第26話 副生徒会長・ユリーヌの悶々。
「頭がおかしくなりそうですわ……」
わたくし、王立ファナティコ魔法学院の栄えある副生徒会長、ユリーヌ・パルテノスは、宿屋のベッドに倒れ込みました。
今日も一日中歩き続けて、街の方々に聞き込みをしていたんですもの。
さすがに疲れてしまいましたわ。
「はぁぁ……。野外浴場がなければ、捜索任務なんてやっていられませんわ」
深いため息を一つ。
ホコホコと湯気の立つ身体を持て余し、バスローブのヒモをゆるめて脱力します。
枕もとには、二部の新聞がありますの。
どちらも王国で最も権威ある新聞ですわ。
ある日の号外には、
『王都をジャイアント・クラーケンから守り、王女の命を救った若き英雄たち』
その数日後の号外には、
『勇者の世界樹を枯らし、王都に大混乱をもたらした許されざる大罪人たち』
呆れ果てたことに、これらはどちらも同じ人物を取り上げた記事ですの。
こんなことは前代未聞ですわ!
ゼクス・エテルニータ。
リベル・ブルスト。
号外の主役であるお二方は、現在逃亡中ですの。
わたくしが何日も宿屋を点々としているのは、この両名を捜し出し、捕獲する任務についているためですわ。
理事長のアレクシア・ラーサー女史に命じられ、『ゼクス×リベル捕縛隊』として、風紀委員長のアイリスさんとともに各所を捜索していますの。
他の捕縛隊も国中に散っていて、賊を捕らえたチームには成績が大幅加点されるそうですわ。
「逃亡開始からそろそろ半月……。どこで何をしているんですの? ……い、いえ、そもそも若い男女が婚前旅行なんて、いやらしいですわ! フケツですわ! ……ちょっとだけ羨ましいですわ!」
そうは言っても、そろそろ成果がほしいですの。
名門・王立ファナティコ魔法学院の副生徒会長と風紀委員長がチームを組んだのに、賊の行方が一切わからないなんて。そんなのプライドが許しませんもの!
ここは神聖アナカリス王国の西部・アートケヒヤという街ですわ。
純白の砂浜が有名な、高級ビーチリゾートですの。
「くっ……。昨日の夕方、ゼクス一味がこの街を訪れたことは警備兵に確認が取れましたのに、どうして街中には目撃者が一人もいないんですの!?」
わたくしはベッドを叩きました。
アートケヒヤの街は、石づくりの城壁で囲まれていますわ。
シーズン中には富裕層が多く集まるので、城門にはたくさんの魔導警備兵が配置されていますの。
そろそろシーズンが始まります。
『増え始めた観光客に混ざってアートケヒヤにいるのでは?』というわたくしの推理は大当たりしましたのに、肝心の賊が捕まらなくては意味がありません!
「きっと、ゼクス某が妙な魔法を使って、街のどこかに隠れているんですわ。悔しいですわ!」
トロピカルジュースを一気に飲み干し、わたくしは学院の惨状を思い出しました。
『自称ゼクスの変態と落ちこぼれ邪眼使いが、勇者の世界樹を枯らしてしまった』
そんな報せが飛び込んできた当初、もう学院は大・大・大混乱でしたの。
ほとんどすべての教師が取り乱し、
『やっぱりあいつらは退学処分だ!』
『いや、ここへ連行して厳しい罰を!』
『な~にがゼクスだ! 邪眼使いだ!』
『学院の名に泥を塗りおってからに!』
そうして大騒ぎした結果、授業が成り立たなくなりましたわ。
ほんの数日前には、
『ゼクスくんとリベルさんは本校の誇りだ!』
『彼は本当にゼクス・エテルニータの転生体だよ。私にはわかる』
『僕は初めからそう思っていましたよ?』
『これで学院も安泰ですな』
と、大いに盛り上がっていましたのに……。
重たいため息を一つ。
わたくしはお腹を押さえました。
「い、胃が……」
学院の惨状。
挙がらない成果。
副生徒会長としてのプライド。
明日からの捜索。
あぁもぅ! ストレスでどうにかなってしまいますの!
