第23話 モテキ?
あの合コン?から2日が経った。高校になって、というか、スマホを持つようになって連絡先を交換した女子は母親を除けば彼女、高尾さんが初めてだった。
そんな事もあり彼女から連絡がくるのではと、この2日ソワソワし続けていた。勿論彼女に惚れたというわけではない。
それでもあっちから連絡先を聞いてきたんだし、これまで女子と連絡なんて取り合った事がないわけだし、意識するなというのは無理なのである。
彼女からの連絡は交換した当日に軽い挨拶をしただけだ。こっちが送ったメッセージが最後だったため何か不快な思いをさせてしまったのでは、かとも思う。それでもこちらから連絡をする事など勿論できない。
そもそもなんで彼女は俺に連絡先を聞いたのだろう?
あの場にいた全員に聞いたのかと思い、大川と赤城にそれとなく確認してみたが、奴らは聞かれていないようだ。
もしかして、彼女は俺の事を……
いやいや。何を期待しているのだ、俺は。
俺には高嶺さんがいるではないか。
そうして首をブンブンと横へ振っていると「根尾君?」と、教壇の上から声を掛けられる。
「どうしたのですか?」
そうだ。今は授業中だった。
クラスメイト達の冷たい視線が痛い。
昼休みになると、いつものようにアキヒコと
そこへ座って弁当を食べ始める。なんだかんだで、コイツと二人だけでいるのが一番楽だ。気を張る必要もないし。何でも気軽に話せる。
大川や他の奴らとも仲良くはなってきた気はしているが、怒らせてはいけないとか、馬鹿にされるような事があってはいけないとか、そういう事を考えてしまう。最近気がついた事であるが、普段仲良くしているようでも、クラスの大半の奴らがそういう風に他人と付き合っているように思えた。
それもまた、俺がこれまでしてこなかった努力の一つなのだろう。
誰もが最初から仲がいいわけではない。しかし嫌われるのを怖がって近づかずにいたら、仲良くなんでなれない。少しずつ、互いに気を使いながら距離を縮めていくのだ。
一人合点しつつ、匂いのキツイ冷凍のハンバーグを噛る。
「あっ、根尾先輩!」
そこへやって来たのは小柄な体に二つのたわわな凶器をぶら下げたショートボブのあの子。高尾花さんだった。
「大川先輩からここにいるんじゃないかって聞いたんです」
俺は「誰?」と聞いてくるアキヒコへ「あとで話す」と小声で言った後、彼女に尋ねる。
「えっと、なにか用かな?」
やはり不快な思いをさせてしまっていたのだろうか?
ドキドキしながら尋ねると、緊張した面持ちの彼女は大きく息を吸ってから、口を開いた。
「あのっ! 良かったらお昼、一緒に食べてくれませんか?」
箸で摘まんでいたハンバーグを弁当箱の上にポロリと落とした。
しばらく放心したままでいると「ノボル?」とアキヒコが話しかけてくる。
「僕は別にいいけど」
慌てて彼女へ顔を向けて答えた。
「あ、うん。俺も、大丈夫」
「本当ですか!?」
彼女はパッと華やかな笑顔を咲かせた。
階段は狭いため、流石に三人は並んで座れない。
アキヒコが何段か上の段に座って、彼女が俺の隣に腰を下ろした。
距離が近い。クリクリとした目に、丸みのある顔。可愛らしい、という言葉がこれ程似合う人物を、俺は他に知らないかもしれない。
顔をじっとは見ていられなくて、視線を下に動かすと、そこには二つ大きな膨らみ。慌てて更に下へ動かすと、柔らかそうな太ももが目に眩しい。だから弁当を凝視するしかなかった。
彼女はよく喋った。
『筑波明彦先輩って言うんですね。私、高尾花といいます。よろしくお願いします』
『実は私、根尾先輩をあの日が初めて知ったわけじゃなかったんですよ。ほら、一年生の教室のからはグラウンドが見えるでしょう?あそこから先輩達がサッカーしているのとかを時々見ていたんですよ。根尾先輩、よく目立っていたから。あっ、でもこんな事言ったら授業ちゃんと聞いていないのバレちゃいますね。忘れて下さい』
『よかった。ただ使い慣れてなかっただけなんだ。先輩のメッセージ、スタンプとかないし素っ気なかったから私嫌われちゃっているのかと思って。じゃあこれからもたまに、連絡してもいいですか?』
そんな彼女へ人見知りのシャイボーイを遺憾なく発揮させた俺であったが、彼女は嫌な顔一つしなかった。
時々発する俺の言葉には気持ちいいくらいのリアクションをしてみせ、俺が言葉に詰まらせてしまったりしても、こちらの見つめたままじっと待ってくれた。
そんな調子で食事を終えると、彼女はスカートをヒラヒラさせながら立ち上がった。
「いけない。私、次移動授業なのでそろそろ戻らないと。あの、もし先輩達がよかったらなんですけど、たまにでいいので、またこうしてお昼をご一緒させて頂けますか?」
俺はアキヒコへ目をやる。
「うん。毎日は嫌だけど、たまに来るくらいならいいよ」
「それなら俺も」
口にすると彼女はまた嬉しそうに顔を綻ばせた。
「いい子だったな」
彼女が去ったら後、俺はポツリと溢す。
「うん。でも気をつけた方がいいと思うよ。何か変な物を高額で売り付けたり、お金を騙し取ろうとしているのかもしれない」
「そういうのって、本物の女子高生が校内でやる事なのかな?」
「知らないけど。それなら他にどんな理由があってノボルなんかに近付こうとするのさ?」
「それはほら。お、俺に気があるとか……」
「まさか」
「だ、だよな……」
しかし、もしそうだったらどうしよう?
何も経験がない俺からすれば、それはどんな事より難しい問題に思えたのだった。
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