第19話 長編の構想
ここ数話、長編を書こうと悪戦苦闘してきたことを語ってきました。そこで軽く触れたように、構想していた長編は1作ではなく、同時並行で作業していた構想が何作かあります。今回はそれらの構想を紹介していこうと思います。
☆放課後のタルトタタン(仮)
・あらすじ
「同じ文面の手紙を三人に回してください。さもなければ、学校の屋上から飛び降ります」
三学期の始業式、転入先のクラスに不幸の手紙をばらまくため朝早く家を出た高校生・知佳は、通学路で拾ったりんごに導かれるようにして学校の屋上へと足を踏み入れる。
そこで待っていたのは、冷たい雨と、寂しげな童謡、からからと回る風車と、謎の祠、そして戦時中の猟奇殺人で犠牲となった女学生の怨霊――「りんご様」を名乗る少女で――
「なあ、知ってるか。心臓の取り出し方」
胸にナイフを突きつける少女に、知佳は言う。
「わたしは一度死んだ。だけど死にきれなかった。だから偽物の幽霊になった。半透明でかえって目立つ偽物の幽霊に――あなたが本物の幽霊なら、わたしも本物になれる? 完全に透明で、誰にも見えない。誰とも関わらずにすむ本物の幽霊に」
はたして、彼女が憧れる「本物の幽霊」は実在するのか? そして彼女が経験した「死」とは?
新天地で迎える高校生活最初の冬――神様が心臓を召し上げるまでの三三日間がはじまった。
冬と春、日常と非日常、秩序と混沌、生と死、嘘と真実、男と女、子供と大人、わたしとあなた――境界線上のガールミーツガール、ここに開幕。
・補足
前回まで語ってきた長編。プロットの進捗としては、これが最も進んでいます。ジャンルは、新日常系幻想ミステリ。新日常系とは『けいおん!』に代表される日常系の世界を相対化する視点を持った作品のことです(『結城友奈は勇者である』、『がっこうぐらし!』など)。青春、百合、ミステリ、不条理、ユーモアの詰まったお気楽なエンタメを目指します。略称は「HTT」(こら)。
☆ヘヴン・アンド・アース(仮)
・あらすじ
「妹はあなたに殺された。恋人のあなたに殺された」
夏休みの終わり、命を助けた少女に因縁をつけられた。彼女の執拗なストーキングに悩まされつつ、身に覚えのないまま新学期を迎えるが、自殺した同級生が彼女とそっくり同じ顔をしていたことを知り……
やがて、僕は自殺した「恋人」について調べはじめる。顔も名前も覚えてない、ただの同級生を。
・補足
孤独と不全感を抱えた少年少女を乾いたタッチで描く青春ミステリ。自殺した同級生の死の真相を追う、という手垢にまみれた青春ミステリのフォーマットにあえて挑むことで、独自性を出してみようというコンセプトです。鍵となるのは、探偵やミステリ、あるいは青春小説に対する、わたしの屈折した感情。それらをエンタメに昇華すべく話を組み立ててます。
☆アリス・イン・ガーデンランド(仮)
・あらすじ
崩落した煉瓦積みの洋館に押しつぶされる金髪碧眼の少女――
毎夜、夢に現れる彼女はアリスと名乗った。箱庭の世界を渡り歩く彼女の導きによって学校の廃バスで活動する箱庭部に集まった四人の少女たちだが、やがて明かされるアリスの正体が彼女たちの世界を揺るがすことに……
・補足
4人の少女を語り手とした長編。これも日常系を相対化するファンタジー設定を導入しつつ、ミステリをやる予定です。イメージとしては『スノウブラインド』とか『みすてぃっく・あい』みたいな感じですね(こう書くとネタが割れそうですが)。
☆奈落の夜の夢(仮)
・あらすじ
妹同然にかわいがっていた幼馴染・小夜子が僕の住む街に帰って来た。しかし、彼女は以前住んでいた街でのトラウマから外に出ようとしない。彼女を案じつつ、姿を見せない探偵「幽寡」の下で助手を務める僕だが、ある日、連続する動物殺しの調査中、外出する小夜子を目撃してしまう。
彼女が犯人なのか?
