第2話 二ノ森君と大川君作戦
その日の昼休み。俺達は早速スクールカーストを成り上がるための作戦会議を始めた。あれだけ俺を煽ったのだ。当然アキヒコにも協力してもらう。
ウチの高校には購買はあるが食堂はない。従って多くの生徒は教室で昼食をとる。しかしあそこは他クラスの生徒が入ってきたり、カースト上位者が好き勝手に机を並べ替えてしまったりと、我々にとっては居心地が悪い。かといって中庭や屋上は人気の場所で、他の陽気な生徒の群で賑わっている。そうして見つけたのが実習棟の二階と三階を繋ぐ、この階段だった。
音楽室や選択科目用の教室が並んでいるこの棟に、昼休み人が立ち寄る事など滅多にない。俺達は毎日その踊場の一段目へ肩を並べて腰を下ろし、昼食をとっている。
二人だけで、こそこそと。そんな様子を誰かが見かけたのかもしれない。俺とアキヒコの関係について妙な噂が立てられているのは、これが原因であるとかそうでないとか。
「とりあえずウチのクラス内だけで言えば……」
アキヒコはコンビニのサンドイッチを囓りながら、膝に乗せたノートへ三角形を描き、そこへ四本の線を引いた。三角形が横に五等分された形。続いてそこへクラスの生徒の書き入れていく。
「女子の細かいところは分からないけど、こんな感じなんじゃないかなぁ」
俺は母さんお手製の卵焼きを箸でつつきながら、完成したそのクラス内のカースト図をじっと見つめる。
「二ノ森はもっと下じゃない?」
「いや、彼は上から二段目にいる大川君と仲がいいから。幼なじみらしいよ」
「へぇ」
幼なじみ。その言葉に、ふと同じクラスにいるアイツの事が頭に浮かんだ。もし俺がカースト上位へ上がれたのなら、アイツとも昔のように話せるようになるのだろうか。
古い感傷に浸っている間にも、アキヒコは話を進める。
「さっきちょっと考えたんだけどさ。ノボルもその方法がいいんじゃないかと思うんだ」
「その方法?」
「うん。スクールカースト上位者の特徴ってさ。スポーツが出来る、顔がいい、クラスで目立つとかだと思うんだけど、僕達ってもう二年じゃん。今更そういう事で皆から評価を覆していくのってやっぱり難しいと思うんだよ」
「それで?」
「それで二ノ森君と大川君作戦。別にそんな事を頑張らなくたってさ、クラスの目立つ人と仲良くなっちゃえば、自然とそのグループに溶け込む事ができるんじゃないかなぁと」
「おお! 成る程!」
カースト最下層から成り上がる。今朝そう決意した俺であったが、その方法を中々見出だせずにいた。それをまさかこんな短い時間で見つけてくるとは。やる時はやる男である。
俺は感謝の意を込めて「食うか?」と箸に刺した唐揚げを差し出した。アキヒコは「あ、僕知らないオバサンが作った弁当とか無理だから」と、それをこちらへ押し戻す。無礼な奴め。
そうしてアキヒコはズレた眼鏡を直した後、
「でも、これも一筋縄ではいかないと思うけどね」
と皮肉っぽい笑みを浮かべた。
「なんでだよ? 目立つ奴と仲良くなればいいんだろう? 俺、頑張るぞ。あの子のためなら人見知りもなんとかできる気がするし」
「そういう事じゃなくて。確かに上位者と仲良くするのはノボルにとって有益な事だけどさ、相手からしたらどうなのだろうね?」
「嬉しいと思う」
「ノボルの脳ミソはいつも幸せそうで羨ましいよ。今朝も話したろ? もし高嶺さんが君なんかと仲良くすれば、他の人達から良くない目でみられてしまうかも知れないって。それは他の上位者にとっても同じ事なんだよ」
「つまり。それを嫌って、誰も俺とは話したりしてくれないって事か」
「うん。カーストの中途半端な位置にいる人達は、特にその傾向が強いと思う。そういう人達程、自分より下の人を見下して安心したがるから。そして一歩道を踏み間違えてしまえば、今度は自分が見下される側になる事を知っているから」
「ふーん、なんだか皆大変なんだなぁ」
中学の頃から今と同じような生活を続けてきた俺には、無縁の世界だった。
それにしても俺と同じ地位にいるはずのアキヒコは、何故こんなにもその事に対して詳しいのだろうか?
疑問に思ったが、大方アニメかなんかで得た知識だろうから、尋ねるまではしない。
「てか、それなら駄目じゃね? 二ノ森君と大川君作戦」
「いや。中途半端な人を狙わなければいいんだよ。他の人に『何であんな奴と?』なんて言われても動じない、そんな事を言われない程の確固たる地位を築いている人を味方につければ」
「それって、もしかして……」
思い当たる節はあった。クラス内で確立した地位を持ち、誰からも文句を言われる事のない人物。
アキヒコは俺を顔を見て頷き、ノートに書いた三角形の頂点、そこに記された
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