第16話 副生徒会長・ユリーヌの悶絶。
「頭がおかしくなりそうですわ……」
わたくし、王立ファナティコ魔法学院の栄えある副生徒会長、ユリーヌ・パルテノスは、生徒会室の自席に突っ伏しました。
ぐにゃ~っと脱力し、深いため息をこぼします。こんなはしたない姿、他の誰にも見せられませんわ。
もうすぐ陽が沈みます。
けれどもわたくし、今日は授業に出られませんでしたの。
「まさか、我が校の生徒が憲兵のお世話になってしまうなんて……」
そうです。
数日前の放課後、フターナの町に繰り出した三人の女子生徒が、あろうことか自らのお乳のサイズを大声で宣伝して回ったんですの。
しかも我が校の制服姿で!
三人はあえなくお縄に。
そのまま憲兵隊の留置牢に入れられていたのを、さっきわたくしが引き取りに行ってきましたわ。
「なのにどうして、わたくしが憲兵に尋問されなければならないんですの!? あれはまるっきり変態の元締めを見る目でしたの!」
あの三人に文句の一つでも言ってやりたくなりましたけど、
『邪眼こわい……ううっ、リベルさまこわいぃぃ……』
『ごめんなさい……いい子になります、なりますから……ごめんなさい……』
『あはっ、ぁははー☆ じゃがん……しきょくまほ~……ぁはは~☆』
アマンダ、ディビ、カリーナ。
三人とも心に深い傷を負っていたようでしたから、今回だけは勘弁してあげましたの。
先日の模擬戦の後、この三人が以前からリベル・ブルストにひどいイジメを働いていたことが全校に知れ渡りました。
暴露と宣伝を行ったのは、リベル・ブルストのクラスメイトたちですの。
邪眼使いに取り入った方が得策だと考えたのでしょう。
イジメと痴態の件を合わせ、アマンダたち三人は無期停学。
心の状態が回復次第、追って厳しい処分が言い渡されるそうですわ。
あと、イジメ問題の責任を取って、担任教師は一ヶ月の謹慎と大減給。
生徒会長も五日間の謹慎ですの。
その間、生徒会長の仕事はわたくしにのしかかってくるのですから堪りませんわ。
「はぁぁぁ~」
また大きなため息を洩らし、金色の巻き毛を指先でくるくるさせていると、
――ガチャ。
ドアが開き、小柄な生徒が入ってきました。
水色のショートボブ。
三白眼の下に浮かんだ濃いクマ。
「っ! アイリスさんっ!」
わたくしは慌てて背筋を伸ばしました。
副生徒会長たるもの、だらけているのを見られるわけにはいきませんもの。
「……あぁ、ユリーヌ。お疲れ。今日もふざけた大きさのおっぱいだね……」
「ッッ!?」
わたくしは両手でお乳を隠します。……隠しきれませんが。
「は、はしたないですわよ!? いつも言っていますが、王立ファナティコ魔法学院の風紀委員長たるもの、言動の品格には格別の注意を……」
「あー……はいはい」
ひらひらと手を振り、アイリスさんは面倒くさそうにわたくしの忠告を受け流しました。ムキーッ!
「……って、ずいぶんお疲れみたいですね?」
アイリスさんの様子がおかしいです。
歩き方と瞳の淀み具合が、まるでアンデッドですの。
「広報委員会とか新聞委員会に、活動制限の要請してきた……。めちゃくちゃ反発されて、すごく、疲れた……」
「……あの邪眼使いの件ですの?」
「んっ、そう。……騒ぎすぎ。だけど、職員室もひどかった。リベル・ブルストを学院の広告塔にしようって、先生たち、みんな鼻息荒くしてて……」
「浅ましいですわね。あの子が冷遇されているのを以前から知っていたくせに、邪眼に覚醒した途端、宣伝に使おうとするなんて」
……そうは言っても、わたくしにも先生方を批判する資格はありませんわ。
実力に乏しい魔法使いが冷たくあしらわれるのは、ある程度仕方がないと思っていますもの。
それが魔法使いの常識ですから。
……だからといって、イジメに発展するのは断じていけませんが。
「色欲魔法……」
ご自分の席についたアイリスさんが、忌まわしい単語を!
「ア、アイリスさん!? わたくしの前でその単語を口にしないでくださいます!?」
思い出すだけでお腹の奥が切なく……ではなく、全身に鳥肌が立ちますわ!
お耳に『ふぅ~』っと息を吹きかけるなんて、恋人にしか許されない行為ですのよ!?
「……いやいや。今回の場合、邪眼と色欲魔法は切り離せないでしょ……」
「そ、それはそうですが……」
現代に転生してきた魔導王の大賢者ゼクス・エテルニータが、色欲魔法とやらを極めるついでに、学院の落ちこぼれを邪眼使いに覚醒させた――。
学院内はそんな話で持ちきりです。
「……ユリーヌも感じたでしょ? あの自称ゼクス様の変態は、もしかしたら本当の本当にゼクス様かもしれないって」
「うぐぐっ……ま、まぁ……」
白状しましょう。
わたくしも、あの邪悪きわまる変態は本当にゼクス・エテルニータの転生体ではないかと思うようになりましたの。
信じたくない気持ちは、とても……とてもとても強いですわ。
けれども、あの底知れない魔力。
未知の魔法。
二十四個の魔法陣。
圧倒的な自信を感じさせる堂々とした態度。
決して認めたくありませんが、現代の魔法使いとは格が違いすぎますの。
「ぶっちゃけ、さ……気持ちよかった?」
「はぁ!?」
アイリスさんのハレンチな質問に、わたくしの体温が急上昇ですわ!
「な、ななななな!? ア、アイリスさん、何を!?」
…………あらら? アイリスさんもお顔が真っ赤ですの。
「……だから、訊いてるの。ユリーヌは、あの男の色欲魔法……動いたらイクっていうやつ、食らってみて……どうだった?」
「そ、それは!」
わたくしは言いよどみます。
清楚・可憐・高潔。
清く・気高く・美しく。
王立ファナティコ魔法学院の副生徒会長として、正直な感想を口にするわけにはいきませんわ!
「ア、アイリスさんはどうだったんですの!?」
「……しーらない」
「ずるいですわ!」
わたくしが詰め寄ると、アイリスさんはプイッと顔をそらします。
そして小さくつぶやきました。
「あの男が色欲魔法を極めたら、世界がやばい……。世界中の女の子、みんな色欲魔法の虜になっちゃう」
「そ、そうですわね。……コホン。まあその、あれはいけませんわよね。えぇ」
心の中だけで白状しますの。
色欲魔法……気持ち良すぎますの!!
あんなの覚えてしまったら、ひとりでの営みがバカみたいに感じられますの!
物足りないですの!
切ないですの!
あれからぜんぜん満足できませんの!
「はぁ、はぁ、はぁ!」
心の中で絶叫し、わたくしは呼吸を整えます。
「アイリスさん。ゼクス・エテルニータは、わたくしたちで倒しますの! 色欲魔法の研究を阻止しないと大変ですわ!」
「……だね。あいつと戦おう。世界を守るために。……勝負を挑んで、もっとスゴイ色欲魔法をかけられちゃうかもしれないけど……」
『ごくり……』
同時に生唾を飲み込んでしまい、なんとなく気まずくなったので視線は合わせず、わたくしたちは生徒会室を後にしました。
今、ここに宣言します。
わたくし、色欲魔法には絶っっっっ対に屈しませんわ!!
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