幽寡と小夜子の間で板挟みになりながら調査を進める僕が知る真実とは。
・補足
ノワーリッシュな青春ミステリ。これもかなり前から構想してます。妹系のファム・ファタールというものが書きたかったんですよね。ファム・ファタールってのは男を破滅させる存在で、基本的に信用できないんですけど、男側が抱く疑念をミステリの柱として描いたらおもしろいのではないかという計算もありました。探偵の存在はそこから逆算しています。
☆喪服と亡霊の輪舞曲(仮)
・あらすじ
殺人犯に会いに行った日、僕は分裂した――
人相の悪さからブッチャーと呼ばれる僕は、猟奇事件マニアというキャラクターを作り上げていた。ある日、すぐ近所に十年前の殺人事件の犯人が住んでいることを知った僕は、彼に会いに行くのだが……ちょうどそれと同時刻、別の場所で僕が目撃されていた。
・補足
不条理でノワーリッシュな青春ミステリ。ふとしたきっかけで、「空気」という責任の所在が曖昧な悪意に翻弄されることになる主人公を描く予定。この設定自体はかなり前からあるんですが、プロットはほとんど固まってません。
☆塔ナギサの初恋(仮)
・あらすじ
十年前に捕まった少女連続殺人犯。三件の少女殺しで死刑執行を待つ彼だが、その供述には幻の「四人目」が存在した。
塔ナギサ。
存在しないはずの彼女と再会を果たしたとき、僕の奥底で眠っていた「本当の自分」が目を覚ます。
・補足
「放課後のタルトタタン(仮)」ほどでないにしても試行錯誤を繰り返している構想。こんなあらすじですが、おそらくラブコメです。ヤンデレ電波転校生と、ゆるふわ愛され同級生と、八方美人な主人公の三角関係を描く予定です。余談ですが、三角関係って、アイデンティティの葛藤と自己発見の物語をやるのにうってつけなのですよね。この話もそういう内容です。
☆天使の羽にさよなら(仮)
・あらすじ
「夢がないなら天使になればいいんだよ」十年前、「天使ちゃん」はそう言って微笑んだ。
あの頃は小学六年生で、柏木さんと一緒に学級委員を務めていた。優等生の仮面をかぶりながら影で大人を馬鹿にし、夢を持たなかった僕たちは、同級生の天使ちゃんの言葉に徐々に動かされていく……やがて自分たちの人生を一変させる事件に巻き込まれることなど知る由もなく。
十年前、僕らは何を失い、何をつかみそこなったのか?
大人になれないすべての人に捧ぐ、喪失と悔恨のノスタルジア。
・補足
ミステリを書く最も簡単な方法の一つは、回想系にしてしまうことです。そんなわけで、全編回想系で長編をやってみようと。『夏草の記憶』や『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』のイメージですね。また、題材としても自分の小学校時代のことをベースにしているので、ありあわせの材料で作った手抜き料理の感が強いです。
☆ガイ・フォークスは微笑まない(仮)
・あらすじ
わたしたちには人間として大切な何かが欠けている。それが中学受検に失敗した理由だと言い残し、少女は炎に身を投じた――
ここは受験教育とは一線を画す独自の教育路線を掲げる県立の中高一貫校。中学受検で失敗し、親友のきゅんちゃんと離れ離れになったわたしは、三年後の高入生募集枠によって悲願の入学を果たす。しかし、再会を喜んでいたのも束の間、少女の自殺をきっかけに中入生と高入生の間で燻っていた火種が激しく燃えはじめ……
荒廃した街。学園に蠢く権謀術数。友人との間に横たわる空白の時間。そして燃え上がる炎――
対立を深める中入生と高入生の狭間で揺れるわたしが選ぶ道とは。
マザーグースが彩るウルトラポップな学園サスペンス。
・補足
これも日常系がベースになってます。超自然現象こそ起きないものの、かなり非現実的な話です。社会的な問題意識から逆算して徹頭徹尾ロジカルに話を組み立てたはずなんですが、どうしてそうなるのでしょう。
☆令和きつね合戦(仮)
・あらすじ
その命、預からせてもらう――
有名進学校から退学勧告を受け死を決意したわたしの前に現れたのは、稲荷様の使いを名乗る狐面の少女だった。彼女に勧められるまま地元の公立高校へと編入するわたしだが、そこで再会した彼女はまるで別人で……
ニュータウン造成に伴って破棄された神社を拠点に、全共闘世代の老人たちとなあなあの「戦争」を繰り広げる少女たち。その日々の中で、わたしは少しずつ生きる希望を取り戻していくが、やがて街に隠された歴史の闇が露わになって……
