6-3 君が追ってる人間がどれくらい悪辣か、これで分かった?
家に帰ってから和良差さんに連絡した。明日の土曜日に会うことにしてもらった。
一晩明けて、土曜日。いつものファストフード店には和良差さんと郡山さんが先に来ていた。僕たちの二回呼び合う挨拶をして、僕がカウンターでコーヒーを買ってきて、向かいの椅子に座ったところで僕から話を切り出す。
「昨日お伝えしましたが、校内で術を使う生徒を見つけました。ですけど……彼は術がバレて他の生徒から見放されて……その……あまりに哀れだったので、僕はその生徒の術を破壊しませんでした。罰を受けた人を、これ以上追い詰めることは……僕にはできません」
郡山さんはいつもムスッとしているのだけれど、その度合いが少し強くなったような……
「それで、自分の手を汚すのが嫌になってこうして私たちに任せたと。君に任せたのは見つけるまでだったしね。まあ、いいんじゃないの」
和良差さんが両手を郡山さんに向ける姿勢で、これは、和良差さんが郡山さんを宥めているのかな?
「岸凪君も僕たちが言ったことをきちんと分かってたってことなんだから。手を下すのはこちらでやる。そういう約束だったでしょ」
郡山さんが何も言わなくなったので和良差さんが僕の方を向く。
「まぁ、君もいろいろ思うところはあるだろうけれど、その子がしたことは重大なんだろう? 僕たちは心を鬼にしなければいけない。この話が終わったら、僕たちはその子に近づいて、術を破壊する。君が仏心を出しても無駄だよ」
やっぱり今利君の術を破壊するのか…… 破壊したら、一年間しゃべれなくなるんでしょ…… 気が重いなぁ……
「ハイ、、、」
僕は力なく答えた。その態度が郡山さんの逆鱗に触れた。低い声で一言。
「事の重大さが分かっているの?」
「ハイ!」
僕は思わず裏返った声で答えた。郡山さんは納得しただろうか?
「まあいいわ。仕事はしたしね。コーヒー、ぬるくなるでしょ? 飲んだら?」
僕はハイと小さく答えて紙コップのコーヒーに口をつける。郡山さんと和良差さんもそれぞれの飲み物に口をつけて、一時だけ和んだムードが流れる。
ここは一つ質問していいのかな。郡山さんは怖いから和良差さんに。
「和良差さん、術について詳しく聞いてなかったんですけど、お二人と違って魔方陣を使う流派もあるんですね。その生徒の鞄から見つかってびっくりしました。別に知ってたら早く分かった訳じゃないですけど、言ってくれれば……」
《あなた、その子が使った証拠はあるの? 空振りじゃないでしょうね?》
僕が質問しているところを郡山さんが遮る。
「あなた、その子が使った証拠はあるの? 空振りじゃないでしょうね?」
郡山さんに二回なじられるのはきつい。和良差さん、助けて……
と思ったら、和良差さんが身を乗り出している。
「僕も君に聞きたいよ。その子が使った証拠はなんだい?」
しょ、証拠って……
「校内で発言を書き換えられたとき、生徒が言わされた言葉が、全部、その生徒を褒めたり女の子が恋していたり、あっ、その術を使った生徒は男子なんですけど、学校の女子みんながその生徒にベタ惚れって感じで、最近のアニメの言い方をすればハーレムって言うか…… 本人は必死に否定の演技をしてたんですけど、鞄の中から証拠の魔方陣が見つかって……」
《その証拠の魔方陣がおかしいんだよ》
和良差さんの否定の言葉は僕の説明に被り、追いかけるように口から発せられた。
「その証拠の魔方陣がおかしいんだよ」
「おかしいって、証拠があるのに……」
《僕たちが君に授けた術に物的証拠はないんだ。魔方陣を使う流派なんてない。君の学校の生徒に術を授けたグループは特定できていて、その術式は僕たちと同じだというのはもう分かってる》
えっ!?
黙っていると和良差さんの「僕たちが君に授けた術に……」の言葉が耳に入った。
物的証拠がないと言ったら、今利君の状況は、どうなる?
郡山さんは呆れながら飲み物を口に含んだ。
「私たちが黙っていたのも悪かったけど、猟犬としたらとんだ駄犬ね。獲物の匂いも嗅げないなんて。間違って人に噛みつかなくてよかったくらいね」
和良差さんはしばらく黙って遠くを見るような目をしていた。その視線が近くに戻ってきて、僕の両目に合った。
《その子は多分嵌められたんだろうね。物的証拠があると普通の子に納得させやすい。その証拠はねつ造だよ》
《ねつ造!?》
《そう。真犯人が無関係な人間を陥れるために》
僕は訳が分からなくなり、口が動かなくなった。和良差さんが話を続ける。
《高校生の鞄なんて、鍵はかかっていないんだろ? いつ偽の魔方陣が押し込まれたかなんて分からない》
いや、それは違う。外部に証拠がある!
《だって、ネットに魔方陣の写真が載ってたのに》
《ネットに載ってると客観的に見えるけど、サイト管理者の顔と名前は分からないんだろ? そのサイトを作るところから、人を陥れる準備は始まっていたのさ》
《陥れるって……》
そこに郡山さんの言葉が先読みで届く。
《君が追ってる人間がどれくらい悪辣か、これで分かった?》
その言葉を口から追い打ちで聞いて、肝が冷えた。
偽サイト作成。
その偽サイトを読ませるための誘導。
周到に穴を掘り糸と罠を隠したところで、皆に噂を流して愚かな王子様を誘い込む。
そんな人物を僕は相手にするのか!?
《黙ってるね。君のような平和な人間には思いつかないだろうけど、人を貶めたい人間はそこら中にいるんだ。黙ってみてるんじゃないよ》
和良差さんの声は、落ち着いていたけれど、最後を厳しく締めていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます