第6話 ミステリ沼に落ちるまで 第3期
第2期まで、わたしはずっと本を購入して読んでいました。転機が訪れたのは、第2期が終わり数ヶ月経った頃のことです。わたしはふと気づきました。
近所に図書館がある。
それまでどうして気づかなかったのでしょう。図書館に行けば、ただで本が読めるではないですか。そう思ったわたしは自転車を飛ばし、小学校の授業で訪れて以来ご無沙汰だった図書館に向かいました。
そこで、とうとう出会ってしまったのが長い長い第3期の幕開けを告げるあの作家です。
そう、麻耶雄嵩です。
手に取ったのは、氏のデビュー作『翼ある闇』でした。
麻耶雄嵩と言ったら、新本格ミステリの代表的な作家の1人です。月9でドラマ化された『貴族探偵』が代表的なように、本格のお約束事を蹴り倒した前衛的な作品を発表し続けていることで知られています。
それはデビュー作も同じで、探偵の推理に、禁じ手とも言える専門知識や奇跡としか呼びようがない物理現象を持ち込むなどして物議をかもしました。
もちろん、当時のわたしはそんなことを知る由もなく、なんとなく名前を聞いたことがあるというくらいの理由で、『翼ある闇』と他の作者の小説を何作か借りました。
その何作かがなんだったのかはもはや覚えていません。それだけ『翼ある闇』が衝撃的だったのです。『13階段』、『GOTH』 に続くサードインパクトでした。
新本格ってすごい。
そう思いました。それまでも本格は読んできましたが、ここまで絢爛で驚きに満ちたものはありませんでした。そうか、これが新本格なのかと。
尤も、これは大きな勘違いで、新本格が全部あんな型破りなわけじゃありません。麻耶作品が新本格の中でも特別ぶっ飛んでるだけです。そのことに気づくにはしばらく時間がかかりました。
ともかく、こうして第3期の幕が上がりました。
これまでの第1期、第2期と違って、第3期には明確な終わりがありません。というのも、以降、わたしは途切れなく本を読み続けるからです。だから、わたしを読書家の道へと導いた決定的な出来事が、麻耶雄嵩との出会いだったと言えます。
麻耶雄嵩はいまに至るもお気に入りの作家です。型破りな構想に、精緻なロジック、世界が崩壊するようなカタルシス、倫理を超越したキャラクター。わたしにとって、本格のイデアとも言うべき作家です。
が、第3期を支えたのは、決して彼の存在だけではありません。
もちろん、小説のおもしろさを再認識させてくれたという意味では欠かせない存在なのですが、第3期がこれだけ長続きしたのは、図書館のおかげでもあります。当時のわたしのお小遣いでは、月に文庫本を3冊買うのがやっとでしたから。ただで本が読める図書館なくして、あの読書量は実現しませんでした。
きっと情報に飢えていたんだと思います。当時、クラスのほとんど全員が携帯を持っていましたが、わたしは持っていなかった。部屋にテレビもなく、娯楽と言ったらラジオくらいしかない。お小遣いも少なかったから、できることは限られてくる。読書家の道はあらかじめ定められていたようなものでした。
また、図書館に置いてあった『このミステリーがすごい!』も読書の道しるべとして、わたしを導いてくれました。尤も、このミスは本格色が薄く、ミステリーとは言い難い作品もランクインしてくるのですけどね。わたしがまっとうに本格読みの道をたどらなかったのは、そのせいもあります。
だから、そう。ここがわたしの読書歴をややこしくしていて、節目節目で本格ミステリの影響を受けているにもかかわらず、そのまま本格ミステリを極めようって方向には向かわなかったのですよね。
このミスはその傾向を決定づけるダメ押しの一打のようなもので、このムックを読んだことでわたしにとっての「ミステリ」の範囲が一気に拡大してしまった。
あとはやっぱり、ネット環境がなかったのも大きいでしょうね。事実、本格寄りの読者が多いエアミス研に入ってからは、意識的に本格を読むようになりましたし。
その後の読書歴ですが、フォースインパクトとも言うべき『心の砕ける音』に出会って以来、海外ミステリに傾倒、デイヴィッド・ピースやジェイムズ・エルロイ、ジム・トンプスン、デイヴィッド・グーディス、マーガレット・ミラーといったお気に入りの作家を見つけていきます。
これがだいたいゼロ年代の話で、自宅にネット環境が整った10年代初頭からは前述の通り、本格にのめりこんでいきます。あと、この頃になってラノベを読むようになってますね。人生で最も多読な時期でした。
そして、10年代半ば以降は徐々に小説を読まなくなっていき、10年代も終盤になってあの鬱のような何かを発症し、いまに至るという感じです。もしかしたら、この後に15年越しの第4期が待っているのかもしれませんが、いまのわたしにはわかりません。
そんなわけで、3話に渡ってお送りしてきたシリーズはこれにて完です。みなさんの読書歴も知りたいので、転機となった本などありましたらお教えください。
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