8.焼鮭料理。
大櫓で馬を、ミカゲの店で馬具や装備を整える。
数日分の食糧などを用意してミカゲはウバの手伝いをしていた。
昨日夜遅く飲み、殆どが飲みつぶれている中、ミカゲとウバは準備を進め、名残惜しくなるからとウバは朝方出発することにしたらしい。
「久しぶりにいい食事ができた。」
「何かあれば、方法はある、いつでも連絡してくれ。」
ミカゲの言葉にウバはほほ笑むと、
「二人を頼む。」
といって馬首を向かう方向に向けていった。
さすがに話も酒も進み、もう飲めないと椅子からテラスの壁に寄りかかり、寝ていた。
ティタはどこでも寝れる。
そして気づけばそれを座椅子の様にして身を預けてねるステイシア。
ステイシアの体温が心地よい。
ルマリアの姿がない。
酔いつぶれる前にウバとルマリアがミカゲにいわれ、寝所に行くとこは見たような気がする。
ティタはまた眠りにつく。
しっかり目覚めたら二日酔いだろうなと思いながら。
香ばしい香りで目が覚める。
眼を開けるとミカゲが炭をおこし、その上で何か焼いているようだ。
ティタは周りを見渡す。
ルードやカエデ達は食事を済ませ、テラスから下に階段を下りるところだった。
ルードと目が合い手を上げられそれにこたえる。
「お、おきたか。とりあえず下にルマリアもいるから顔でも洗ってくると良い。」
ミカゲに言われそのまま下に降りる。
ルマリアが平たい板に炊き立てのオコメや汁物を持って上がる処だった。
「台所の横に水桶が有るからそこで顔洗うと良い。拭きものも掛けてある。」
ティタはルマリアの出てきた扉から入り奥に進む。
かなり広い調理台のある台所の横の水瓶と桶のある洗い場のようなところで顔を洗う。
冷たくて気持ちいい。
顔を拭き上にあがると、ステイシアとルマリアが食事をしていた。
「もうすぐ焼ける。くちにあうかわからんが。」
ステイシアの隣に、お米と汁物があり、長い皿がミカゲの焼いてるものを置くものだと理解する。
ハシと匙があり、ハシを掴んでみる。
「実に細かくこの二本の串で多様なことが出来るんだな。」
ティタは前から思っていたことをぽつりとつぶやく。
「異界の文化と言いうやつじゃな。実に面白い。」
ステイシアも器用にハシを使い、食事をしている。
「コメとその米で作った「ミソ」という発酵物のスープと、これだ。」
焼けたものを長皿に置く。香ばしい香りは魚の切り身だった。
身の色はオレンジ色で、油分も豊富で、良い音を上げている。
一切れつまんで食べてみる。
上手くははさめないが、ティタは器用に身を口に運ぶ。
「うまい。」
ティタは今まで食べたことのないその焼いた魚をたべ、汁物も啜ってみる。
奥深い味がくちにひろがり、一緒に煮込まれた葉物の野菜が味を吸って更にうまい。
「体を鍛えることも大事だが、ステさんの貸してくれる書物やここでの食事で、しっかりと旨いものを食うことも、強くなる礎なのだろうなと最近思う。」
「そうだな。鍛錬はだいじだが、そればかりでなく、体の内の気持ちも大事だ。
それは「シャケ」という魚で、海に行き川を上る。
焼いても美味いが、生の刺身はまた格別だ。
昔は生では駄目だったんだが、北の辺境の村に行けば「ヨウショク」してて生で食えるが・・・酒がすすむ。」
ミカゲは日常品もそうだが、装備や食事にもかなり興味というかこだわりを強く感じる。
旨いもののためならどこまででもいきそうな・・・。
「で、だ、ティタ。住居の木材を伐採するがてら、北の村との道を拡張しようと思うのだが、どうだ?」
「断る理由がない。皮の部分をもう少しカリカリに焼いて、あえてヤギの乳の発酵させたバターやキノコを入れて蒸し焼きにしても俺はうまいと思う。」
「お前も料理を結構するようだな。昼はそれを作ってみるか?
