第3話 魔法学院の落ちこぼれ少女。

 スージーと戦ったおかげで、俺のステータスは大きく改善した。



【名前】ゼクス・エテルニータ

【種族】人間

【ジョブ】魔導王、剣聖

【装備】冒険者の服

【状態】やや筋肉質、ご立派

【所持金】なし

【HP】1919/1919

【MP】9999/9999

【筋力】1181

【防御】1129

【敏捷】1169

【知力】0721

【性欲】4545

【回数】1日9回(以下の要素が含まれるフィールドでは、11回以上に増発可能。 <状態>無乳~爆乳、むちむち太もも、尻肉たっぷり、乳袋、腹筋に縦ライン、汗まみれ <装備>綿ぱんつ(純白)、しまぱん(白×水色)、Tバック&ガーターベルト(黒レース)、黒タイツ、ニーハイソックス、全裸タイ <体勢>しゃがみパンチラ、階段のぼって尻たぶチラリ、膝まくら状態での授乳、顔面騎乗)



 悲惨だった【筋力】【防御】【敏捷】が、そこそこの値になっている。

 これから戦闘を繰り返していくうちに、いずれは前世の力を取り戻せるだろう。


「おぉ……これは見事な学び舎だな……」


 転移魔法を解除した俺は、王立ファナティコ魔法学院の立派な校門を見上げた。


 案内板によると、この学院は広大な敷地の中に、たくさんの校舎や図書館、運動場を有しているらしい。


 ここから見える範囲だと、建物は石づくりのようだ。

 建築様式も二〇〇〇年前と大差ない。


 校門には『編入試験』の看板が出ている。

 あたりには受験者や保護者、魔法学院の生徒らしき人々の姿が窺えた。


 革のクツに布の服。帽子、マント、腰の剣、長い杖……。


 わかってきた気がする。

 二〇〇〇年の間に、やはり一度は文明が滅びてしまったのだろう。


 原因は不明だが、二〇〇〇年前と服装や建築に大した進歩がない以上、文明が一巡してしまったと考えれば辻褄が合うような気がする。


「となると、俺が遺した『魔導全書』も失われてしまったのか……?」


 前世で『魔導王』と呼ばれた大賢者だった俺は、転生前に一冊の本を完成させた。

 当時存在した魔法はすべて習得していたので、後世のために詳しい解説書を記しておいたのである。


 簡易的な封印とはいえ、しばらくは金剛処女神・ユニヴェールが存在しない平和な世界が訪れた。新たな歴史を刻む人々が、俺の本で魔法を学んで世界を大いに発展させていたら……。と密かに期待していたのだが、そう上手くはいかないようだ。


「ふぅ……。さて、会場は?」


 少なからず落胆しつつ、あたりをキョロキョロしていると、


「編入試験の受験者さんですかっ?」


 普乳の少女に話しかけられた。

 短いスカートが特徴的な制服姿だ。『案内係』という腕章をしている。


「ああ、そのつもりだ」


「わかりました! この時間ですと……こっちの運動場ですよ!」


 笑顔がまぶしい少女に導かれ、校門をくぐった。


 整備された石畳。緑豊かな植え込み。中庭の噴水。

 学習環境は理想的に思える。


 敷地のあちこちに老賢者の銅像が置かれているが、学長か何かだろうか。

 どの銅像も奇妙な決めポーズを取っており、なにやら薄気味悪い老人である。ああはなりたくないものだ。


 それはともかく、この王立ファナティコ魔法学院。女子制服のスカートが絶妙に短く、太ももの肉感を鑑賞できるのはポイントが高い。

 案内係の少女の太ももが、傷ついた俺の心をぷりぷりと癒やしてくれる。


 前々世では『剣聖』と呼ばれていた俺だ。

 あらゆる強敵たちの剣の動きをことごとく見切ってきた眼力は、案内少女が歩くたびに、その太ももがぷるっ、ぷるんっと微かに揺れる様子を一瞬たりとも見逃すことはない。


 ――思えば、二〇〇〇年前にこれほど太ももを露出していたのは、俺の相棒にして勇者の少女――レヴィ・ベゼッセンハイトぐらいだった。


 ほとんど下着と変わらないようなショートパンツから伸びる、レヴィの瑞々しいむっちり太もも……何もかも皆、ちょっとえっちで懐かしい。


 前世の記憶に思いを馳せていると、


「えーっと。受験者さんは、この編入試験を何でお知りになりました?」


 案内係がメモを取り出して言った。受験者の意識調査だろうか。


「ついさっき、とある少女に教えてもらった」


「はぁ~なるほど……って、ついさっきですか!? 自分で言うのもアレですけど、この国随一の名門校ですよ!?」


「ああ。俺の魔法を極めるのに丁度良いと思ったんだ」


「それはまた大胆な……。うちの学院って、在学中に魔獣の討伐を請け負ったりする子もたくさんいるんですよ? それに、卒業後は王立の魔導騎士団に入って、本格的に魔族と戦ってる子もいるレベルなんですが……」