・補足
これも日常系がベースと言えばベースです。ただ、自分が好きなテロもの(『アカルイミライ』、『ファイト・クラブ』など)の色合いもあります。「もはやオールドタウンと化したニュータウン」という舞台設定ありきで、そこからほとんど自動的に導き出された物語だったりします。そしたら自然と『平成狸合戦ぽんぽこ』の令和版みたいなものになってしまった。
☆牙と詰襟(仮)
・あらすじ
「中学生になんかなりたくない」
局所的なベビーブームによりかつての活気を取り戻したベッドタウン。しかし、その一方で地元の中学校もまた「不良校」の悪名を取り戻しつつあった。中学校生活を不安視する僕は、ある日、吸血鬼化した同級生に襲われる。そこに現れたのは出身中学不明の金髪美少女で……
詰襟の吸血鬼との死闘を描く中学生ノワール。
・補足
とにかく、キャッチーでひねりの効いた暗黒ラノベを目指して考えた話。自分としては珍しく、死、バトル、超自然現象、といったわかりやすいエンタメ要素を盛り込んでいるのですが、特に構想で苦労した記憶もなく、むしろ一瞬で組み上がった気がします。「おもしろさ」を第一義に考えると意外に楽なのだなあ、と。問題は、この世界を表現するだけの描写力がないことです。
☆葉月君は頼れない medium doll puzzle(仮)
・あらすじ
わたし、折笠桜は葉月碧の身代わりである。
学校で有名な美人姉妹の妹が何を血迷ったかちんちくりんの葉月君に一目惚れしたのがすべてのはじまりだった。葉月君を振り向かせたい妹と、妹を男に渡したくない姉。逃げ足が速い葉月君に代わって彼女たちに突っかかられるのが誰であろう、彼の恋人と噂されるこのわたしだった。
「折笠先輩には絶対に負けませんからね」
「妹に葉月君を取られるようなことがあったら承知しないからね」
だから、ちがーう!
しかし、そんな賑やかな毎日はやがて唐突に終わりを告げる。
ラブコメな日常が反転する、学園本格ミステリ。
・補足
「ヘヴン・アンド・アース(仮)」のパラレルワールドのような話。あっちと違って基本的にはコミカルで、ファンタジー要素のない直球の本格ミステリをやる予定です。トリックというよりロジック重視。犯人特定のロジックは完成しているはずなのですが、プロットの時点であんまりに長すぎて自分でもよく理解できないのが一番の問題です。
☆魔法少女には向かない職業(仮)
・あらすじ
魔法の国から来た難民、魔女。
魔女と契約し魔法の力を得た人間、魔法少女。
十万の魔女が突如、日本に出現してから十数年。魔女絡みの違法組織を潰して回る「壊し屋」こと魔法少女探偵ひよりは、職務放棄が続くあまり、所長からお目付け役の魔法兎ティミーと平凡な失踪人探しの仕事を押し付けられてしまう。最初は乗り気ではなかったひよりだが、失踪した少女の行方を追ううちに、契約者の魔女を殺して行方を絶った親友ノワの影が見え隠れしはじめ……
浮かび上がる家庭の悲劇と、壊滅したはずのテロ組織の影、そして五年越しに明らかになる魔女殺しの真実。
一匹狼の魔法少女探偵とチャンドリアンの魔法兎が卑しい街を往く、マジカルハードボイルド活劇。
・補足
魔法少女ハードボイルド、というものが前々から書きたかったんです。無駄に書くのが大変そうな話で、プロットもあんまり考えてません。
☆君と僕とときどき彼女(仮)
・あらすじ
予知能力を持つ僕は、ある日、通りすがりの少女の死を予知してしまう。
しかし、どうやって本人に伝えれば?
彼女の命を救うべくアプローチを開始するが、僕にはすでに恋人がいて……浮気を疑われながら、最悪の未来を回避しようともがく僕の明日はどっちだ。
・補足
この手の設定の構造的要請を茶化した話。つまり、普通なら運命の相手となるはずのヒロインを恋愛対象として描かない方針なんですね。これも「塔ナギサの初恋(仮)」同様、三角関係を使ってアイデンティティの葛藤と自己発見を描く予定です。
☆今日からナナミがおじさんです(仮)
・あらすじ
「おじさん」が死んだ。その「後任者」として我が家にやって来たのは、同級生の鳴海ナナミだった。「今日からナナミがおじさんです」とのことらしい。親戚だと思っていた「おじさん」は赤の他人で、僕を「監視」するために同居していたにすぎないというのだ。
「何も話してはいけません」
ナナミは言う。でも、話すと言ったって何を?
