第4話 ミステリ沼に落ちるまで 第1期
「もうしわけないことにすべて未読ではあるが……ポー、クイーン、クリスティー、それからえっと、乱歩とか? そうした先人たちが、何を発明して何を開拓したのか、何を究めて何を成しとげたのかを、一応は認識していた。だがそれは作品としてではなく、歴史としての認識だ。つまり僕が彼らから受け継いだのは、伝統ではなく形式だった。もっとすごいことを云ってしまうと、僕は『占星術殺人事件』すら歴史として捉えている。『館シリーズ』だって一作も読んだ事がない。『三大ミステリ』で読了したのは『ドグラ・マグラ』だけ。シャーロック・ホームズや金田一耕助とは出会ったことすらない。京極夏彦で講談社ノベルスを知り、森博嗣と清涼院流水でメフィスト賞を知った。それが僕の導入部分であり今現在だ、悪いけどね」
佐藤友哉『クリスマス・テロル invisible×inventor』
はじめてこの文章を読んだのは、読書歴がまだ浅いときのことでした。
メフィスト賞といったら、森博嗣を筆頭に、新本格の流れをくむミステリの書き手を多数輩出していることで知られています。
そんなメフィスト賞でデビューしておきながら、作中においてミステリ読みを突き放すような発言をするなんて振るってるなあ、と当時はうっすら思ったものです(ましてや、「密室本」なる企画で出版されたにもかかわらず)。
ただ、いまになってみるとこの屈託もいくらか理解できます。これまで重ねてきた読書歴を振り返ってみると、わたしもまたミステリ読みの王道から足を踏み外してきたことがわかるからです。
シャーロック・ホームズ、金田一耕助、エルキュール・ポアロ、エラリー・クイーン。
そんな誰もが知る名探偵たちに出会うまで、どれだけ遠回りしたことでしょう。そして未だ出会ったことのない名探偵たちのなんと多いことか。
そんなわけで、今回のテーマはこれです。
わたしのミステリ遍歴について。
『スパイラル~推理の絆~』の影響でミステリを読みだしたのは、前回書いた通りです。
が、ミステリを読むとは言っても、当時のわたしは携帯もパソコンも持ってなかったので、本の情報を集めるすべがなく、書店で目についたものを買うしかありませんでした。
どうしたものか。
生まれてはじめて立ち寄った文庫本のコーナーで悩んだわたしの目を引いたのが、あるキーワードでした。
そう、「江戸川乱歩賞受賞」。
さすがに江戸川乱歩の名前は知っていたので、おお、これは何か凄そうだと。
ただ、乱歩賞自体については何も知りませんでした。ミステリと一口に言っても、本格ミステリとそうでないものがあり、他にも社会派などのサブジャンルがあることも。そして、乱歩賞が本格よりもむしろ社会派の傾向が強い賞であることも。
そんなことを知るのはそのずっと先のこと。わたしはその本を買って帰宅、翌日から学校の休み時間に読むようになりました。
すると、これがおもしろい。
それまで経験したことのない緊張感と重厚なストーリーがそこにはありました。わたしは一気にのめり込み、5日ほどかけてその本を読破しました。同じミステリでも『スパイラル』の小説版とはずいぶん違うものだな、と感じはしましたが。
その本の名前は『13階段』。乱歩賞を追っていくきっかけとなった作品です。
その後、同じく乱歩賞の『Twelve Y.O.』から福井晴敏にはまり、ちょっとミステリからは関心がずれていきます。その間にクリスティやチェスタトンといった本格の有名どころも読んでいたのですが、読書に慣れるにつれ『13階段』のようなインパクトを感じるのが難しくなり、本自体読まなくなっていきました。これが、わたしの読書歴における第1期目です。
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