第5話 ミステリ沼に落ちるまで 第2期

 第2期は意外な形で訪れました。それは当時はまっていた漫画『DEATH NOTE』の影響です。


 その頃、この大ヒット漫画には謎本のようなものが何冊か出版されていて、わたしもパラパラっと目を通したのですが、そこである記述に目が留まりました。


 いわく、経歴不詳の原作者大場つぐみの正体は某人気作家ではないか、というものです(余談ですが、この連載では作家の名前は敬称略で統一しようと思ってます)。


 真偽はともかく、あの『DEATH NOTE』の作者と噂されるくらいだから似たようなものを書いているに違いない。


 そう思ったわたしは久しぶりに本を手に取りました。まさか、その本に『DEATH NOTE』以上に夢中になるとは知らず。


 その本の名は『GOTH』。17歳でデビューした天才作家、乙一の出世作とも言うべき本格ミステリでした。


『GOTH』の何がわたしを惹きつけたか。


 もちろん、ミステリとしての意外性、伏線のおもしろさもありましたが、それ以上に、主人公2人の造形に強い感銘を受けました。


「それ以来、僕たちはお互いに話し相手を得た。それは友人と呼べない冷たい関係だったかもしれない。しかし、彼女と応対するときだけ、僕は演技をせず思ったことをそのまま顔表面の皮膚に伝えることができた。したがって僕の顔の筋肉は休憩時間を得たわけである。それはつまり、みんなにひた隠しにしていた僕の心の無表情さや非人間的な部分を、森野は心地よい無関心さで許したということだった」

 乙一『GOTH リストカット事件』


 クラスで孤立するヒロイン森野夜と、どこにでもいる男子高校生を演じる僕。2人を結ぶのは、殺人に対する興味。同じく、殺人事件に興味を持ち、クラスで孤立していたわたしにとって非常にリアルなキャラクター造形だったのです。『GOTH』はだから、はじめて読む青春小説でもあったのかもしれません。


 その後、乙一の作品を買いあさったことは言うまでもありません。


 尤も、その頃の乙一は「『GOTH』で印税がたんまり入って小説を書かなくなった」と言われるほど新作を発表しておらず(実際はずっとジョジョのノベライズを書いていたようですが)、すぐ既刊を読みつくしてしまうのですが。


 すわ、第2期もこれで終わりかと思いきや、またも『DEATH NOTE』に助けられます。ちょうどそのころ、『DEATH NOTE』がノベライズされることが発表されていたのです。


 作者はあの西尾維新。当時からすでに人気作家でしたが、まだ『化物語』すら書籍化されていない時期のことです。


 乙一のときと同様、わたしはこの作者に興味を持ち、『クビキリサイクル』にはじまる戯言シリーズを買い集めるようになりました。


 以降、わたしの中で青春ミステリというものがトレンドになります。乙一と西尾維新が寄稿している凄い文芸誌があると聞き、古本屋をしらみつぶしに回ってバックナンバーを揃えたのもいい思い出です。文芸誌の名は『ファウスト』。佐藤友哉や北山猛邦、浦賀和宏といった作家に出会ったのもこの雑誌がきっかけでした。他にも米澤穂信に出会ったのもこの頃でしたね。


 そんなわけで青春ミステリに傾倒したのが第2期です。このマイブームは1年ほど続いたと思います。しかし、第1期同様、それらの作家をあらかた読みつくしてしまうと読むものがなくなり、読書から離れていきます。


 そして、数か月後、わたしをミステリ沼に引きずり込む決定的な出来事、言うなればサードインパクトが訪れるのです。

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