第10話 フィクションの趣味をざっくり語る

 以前のエピソードで好きな作家や作品の名前を挙げたのですが、もうちょっと具体的にどういうものが好きなのか語っていきたいと思います。



 筆頭に挙げられるのはやはりミステリです。トリック派かロジック派かといえば、プロット派になるでしょうね(第三の選択)。『殺す風』や『スパイラル・アライヴ』など、再読してその周到さがわかるプロットに魅力を感じます。もはや構図の反転くらいでは驚けない体になってしまいましたが、自分の世界認識を足元からひっくり返される、という展開に共感を覚えます。


 ミステリで気に入っているのは、たとえば同じくロジカル志向のSFと比べて、論理がより内向きで自己完結的なところです。異世界本格に代表的なように、科学的に正しいかどうかじゃなく、作中の設定として筋が通っているかどうかが優先される。伏線さえ張っていればどれだけ非科学的なことも許される。その自閉性に共感を覚えます。


 同様の理由で、ミステリの論理なんてのはしょせん詭弁なんだよという認識の作品にも惹かれます。逆に論理や名探偵を無条件に肯定するような作風は苦手です。そもそも名探偵とかシリーズ探偵というものがあんまり好きじゃなくて、D・M・ディヴァインが用いるような使い捨ての素人探偵の方が性に合ってるな、と思います。



 ミステリと一口に言ってもピンキリで、これまでは主に本格系統の作品について語ってきたのですが、他のサブジャンルだと、ノワールがお気に入りだったりします。


 よくエンタメは願望充足だと言いますが、わたしにとってはノワールがこれで、破滅願望とか遁走願望を主人公が肩代わりしてくれるところが好きだったりします。


 それに、ノワールって自閉的な話が多いんですよ。主人公から視点が動かないのが伝統ですしね。理性や知性が著しく損なわれた主体を、その内面から描くところに共感するんです。わたしも世界のことなんて何もわからなくて、ずっと孤独だったから。


 あとやっぱり社会だったり人間の理性とか主体性に疑問を投げかけるジャンルだからってのも大きいでしょうね。ノワールっていうと暴力的なイメージが強いかもしれませんが、基本的には反語的な反権力、反父権、反暴力の話なんです。この反語的という部分もわたしの趣味だったりします。



 ホラーは特に好きってわけじゃないんですけど、品があって、かつ、寓意的だったり、不条理だったりするのは好きです。恐怖に対して論理的に対処できるものは興が醒めてしまうタイプです。スプラッタだったり鬱々としてるのも苦手ですね。



 苦手なジャンルは競技系とお仕事ものでしょうか。


 これはノワールを愛好する理由と裏返しで、努力の有効性とか、社会への適応を肯定するような描き方に違和感を覚えてしまいます。あと、恋愛ものは、経験も憧れもないので苦手ですね。ハイ・ファンタジーも苦手で、作り込まれた世界観にはかえって嘘くささを感じてしまうタイプです。やっぱり不条理な方がいい。



 総じて、プロットと語り口を重んじる一方で、不条理とかディスコミュ、ナンセンス、自己同一性の揺らぎ、信頼できない語り手といったモチーフに惹かれる傾向があるかと思います。あと、自然主義というよりは表現主義的なのが好きですね。


 こう趣味を羅列していくと勘違いされそうなので大急ぎで否定するのですが、エログロとかドロドロした関係とか鬱展開とかバッドエンドが好きってわけではないんですよね。むしろそういう露悪的な要素をことさらエンタメとして強調してくる作品は、大団円の押しつけがましさと同程度には嫌いです。


 あと、シニカル一辺倒な作風もそんな好きじゃなくて、人間愛とユーモアが感じられる方が好みだったりします。また、高尚だったり文学的だったりするのが好きというわけじゃなく、エンタメとして気軽に楽しめるものが好きです。


 なお、小説に関しては、以下に思い出の100冊を載せています。これを見ればだいたいの趣味がわかるかなと。

 https://bookmeter.com/users/80817/bookcases/11210130?sort=book_count&order=desc



 ここからは小説から離れてくるのですが、映画にも一時期はまっていました。


 もっぱら監督で観る作品を選ぶタイプで、俳優にはあんまり興味がないです。演技の良しあしもわからないですしね。ただ、邦画は世界が身近なだけに演技に嘘くささを感じることが多くて苦手です。


 アクションものも、身体さばきや格闘技に興味がないので、『マトリックス』や『ウォンテッド』、『シューテム・アップ』みたいな極端に誇張されたもの(特にガンアクションもの)が好きだったりします。


 映画もあんまりリアリティがあるものより、自己完結した論理で回ってる作品が好きだったりします。『クリーピー 偽りの隣人』なんかがいい例ですけど、アマゾンレビューが「非現実的だ」って批判してる部分が、わたしにとってはとても心地いい。ジャンルとしてはノワールとホラーが好きで、ミステリはあんまり映像で見たくないかな。


 好きな作品名を挙げると、『シューテム・アップ』、『永遠のこどもたち』、『マジカル・ガール』、『新しき世界』、『ほえる犬は噛まない』、『べニーズ・ビデオ』、『ヒストリー・オブ・バイオレンス』、『タクシードライバー』、『ローズ・イン・タイドランド』、『アイデンティティー』、『サイン』、『ストレンジャー・ザン・パラダイス』、『あるいは裏切りという名の犬』、『エンゼル・ハート』、『カッコーの巣の上で』、『タクシードライバー』、『バーバー』、『スガラムルディの魔女』、『みんなのしあわせ』、『刺さった男』、『CURE』、『カリスマ』、『回路』、『アカルイミライ』、『Seventh Code』、『クリーピー 偽りの隣人』、『淵に立つ』。



 次にアニメですが、どういうのが好きか自分でもよくわからないんですよね。いわゆるハルヒ世代で、それ以降の深夜アニメはひととおり見ているのですが、未だに傾向がつかめてません。小説の趣味と一致するところが多いはずなのですが、たとえば、プロットがよくできてる『魔法少女まどか☆マギカ』も特別好きってわけでもないですし。


 前にも言ったように『DARKER THAN BLACK』と『アルドノア・ゼロ』が好きなのですが、両者に共通するのは、ロジカルな異能バトルものであることと、ディスコミュを描いていること、でしょうか。映像的には異能バトルをスタイリッシュにやってるのが好きと言えるかもしれません。



 あと、漫画はほとんど読まないです。一時期きらら系4コマにはまってましたけど、『きんいろモザイク』の影を追っていた感が強いです。これもやっぱりディスコミュの話ですね。ギャグがきちんと笑えるのも好きです。あと、安易に薀蓄に走らないところも。


 だからまあ、あえて4コマの趣味を語るとしたら、トリビア主体じゃなく、キャラクターそのものに興味が持てて、それが笑いに昇華されているもの、でしょうか。


 アニメとか漫画でよく見る、苦手だなと思うのは、さっきも言ったトリビア主体のもの。キャラクターがヒロイックすぎるもの。キャラクター描写が属性によりかかりすぎなもの。説教臭いもの。



 2次元に限って言うと、色素薄い系の影があるイケメンと、ショートボブの美少女が好きです。

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