第18話 男女ふたりで馬車の旅。何も起こらぬはずもなく……。

 ゴトゴト、ゴトゴトゴト……。


 俺とリベルが向かっているのは、神聖アナカリス王国の王都・アナカリス。


 古びた箱型馬車に揺られながら、俺は愛弟子に今日の鍛錬メニューを発表する。


「王都へ着くのは明日の午後だ。時間を有効に使うため、リベルの邪眼と俺の色欲魔法を同時に鍛えようと思う」


「はいっ!」


「というわけで、俺の膝に座るんだ」


「はぁ~い」


 リベルはニコニコしながら場所を移る。


 今日は二人とも制服姿だ。

 リベルが身につけた短いスカートがふんわり躍り、プリーツに隠された可愛いお尻が、俺の太ももにストンと着地する。


 むにんっ――。


「うをぉっ!?」


 リベルの臀部が乗っかった瞬間、思わず驚きの声が出た。


「ふぇ? どうしました?」


「い、いや、なんでもない」


 嘘だ。なんでもあるどころか、感動に似た想いが込み上げている。


 や~らかい――。


 リベルは尻は、ここまで柔らかかったのか!!


 もとより小柄な体躯に不釣り合いな国宝級乳袋を持つリベルだ。そちらに気を取られがちになっていたが、なかなかどうして尻の肉づきもぷにっぷにである。


 それでいてぽっちゃり体形に見えないのは、リベル・ブルストの才能と言う他ない。


 ほら、決して腹に肉が付きすぎているわけではないからな。


 むにむにむにむに……。


「きゃんっ! はぁ、ぁんっ……もぅ、ゼクスさんったら。おなか、ぷにぷにされるの恥ずかしいですよぉ~」


「失敬。つい、な」


「ふふふっ。もー、ゼクスさんのえっちー」


 とは言ったものの、非難の意思は含まれていない様子。

 ほどよい肉づきの腹を両手で堪能する俺に、むしろリベルは笑みを深めている。


 そのときだ。


「…………」


「あっ……」


「むっ」


 御者の少女と、目が合った。


 彼女はリベルと同年代だ。

 窓の向こうで二頭の馬を操りながら、時折こちらをさりげなく振り返り、チラチラ見ているのである。

 ……おっ、赤面した。気まずそうな表情だ。


「あ、あららら……」


「彼女にしてみれば、自分の馬車で若い男女が乳繰り合っているようにしか見えないだろうな」


「ち、ちちくり!? そ、そうかもしれませんけど……!」


「いや、これは邪眼と色欲魔法の鍛錬だ。決して乳繰り合っているわけではないので、やましいことは何一つない」


「そうですよね! えっちだけどえっちじゃありませんものね!」


「リベルは理解が早いな。偉いぞ」


 えへへ~とデレつく彼女の頭を撫でつつ、俺は王都を目指した経緯を思い返した。





 ――数刻前。


 教室に集まってきた教師陣を振り切った俺たちは、次のステップへ進むことを決意した。

 ひとまず学院内での名誉は回復したので、次は学院外で名を上げよう。という考えである。


 俺としても、色欲魔法の有用性を世界に知らしめ、やがて復活する金剛処女神・ユニヴェールを撃破するためのパーティーメンバーを集める必要がある。

 そのためにも、知名度を上げるのは大切だ。


「でしたら、いい方法がありますよ」


 リベルに案内されて向かったのは、『学内ギルド』と呼ばれる建物だった。


 中規模の教会ほどの佇まいで、中には受付窓口の他に、大量の紙が貼られた大きな掲示板が鎮座している。


「学内ギルドでは短期のお仕事を紹介してくれるんです。魔法に自信がある子は、害獣とか小型魔獣の討伐。魔法に自信がない子はパーティーを組んで、薬草の採取とか、お山の自然を調査するお仕事でお小遣いを稼いでるんです。お仕事で成果を挙げれば、その間は学校を休んでても成績がつきますので」


「実践的な教育というわけか、なるほどな。リベルもここで仕事を?」


「あ、あはは……。わたしは魔法がダメダメですし、一緒にお仕事をやってくれる友達もいないので、一人でキノコ掘りなんかを少々……」


「………………。なんというか……すまない」


「あははは。はははー」


 いかん、リベルの目が死んでしまった。


 俺は慌てて愛弟子の肩を抱き、


「今は俺がいる。名が上がるような仕事を、これから二人で頑張っていこう」


 耳元でささやくと、リベルは口をもにょもにょさせて、「はいっ」と小さくうなずいてくれた。

 頬が染まり、幸せを噛みしめるような表情である。


 それでいい。

 やはりリベルには笑顔が似合うのだ。


 二人で掲示板を見つめ、仕事を吟味する。


「難易度はAからFだな。名を上げるためには、やはり高難度の討伐任務を成功させた方が手っ取り早いか……」


【難易度F】キノコ掘り

 ※ノルマはカゴ三つ分。


【難易度B】ハウンドウルフの群れの討伐

 ※全滅手当、危険手当あり。


【難易度A】いたずらサキュバス三姉妹の捕縛

 ※以下に一つでも該当する方はご遠慮ください。……成人男性、M、耳が性感帯。


【難易度E】小包みの運搬

 ※誰でも簡単! 超高額報酬! やる気次第でさらなる高収入も夢じゃない!


【難易度C】ネバックハメ鳥の捕獲

 ※生体のみ報酬対象となります。


 様々な依頼文を流し見していく。


 ――やがて。



【難易度D】勇者の世界樹の生育調査

 ※高所作業あり。



 気になる仕事を発見した。


「リベル、これにしよう」


「難易度Dですか……ちょっと意外です。ゼクスさんなら、もっとスゴイやつに挑戦するかと思ってました」


 その指摘はもっともである。

 だが、依頼書の詳細欄にはこんな文言があったのだ。


『聖地のお仕事! やりがい重視! あなたの想いが、勇者の少女レヴィ・ベゼッセンハイト様に届くかも!? 王都アナカリスにそびえ立つ勇者の世界樹を調査して、レヴィ様のご加護をいただこう。世界樹の根元に眠るレヴィ様に祈りを捧げれば、あなたも幸せになれるはず! ※調査結果を確認後、報酬額の査定を行います』


「これ……お金、ちゃんと払われないやつじゃないですかね?」


「おそらくな。調査結果に難癖をつけられ、仕舞いには〝経験こそが報酬〟などと屁理屈をこねて支払いをケチるつもりだろう。いつの時代にもズルい奴はいるものだ」


「で、ですよね……。でも、どうしてコレに注目したんです?」


「それはな――」





 ゴトゴト、ゴトゴトゴト……。


 先ほどのやり取りを思い出しつつ、俺は窓の外を見た。


 この仕事を受けた決め手は、『勇者の世界樹』という言葉である。


 俺のかつてのパーティーメンバー、勇者の少女レヴィ・ベゼッセンハイト。


 彼女の墓参りがしたいのだ。


 そして、二〇〇〇年の時を経て、どんな形で彼女の名前が現代に残っているのか知っておきたい。


 そう説明すると、リベルも納得してくれた。寛大な弟子だ。


『ゼクスは援護に回って! 私が……斬る!!』


『私、信じてるわ。ゼクスの魔法は、誰がなんと言おうと世界一よ!』


『この戦いが終わったら、ゼクスはどうするの? どこで、どんなふうに生きて、誰と……過ごすの?』


 勇敢で明るく、安心して背中を預けられるほど信頼でき、おまけに太ももの肉感がたいへん官能的な少女だった。


 レヴィの太ももは、絶世のむちむち感と言っても過言ではない。

 下着のようなショートパンツから伸びる、むっちむちの柔肉美脚――。

 勇者にあるまじきむっちり感とたっぷり感を思い出すだけで、色欲魔法の鍛錬になりそうなほどである。


 そんなレヴィたちとともに、俺は金剛処女神・ユニヴェールの簡易封印に成功した。

 

 そうして世界に平和が訪れるとともに、パーティーは解散となる。

 だが、俺は奴を完全封印するために、以前から執筆していた『魔導全書』を完成させた後、二〇〇〇年後の世界へ転生した……。


 レヴィの行く末は、知らないのだ。


「きちんと幸せになっていればいいが……」


 いや――とつぶやき、俺は頭を振った。


 レヴィのことは気になるが、今は邪眼と色欲魔法の鍛錬に集中しなければ。


 俺は、両手をリベルの膝裏に添えた。


「ひぁっ。ゼクスさん、何を……ぁんっ、お膝の裏もくすぐったひぁあああっ!?」


 それから軽く力を込めて……。

 彼女の両脚を、左右に大きく広げさせた!


 M字開脚――。


 それこそが、今日の鍛錬の要なのだ!!

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