10.身心一如
斧作りは続く。
炉である程度温度を上げた玉鋼。これをある程度槌で叩き、整形していく。
木を切る為の片刃の斧。少し幅のある長方形に形を整えていく。
隣でミカゲが一度手本を。
後はティタがやってみる形だ。
火の入り方もよく、沸きもよい。
打つのも安定して打てる時間がある。
ある程度形を整え、長手から見て片方が垂れ下がる様な曲がりを付けていく。
一端が刃の部分になるので、大きさや幅に合わせてその角度は変わる。
そのあと柄を刺す部分をタガネを使い少しづつ開けていく。
ミカゲは実に流れるようにタガネで四角い溝を開けていくが、初めてのティタは苦戦しているようだ。
ミカゲの使うタガネはある程度熟練によって使用する種類や、数が少ない。
まだ慣れないうちは小さいタガネから徐々に大きいタガネへと変えて柄を通す穴a開ける。
ミカゲも時間をかけて丁寧に指導していく。
その後穴を作り、そこにタガネを通しこんで整形していく。
きっちりと成型した形にしていく。
次に刃の部分になる処に割り込み用のタガネを割り入れ、そこに新しく炉で熱した玉鋼を挟む。
硬度的に言うなら研ぎの部分もあるので、若干研ぎやすく、柔らかい部分の玉鋼を挟み、炉内で融着。
丹念に打ち付けて整形していく。
一つの鋼ですると思ったのだが、確かに、理はかなっている。
ティタは以前、斧の様な武器を打った時に刃の部分がかなり傷んだ得物を、研ぎきれずに断念したことがあった。
この発想なら打ち直しも研ぎもしやすいだろう。
ティタは感心しながらも同じように打ち、気持ち的にも最初に打った鋼と溶け込むように念じながら打つ。
ティタの持つ槌がぼんやりと光り、打たれる鉄が鈍く光る。
「魔力が入っていってるぞ。業物が出来るかもな」
「うまくくっつく様にと思って打ってるだけなのだが・・・」
「本能的なものだ、天性の鍛冶屋は魔法や術式を知らんでも知らずに魔力を込める。いい斧になるぞ。見た目は・・・まあ後で修正は効くだろうが。」
ある程度打ち込みは続く。
形が出来たので、ミカゲは眼帯の刻印をタガネで柄を付ける面に打刻した。
ティタはそのままだ。
ミカゲの指導の元、再び炉に入れて細かく打って整型していく。
いい感じの見た目になったので一度そのまま温度を下げて、それからまた炉に入れて水につけて一気に冷やす。
俗にいう焼き入れ焼きなましというやつだ。
「時間も良い感じだ。汗を流して飯の準備をするか。」
ミカゲの声で炉の温度をさげ、いったん休憩にする。
今作っている分と、以前製作した分とあわせてうまく回せるだろう。
ミカゲは算段しながら風呂場に向かう。
ミカゲの建物の二階に寝所と浴室が作られ、炉の余熱を使った風呂や、温水のシャワーなども使える。
「誰か使ってるようだ、とりあえず体を拭いて飯の支度をしようか」
ティタにミカゲは言って、二人は台所へ。
「何か作りたいものはあるか?」
ティタはミカゲの置いた食材を見ながら少し思案する。
「コメも結構炊いてるし、炒めたり、煮てみたりしたいな。」
「やきめし、おかゆといったところか。じゃあ俺は汁物とおかずを作ろう。」
漢二人和気あいあいと好きな料理に興じる。
ティタは肉と香味野菜をいためて焼きめしの準備。
鍋に水を張り、調味料や具材でベースを作ると炊いたコメを入れてゆっくりと煮る。
おかゆの具材を見てミカゲは味に合う濃い味の揚げ物と、逆に薄く優しい味わいの卵料理を作り始める。
あわせて味噌汁は根菜などのゴロゴロ入ったそれだけでもご飯がすすむ煮物風の汁物だ。
良い香りが漂い始めると、ティタは火力の上がった竈で手鍋をふるい始める。
具材が炒められていき、香ばしい音とともにコメが舞う。
「俺と同じ、鍛冶技能や調理技能が高いな。」
「計ったことはないがそうなのか?」
「ああ、間違いなく高いぞ。今度ステイシアに診てもらえ。鑑定技能も持ってるからな、あいつは」
「なんじゃ、わしのうわさか?」
湯を浴び、まだ濡れた髪を拭きとれてないステイシアがいつものはだけたネマキで台所に顔をだす。
「朝から食欲をそそる香りで誘いよって。ここにいて正解じゃったわいwwww」
ステイシアはウマイ飯にありつけるとミカゲの家に入り浸っていた。
「おはようございます」
顔をひょっこり出してくるルマリア。
ついさっき起きたのだろう、まだ眠そうだ。
「まだ早いが、一緒に朝飯にするか?」
いつもよりは少し早いが、支度もそろいそうなので、ルマリアが顔を洗っている間にとりあえず飯の準備が台所の横のテーブルでされていく。
鶏肉と香味野菜のおかゆ。
魔物の肉と野菜の焼き飯。
具だくさんの根菜の煮物風みそ汁。
揚げぎょうざ。
だし巻き卵。
しょうがの様な風味の白湯と、果実の風味の水。あとは御好みといった感じだ。
焼き飯は取り皿で食べたい人は食べてという感じだ。
冷めて残っても握り飯で、保存も効く。
「おぬしら夜更かしか?」
「はい、ミカゲ殿に教わりながら斧を打ってました。」
ステイシアはおかