第5話 第四階梯魔法が全力だと……?
二人の美少女と対峙した俺が、ちょっとえっちな戦意を高めていると――。
「あ……。受験番号〇七二一。戦う前に自己紹介……やって」
と、ぺったんアイリスが思い出したように言い添えた。
自己紹介か。いいだろう。
観客の注目が集まる中、俺は大きく息を吸い込んだ。
「俺の名前はゼクス・エテルニータ! 前世では『魔導王』と呼ばれる大賢者で、前々世では『剣聖』と呼ばれていた! 転生魔法を使って、二〇〇〇年前から現代にやってきたんだ。この学院で色欲魔法を徹底的に研究し、来たるべき時に備えたいと考えている!」
よし、なかなか前向きな挨拶ができたぞ!
と、心の中で自画自賛したのも束の間。
『――――――――』
その場を支配したのは、真冬のごとく冷えきった空気だった。
「んんん?」
俺が首を傾げると、観客席で『うわぁ……』と声が洩れた。
案内係の少女と同じような反応だ。
「また『自称ゼクス』かよ~」
「今日だけで三人目ね。ザコ魔法使いの間で流行ってるのかしら?」
「意味わかんない。〝魔法の父〟がなんで現代に転生してくるのよ」
「しかも〝剣聖〟とか〝色欲魔法〟とか、独自の設定(笑)追加してるし」
「色欲魔法って、えっちな魔法っていうこと?」
「あ、ありえないわ! えっちだなんて穢らわしい!」
ウケが悪いというレベルではない。
客席に集まった面々が、口々に俺をバカにし始めたのだ。
自称ゼクス? 魔法の父?
言葉の意味を探っていると、
「……ゼクス様ク~イズ♪」
風紀委員長のアイリスが無表情のまま、そんなことを言い出した。
彼女は一冊の本を取り出し、
「……第一問。私がガチしゅきな大賢者、ゼクス・エテルニータ様が記した『魔導全書』ですが、最新の第一〇五版、二二八ページで解説されている魔法は……?」
客席が『おぉっ』と沸き立つ。
生徒たちは口々に「出た、ゼクス様クイズ!」とか「アイリスはゼクス様ガチしゅき勢だからなぁ」と言っているが……。
俺の答えは決まっている。
「さ、最新の……? そんなの知るわけがないだろう」
当然だ。
俺は、生後数時間なのだから。
話の流れから、二〇〇〇年の時が経っても俺の名前は残っているようだ。
しかも魔導全書には改訂が加えられ、現代まで使用されているらしい。
俺の教えが二〇〇〇年ものあいだ受け継がれているのだ!
それは望外の喜びだが……まずいな。
そんな状況でゼクス・エテルニータを名乗ったところで、信じてもらえるわけがない。これでは編入後、クラス内で浮いてしまう!
「はぁぁ~……」
アイリスが深いため息をこぼした。
「……時間切れ。ゼクス様の御名を騙るくせにニワカとか……ありえない。さっきのヤツですら三問正解できたのに……」
アイリスの視線を追いかけると、そこには闘技場の横でヘロヘロに伸びている少年がいた。彼は自称ゼクスだったのか。
よどんだ瞳が俺を睨む。
「しかも前々世とか剣聖とか色欲魔法とか、つまんない設定まで付け加えて……許せない。私のゼクス様は、そんなこと言わないから」
「い、いや、前々世で剣聖だったのは事実だし、色欲魔法によって宿敵を討つのは俺の悲願であって……」
現代に伝わっているのは前世――魔導王と呼ばれた時代のことだけらしい。
色欲魔法は秘匿していたので、誰も知らないのも無理ないが。
「……うるさい。大体ゼクス様は渋いおじさまなの。校内にたくさんある銅像、見たでしょ? 私の愛するゼクス様は、あんなかんじだから……」
「あれは俺の銅像だったのか!」
なんたることだ。
二〇〇〇年の間に『ゼクス・エテルニータ』にはずいぶんと勝手な解釈が加わってしまったらしい!
「……ユリーヌ、私にやらせて。ゼクス様を騙るニワカとか、私的に許されざる存在だから……」
「そうですわね。色欲魔法なんてハレンチなもの、栄えある王立ファナティコ魔法学院には相応しくありませんわ。さっさと潰して差し上げて」
ユリーヌが肩をすくめ、やれやれと頭を振る。
と、アイリスが俺に向かって右手を掲げた。
「一撃で……仕留める!」
彼女の手のひらに魔力が集まり、宙に魔法陣が描かれていく。
その殺意は本物だ。
一つ。
二つ。
……少し遅れて三つ。
さらに遅れて、搾り出すように……四つ。
「んんん?」
どうやら終わりのようだ。
……いやいや、終わりだと!?
魔法陣がたった四つ。
第四階梯魔法ごときで、俺に何をするつもりだ……?
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