どうやら僕はむかし何らかの事件とかかわりを持ったことがあるらしい。だけど、わかるのはそこまで。何も覚えていないし、周囲の人たちは誰も話したがらない。薄気味悪く思った僕は調査をはじめるが、それが地域社会に波乱を呼ぶ。
・補足
まだ長編の構成方法がわからないときに考えた話。カフカの影響が強く、おそらくここに載せてる中では最も不条理な話です。
☆もう青春ミステリなんて読まない(仮)
・あらすじ
「いつまで夢を見てるの?」
テーマパーク帰りの交通事故で家族を失った僕。高校に進学してしばらく経った頃、夢にネズミ耳の妹が現れた。彼女によれば、この世界は現実ではなく、事故で昏睡状態に陥った僕が見る夢に過ぎないというが……
全校生徒から徹底して無視される学校生活、委員会仲間の相次ぐ死とその事件を追う後輩との甘酸っぱい関係、校内で出回る謎の薬物。そんな僕の青春ミステリな日常が全部夢だっていうのか?
夢か現実か。疎外された少年たちの声なき慟哭がこだまする、反逆の青春ミステリ。
・補足
もっとましなタイトルはなかったのかという話。アンチ青春ミステリのようなことがやりたくてこねくり回したのですが、構想の段階でもあんまりうまくいってない気がします。端的に言って、どういうリアリティで書けばいいのかわかってない。
☆God Save the Children(仮)
・あらすじ
「異世界」からの流れ者たちによって劇的な社会改革が進む王国。その片隅で、子供たちの失踪事件が頻発していた。街の魔物狩りとして信用を置かれる転移者、通称「先生」はパーティーを率いて子供たちを攫っていると噂される魔物の討伐に向かうが、生真面目な新人の独断専行によって足並みが乱れ……
社会的弱者の慟哭が胸を引き裂く、異世界転移ノワール。
・補足
異世界ものとパルプ・ノワールの共通点。それは社会の「落伍者」に着目し、主人公に据えたことです。そんなわけで、異世界転移ものと、ノワール作家デイヴィッド・グーディスの作風の融合を目指してます。ある意味で、アンチ俺TUEEE、アンチミステリ。「ミステリ」という近代以降の概念を、ナーロッパに持ち込んだらどうなるか、という話です。ミステリの構造を使うことで、ミステリが成立しない世界を描くという逆説に挑んでます。
☆神器の勇者(仮)
・あらすじ
王国の「勇者」として召喚された俺。神器と呼ばれる超魔術の武器をもって国の平和を守るのがその仕事だった。
人間とエルフの火種が燻る王国はいままさに一触即発の状態。勇者の就任セレモニー当日でさえ、エルフたちの暴動が起こる始末だ。勇者の力を知らしめようと気炎を揚げる俺だが、なぜか大臣たちは神器の使用に乗り気ではない。さらに、セレモニーの最中、人違いで召喚されたことが発覚し……
理不尽な状況下、あくまで勇者たらんとする俺はやがて王国に渦巻く陰謀に飲み込まれ底知れぬ闇へと堕ちていく。
少年と大人たち、承認欲求ときな臭い陰謀の化学反応が国を焼く、異世界召喚ノワール。
・補足
これも俺TUEEEを茶化したような話です。チートではあるのですが、そもそも力を振るう機会がなく、また、強大な力には責任が伴うという。拗らせた少年のルサンチマンと、ひねりのあるプロット、ダークな展開、アイロニカルな設定が混然一体となった話になる予定。ファンタジーに明るくないので細部が詰め切れてません。
☆幽閉世界のホワイトアウト(仮)
・あらすじ
気づくと、吹雪の中だった。
行き倒れ直前だったところを助けられた主人公は、避難先の施設でここが異世界であることを知る。他の転移者たちとともに、「入国」のための手続きを待つことになる主人公だが、いつまで待っても順番が回ってくる気配がなく……
・補足
カフカの『城』やブッツァーティの「七階」から想を得た不条理な異世界転移もの。外の景色が見えない施設で、この世界のことを学んでいくのですが、そこには常に「ここは本当に異世界なのか?」という疑念が付きまといます。そこから『神のロジック 人間のマジック』のようなディスカッションをさせたらおもしろいのではないかと。
と、こんなものでしょうか。気づいたら、1話分の目安である1000字の7倍近くになってしまいました。ホント、ため込み過ぎですよね……あと、女主人公のときは日常系を、男主人公のときはノワールをやらないと死ぬ病気なのか、わたしは。
とまれ、みなさんはどの話が読みたいですか。
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