 安易な受験者に、少女がやんわり忠告してくれる。


 なるほど。

 この時代の魔法使いは、やはり魔獣や魔族との戦いを再燃させているらしい。

 金剛処女神ユニヴェールの封印と同時に、魔獣や魔族は消滅したのだが……。


 奴の復活が近いこともあって、どこかから邪悪な魔力が漏れていたりするのだろうか。

 それが魔獣や魔族のエネルギー源になっている可能性もある。


「生徒のレベルが高くたって構わない。俺も一緒に力を高めればいいさ」


「ま、まあ、そういう見方もありますね。でも編入試験の倍率はかな~り高いですから、頑張ってください!」


 すると案内係は思い出したように、


「おっといけない。受験者さんのお名前を聞いてませんでしたね」


「そう言えば名乗っていなかった。俺の名はゼクス……」


「きゃあぁ!」


 言葉の途中で悲鳴が上がった。

 前方で、栗毛の少女が転んだのだ。顔からの着地である。

 ロングヘアが石畳にぶわっと広がって、かなり盛大なコケっぷりだ。


 彼女が山ほど抱えていたタオルが、そこら中にぶちまけられている。

 栗毛の少女も制服姿だ。ここの生徒なのだろう。


「あぁぁ……すみません、すみません……」


 そのときだ。

 背中を丸めてタオルを拾い集める少女に、鋭い声が飛んだ。


「チッ! あのさーリベル、マジで勘弁してくんない!?」


「ホントそれ。どれだけ鈍くさいの? だからアンタとは組みたくなかったの!」


「キャハハ! 冗談は実技のデキとデカ乳だけにしてよぉ~!」


 同じくタオルを抱えた三人の女子生徒が、リベルと呼ばれた栗毛の少女にゴミを見るような目を向けている。


「うぅっ……ごめんなさい……」


 涙目になって怯えるリベルを放置して、女子生徒たちはさっさと校舎の向こうへ行ってしまった。


「なんてことを……」


 俺はリベルのもとへ走った。

 身をかがめ、『剣聖』のフットワークによってタオルを瞬時に回収する。


「ふぇっ!?」


 リベルは驚いた様子でこちらを見上げた。


 ずいぶん小柄な少女だ。

 長い前髪で左目が隠れている。

 全身に負のオーラをたっぷりまとっているものの、栗色の髪は美しく手入れされ、ほんのり甘い匂いが漂ってきた。


 それはさておき。


 ――衝撃だ。

 俺は心底、衝撃を受けた。


「あ、あの……あ、ありがとうございますっ!」


 リベルがお辞儀をした拍子に、たっぷぅん! と弾んだのだ。

 それはもう大きく、まあるく、やわらかそうに弾んだのだ。


 彼女が胸部に保持している、絶世の膨らみが!!


 手に収まるか否か――そんなこと、論ずるまでもない。


 こんなサイズは見たことない……!


 なんと制服の生地が、胸の部分だけパツンパツンに張りつめているのだ。

 身体が小さいせいか、その圧倒的すぎる存在感が大いに強調されている。


「お乳様……! これはまさしくお乳様!」


「??? あのぅ……?」


 小首をかしげるリベル。


「……すまない。どうした?」


 芸術的かつ暴力的な神域の至宝に、ついつい見入ってしまった。

 いや、頭を垂れて祈りを捧げたい衝動に駆られていた。

 願わくば、頭を垂れた拍子に顔を埋め、日がな一日その存在と体温を堪能したい心持ちである。



 転生して、よかった……。



「えっと……受験者さん、ですか?」


「あ、ああ。これから試験だ。ほら、次からは気をつけるんだぞ」


 言いながらタオルを渡すと、それを受け取ったリベルはカ~ッと頬を染めた。


「タオル……あ、ありがとうございました! あの、その……し、試験、がんばってくださいっ!」


 再び深く礼をして、彼女は校舎の向こうへ駆けていった。

 さっきまで背中に立ち込めていた負のオーラが、ほんのり和らいでいるように思えた。


 けれども危なっかしい足取りだ。

 あれではまた転んでしまうかもしれない……。


 転ぶリベル→下敷きになる俺→おっきくてやわらかい。

 ……おぉ、現代における幸福の方程式が完成した。

 色欲魔法の構築が止まらないぞ。


「ふぅ……。心を芯から祝福された気がする」


「受験者さん」


 お乳様への信仰心に打ち震える俺に、案内係の少女が告げる。

 ひどく、冷たい声音で。



「別に助けなくていいですよ。アレはいつもあんな感じですから。ははっ」



 そうして彼女が見せたのは、嘲るような笑み。

 先ほどのまぶしい笑顔がウソのように頬が歪んでいる。


 王立ファナティコ魔法学院。

 美しい外面とは裏腹に、なにやら闇を抱えているようだ。

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