。


「スンスン……うわぁぁっ、なんだか苦くて生臭いよぉぉ~……」


 顔をゴシゴシ拭ったスージーが、手についた白濁液に鼻を近づけて嫌そうな顔をする。

 そんな彼女を見下ろし、俺は教えてあげた。


「心配するな。それは卵の白身をよくかき混ぜ、少量のミルクを加えただけの液体だ」


「はいぃ!? そ、そんなのいつ用意したの!? 今おじさんから出てきたじゃん! どぴゅどぴゅって!」


「人聞きの悪いことを言うな。俺が持っていた木の棒を少し溶かして、粘液に変化させただけだ。第三階梯魔法――ザー・メルトでな」


「第三階梯魔法……!?」


「そうだ。それっ、それっ」


 どびゅるっ! ぶびゅっ! どぷどぷどぷどぷっ……!


 俺はロリサキュバスに木の棒を向けると、ザー・メルトを使って白濁液を発射した。


 確認する。

 白く濁った粘液は、卵の白身をよくかき混ぜ、少量のミルクを加えただけの代物だ。

 それ以外のモノでは断じてない。

 食べても安心の素材である。


「わぷっ! うぇっぷ! うぶぅぅ……や、やめてよぉぉ……!」


 お汁は残らずスージーの顔面にヒット。

 ピンクの髪も、かわいい顔も、すぐさまドロドロになってしまった。


 俺はさらに歩を進め、再びスージーに棒の先端を向ける。


「さて……大人をナメたこと、少しは反省したか?」


「うぅぅぅっ……うぅぅぅ!」


 スージーは悔しそうに眉を歪めている。

 鋭い目つきで俺を睨みつけるが、顔が白濁まみれなので何の迫力もない。


 勝敗は、決した。


 ――かと思ったが。


「も、もういい! 無詠唱で第三階梯魔法が使えるなんて、話が違うよぉぉ~!」


 白濁液で顔じゅうをドロドロにしたまま、ロリサキュバスが逃げ出した!


 あくまで反省する気はないらしい。

 ……まあ、これだけ顔を汚したのだから、お仕置きとしては充分な気もするが。


 おっと。

 そういえば、聞いておきたいことがあった。


 トンッ! と地を蹴り、俺は一陣の風となってスージーの前方へ先回りした。


 これぐらいのフットワークは余裕である。

 戦っているうちに、少しずつ【剣聖】としての力が戻ってきたようだ。


「少し教えてほしいんだが……」


 近くの壁にドン! と手を突き、ロリサキュバスの退路を塞いだ。


「ひぇぇええ……!」


 追い詰められた彼女は、すっかり涙目である。


「この近くに、若い魔法使いが集まる場所はあるか? できれば魔法学校のような施設が望ましいんだが……」


「し、ししし知らないもんね! ドビュドビュおじさんなんかに、ぜ~ったい教えないんだから!」


「そこをなんとか頼みたい。俺は魔法学校へ編入し、色欲魔法を極めたいんだ。若い男女が集まる場には、色欲への関心と恥じらい、振れ幅の大きな感情、そして瑞々しい肉体が揃っている。学校こそ、色欲魔法の研究と開発に最も適しているんだ。できれば、学校内で仲間探しも……」


「うぅぅ! もぉやだぁ~! ねぇた~ん! ママぁぁ~!」


 やれやれ、これじゃあ埒が明かないな。


 俺は右手を掲げ、そこへ魔力を集中させた。

 手のまわりに四つの小さな魔法陣が発生し、ゆっくりと回転を開始する。


「こ、今度は第四階梯魔法!? しかも、また無詠唱で!? おじさん、ザコザコのはずなのに……ウ、ウソでしょ!?」


「……ん? 第四階梯魔法ぐらいで、何を騒いでいるんだ?」


「ぐ、ぐらいって……。おじさん何者!? 怖いよぅ!」


 第四階梯魔法といえば、今まで何ら苦労することなく、日常生活で使ってきたレベルである。

 このロリサキュバスは、何をそんなに驚いているのだろう。


 疑問に思いながらも、俺は彼女に右手を近づけた。


「だから、俺はゼクス・エテルニータだと言っているだろうに。……まあいい。ザー・メルトの次は、コンフェスを味わうといい」


 コンフェスとは、軽めの自白魔法である。


 俺の指先がスージーの唇に触れた瞬間、


「あぅ、あぁ……あぁぁあぁ」


 ぺったんボディがビクンと跳ねて、顎がカクカク揺れ始めた。


「こ、こ、この街道を馬車で半日ぐらい行くとね……お、王立ファナティコ魔法学院っていう学校があるの。こ、この時期……ちょ、ちょうど編入試験をやってるんじゃないかなぁ~?」


「そうか。有益な情報、ありがとう」


 言って、俺は自白魔法を解除した。


「はぁ、はぁ……。自白魔法……ヤバすぎぃぃ……」


 スージーが目を白黒させる中、今度は左手を掲げてみせる。


「情報の礼として、特別に色欲魔法の一端を体験させてやろう。この玄妙かつ深遠な魔法体系に、俺は三度目の人生を捧げるつもりなんだ」


「きゃんっ!」


 ぷにゅんっ。

 左手の指先で、ロリサキュバスのお尻をつっついた。


 すると彼女の全身がヒクヒクと震え始め、


「えっ……えぇっ!? なにこれっ、身体が勝手にいぃぃ……!?」


 混乱も露わに、こちらにお尻を突き出してきた!!


 お尻ペンペンを待ち望むポジションだ。

 これはいい。小さくてまあるい、まさしく玉のような尻である。


 さて。

 少女が尻を突き出してきたら、ほどよく引っぱたくのが賢者の嗜みである。

 ゆえに……それっ!


 ぺちんっ!


「あっひいいぃぃぃいぃぃぃいぃいぃぃぃいぃぃ!!」


 その悲鳴に、苦痛の色はカケラもない。

 聞こえてくるのは快楽の叫び。


 このロリサキュバス・スージーは、俺に尻を叩かれて興奮しているのだ。


「はひぃっ……あひぃ……。な、なんで……? アタシ、お尻を叩かれて、こんな……ぜ、ぜったいありえないのにぃぃぃ……」


 ぺちんっ!


「ひぃぃぃんっ! はぁ、はぁ……ヤ、ヤバぁぁ……痺れりゅ……ゾクゾクしゅるぅぅぅ……!」


 尻をいやらしくヒクつかせ、すっかり両目がハートマークになっているロリサキュバスに、俺は告げる。


「どうだ、面白いだろう? これこそ、『身体の一部を強制的に性感帯にしてしまう色欲魔法』だ! 正式名称は、まだない!」


「~~~~~ッッ!?」


「どうだ、そろそろ反省したか?」


 父性をもって優しく訊ねる。


 さすがのロリサキュバスも、これには耐えられなかったようだ。


「はひっ、はひぃぃ……ごめんなさぁぁい! アタシがっ、あぁぁっ、んひぃっ……ア、アタシが悪かったですぅぅぅ……!」


 尻を突き出した姿勢のまま、スージーが涙目謝罪をキメてみせる。

 頬は紅潮し、顔が快楽にとろけているので、心の底から反省しているかは疑問だが。


 とはいえ、ひとまずこれで一件落着。

 俺は次なる目標に思いを馳せ、遠い目をした。


「フッ。これでしばらくは、世のおじさんがナメられることもないだろうな」


 スージーの尻をペチペチやりながら、続けて第六階梯魔法・テレスゲート――転移魔法を展開する。


 行き先は王立ファナティコ魔法学院とやら。

 三度目の人生の拠点となるであろう、新たなるステージだ!

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