「こうなったら……!」
わたくしは旅行バッグから〝ある物〟を取り出しました。
細くて長い、黒い布。
そう。
目隠しですわ。
「これをこうして……こうですのっ」
視界が塞がり、真っ暗な世界が訪れます。
「はぁ、はぁぁっ、ぁぁん……!」
たったそれだけで、お腹の奥が熱くなってしまいますの。
今宵のユリーヌ劇場は……そうですわね。
極悪非道なゼクス・エテルニータに捕まってしまい、世にもいやらしい拷問を受けるわたくし――これでいきますわ!
わたくしはベッドを転がり、
「んっ、んあぁっ……! はぁ、んぅっ……ゼクス・エテルニータ! こ、こんなことをして許されると思っていますの!? ぁんっ、汚らわしい! 手を放してくださいまし……はぁんっ! んんっ、そこは……ぁあぁあんっ!」
我ながらいやらしい声を上げて、太ももに枕を挟みました。
あぁぁ、これはなかなか良い具合です。はぁぁ~いけませんわ。自然と腰がくねってしまいます!
ベッドを転がり、枕を相手に腰を振り、頭の中のゼクス・エテルニータに抗います。
ですけど……あぁん! ゼクス某は思いのほか逞しく、わたくしの力ではどうにもなりません!
なすがまま! なすがままです!
「はぁ、はぁぁ……! んくぅっ! ゼ、ゼクス・エテルニータぁ! わたくし、負けませんのよ……! はぁっ、いけませんわ! はぁんっ……あぁぁあんっ!!」
だんだん調子が出てきたので、バスローブを大きくはだけさせました。
下着はもちろんありませんわ!
そしてお胸に手をやります。
揉んで、掴んで、弾いて撫でて。
コリコリしてきた先端部分を、指でくにゅっ、くにゅっ、とこね回しますの。
もっともっと固くなったら、今度はつまんで左右にひねり、時折キュッと引っ張りますわ。ちょっと乱暴なぐらいが丁度良いんですの。
あぁぁあ、目隠しをしているせいで、まるで本当にゼクス・エテルニータに汚されているようですの!
「はぁ、あああぁぁんっ……! や、やめてくださいまし、ゼクス・エテルニータ……! んんぉっ、ぉほぉぉぉ……! あぁぁっ、先っぽ、そんな……あぁン!」
目隠しが有るのと無いのとでは大違いですわ。
自分のお胸をいじめるだけでも、こうして視界を塞いでいると快感が……コホン。浄化されるストレスが数倍に高まりますの!
ここ最近、ユリーヌ劇場にゼクス某を登場させると、ものすごぉ~く捗ることに気づいてしまいましたわ。あぁぁ悔しい! 悔しいですの!
「あぁぁいけませんっ、指っ……そんなところに……んほぉおぉぉっ! ほぉっ、あぁんっ……わ、わたくし、負けませんわ! あなたの色欲魔法なんかに……ぉほぉぉっ! く、屈したりしませんわよ! ……ほぉぉっ!? そ、そこだけはいけませんわっ……はぅっ、おほぉっ……そ、そこは乙女の……ひぁあぁぁんっ!」
いよいよメインディッシュに移ろうと、下半身に手を伸ばしたときでしたわ。
――――ガチャ。
………………えっ。
今、ドアが開く音、しまし……た?
「――ッ!」
わたくしはベッドから跳ね起き、目隠しを剥ぎ取りました。
復活した視界。そこには――。
「…………うわぁ」
水色のショートボブ。
濁ったジト目に黒いクマ。
可愛らしいベビィドールに身を包んだ小さな風紀委員長、アイリス・フォン・アイスベルクさんの姿が!