ティタの淹れるコーヒーはウマイとステイシアもいうから後でだしてもらおう。」
「道具が有れば淹れさせてもらおう。あと、ウバさんの装備の革の鞣しも聞いておきたい。
武器の端につける取り落としや持ち手の補助に使えそうな革紐に良い気がするのだ。」
ミカゲも自分の切り身を焼き、食べ始め、ティタの言葉に答えていく。
「料理と装備と・・・似た者同士じゃなw」
ステイシアはデジャヴの様にルマリアに声を掛ける。
ルマリアもそれにこたえ二人を見ながら微笑した。
コーヒーをミカゲの道具を借りながら淹れ、その後ミカゲ、ルマリア、ティタは朝の鍛錬という形で、台の上で素振りや自重を使っての体幹トレーニングなどを行う。
運動が足りなかったミカゲとティタは灰の山を水瓶を担いで登り、シデレラも着いて行った。
そして汗を流すと二人は「エプロン」をつけ調理台に。
ティタの言っていた料理を作りそれを昼飯にするためだ。 ルマリアはコメ担当。ステイシアは応援係じゃとさっそく酒を飲み始める。
ティタはミカゲが捌いた鮭を切り身にしてまずはじっくりと焼く。
ある程度焼けたら熱を冷ますために取り置き、キノコ等の野菜をその鉄板で炒める。
大きめの鍋にそれらを敷き詰め、その上に何枚か焼いた鮭を入れる。
ミカゲからもらった、魔牛という動物の乳から作ったバターをもらう。
濃厚な風味でパンの上にのせてもうまそうだ・・・と呟いたらステイシアが作るのじゃと目を輝かせてきたので焼いてみた処めちゃくちゃうまかった。
ミカゲと黒胡椒や、香りの強い香草を擦り付けてもうまそうだなと話してたら、
それも食べたいと言い出したので、それはルマリアが担当することに。
元々火が通っているので弱火で蒸す。
竈の日は一定に木炭がしてくれるので、鍋をおく五徳でいいように火加減を調整できるのがいい。
野営など火がなかなか起きずに、苦労したものだと思い出したりもする。
ティタは鮭をもう一切れもらい、同じように焼いていく。
ある程度焼けたら身をほぐし、今度は塩気を効かせて炒め始めた。
ステイシアが何を作っているのだろうと腰を上げてティタの横に来る。
「これはこれでうまそうじゃな。」
「昨日言っていた料理を振る舞う件ですが、その参考になれば。」
「完成までまつかのw」
と言いながら少し身をつまみ席に戻る。実に自由人だ。
あれだけ食べて飲んで運動をしてるところを見たことがないのだが、あのスタイルはどうやって維持してるのだろうと思いながらも手は留めない。
皮も細かく刻んで炒め、焦げ目がつくくらいに焼く。
鍋に入れた鮭の香りが強まり、少しふたを開けてみる。
いい感じだ。
コメも炊けた様なので、台所の横のテーブルで実食となる。
ミカゲも野菜や、魔牛の乳を使った白い野菜入りスープを作っていた。
ルマリアの炊いたオコメ。
鮭ときのこの魔牛バター蒸し。
魔牛の乳のホワイトソースシチュー(野菜、鮭入り)
そして、ティタの身をほぐして炒めたあれだ。
塩気が強く、ティタはその身とお米を混ぜて手で握っている。
「お、ムスビか?」
「はい。ビアンさんの持っていた本で見たのですが、してみたかったので、この身の塩気をませば、コメの甘味と合いそうだったので作ってみました。」
味見用に一口サイズで小ぶりに握っている。
皆まずはそのムスビを口に頬張る。
塩気と身とコメのバランスも丁度良い。焦がした鮭の皮と焼いた鮭の切り身がコメとからみすすむ。
「北の村にコメを薦める際にこのムスビもどうじゃ?いずれは「スシ」もくいたいが。」
何個か作った鮭のムスビを頬張りながらミカゲに言うステイシア。
口の周りにはどうすればつくのか、米粒が頬に。
そっと無意識にその米粒をとり、口に含むティタ。
「ありがとwww」
ティタに満面の笑顔をむけるステイシアだった。
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