「な、ななななな、何してますの!?」
「……それ、こっちのセリフなんだけど。……ねぇ、今の目隠しって……」
「こ、これは鍛錬! た、鍛錬ですの! ええと……そ、そう! ご、ごごご拷問に耐える鍛錬ですわ!」
わたくしは早口で言い募ります。
そうです、押し切ってしまいましょう!
「アイリスさん、そもそもあなたのお部屋は隣でしょう!? なぜわたくしのお部屋に入ってきたんですの!?」
「いや、だから目隠し……」
「それとこれとは話が別でしてよ!?」
「…………」
あぁ、アイリスさんが『うわっ、めんどくさ』と言わんばかりのお顔を!
ですけど構いません。
わたくしの名誉を守るためですもの!
アイリスさんがため息交じりにつぶやきます。
「……ここへ来たのは、わたしの部屋に連泊する権利、売ってきたから。さっきロビーで、売ってほしいって言われたから。……ほら、今日は満室らしいし」
たしかに間もなくシーズンなので、宿屋を取るのは大変ですわ。
わたくしたちも、ここの宿屋には今日と明日の二連泊しかできませんの。
……ですけど!
「見返りは何ですの?」
「うっ……」
やりましたわ。
アイリスさんがジト目を泳がせましたよ。
ここは、もう一押ししてみましょう。
「多少のお金をもらったぐらいで、ご自分のお部屋を譲るアイリスさんではありませんわ。お金の他に、もっと良い物をもらったはずですの!」
ビシィッ! と指を突きつけて追及しますわ。
これも名誉を守るため。
ユリーヌ劇場を目撃された以上、勢いで誤魔化すしかありませんのよ!
「くっ……。ユリーヌってば、全身くまなくむっちりたっぷりしてるくせに、こういうときは、ムダに鋭い……」
減らず口を叩きながらも、ついにアイリスさんが降伏しました。
――ドサリ。
数冊の本がわたくしのベッドに置かれます。
「これは……? ――ハッ!」
表紙に書かれたタイトルに、わたくしは戦慄しました。
「『副生徒会長ハンナの放課後調教日誌』と、『エミリア嬢は肉欲風紀委員長である』……な、なんてハレンチなご本を!」
「……えっちな文学作品をもらったから、連泊する権利を売るのもいいかなって思った。私、こういう作品、じつは昔から好き……。魔法使いは清楚・可憐・高潔を体現する存在だけど……好きなものは好きだから」
アイリスさんの濁った瞳に嘘はありません。
魔法使いにえっちなものは御法度というのが世界の常識ですが、わたくしも、まあ嗜む程度は……オホン!
「ど、どうでしょうアイリスさん。ここはお互い、水に流すということに……」
「……んっ。そうしよ……」
ようやく妥協点が見つかりましたわ。
わたくしの目隠しも、アイリスさんの文学作品も、お互い棺の中まで持っていきますのよ。
「じゃ、今夜はよろしく。……ユリーヌは床で寝てね」
「どうしてわたくしが床ですの!?」
……まあ結局、一緒のベッドで眠ることになりましたわ。
同じお布団にくるまりながら、アイリスさんに訊ねます。
「そういえば、どんな方に連泊権をお譲りになったんですの?」
「……赤い髪の女の子。ネコっぽい目で、すごく可愛いかった。魔力は感じなかったから、一般人だよ。……あと、太ももがむちむちで、えっちだった」
世の中、変わった方もいるのですね。
だってそうでしょう?
初対面の女の子に、えっちな文学作品をエサにして交渉を図るなんて、正気の沙汰ではありませんもの。
「さっきの本……副生徒会長の方、わたくしにも読ませてくださる?」
「……気になるの?」
「ち、違いますわ! あくまで……そう、調査ですの! さあ、早く!」
いいところでユリーヌ劇場を邪魔されたものですから、やっぱり疼きが収まりません。
あぁ……それにしても、『副生徒会長ハンナの放課後調教日誌』だなんて。
これはぜひとも、取り締まりを前提とした調査が必要ですわ。
そう、これはあくまで調査のため。
厳しく調査するためにも、きっちり読破しますのよ!
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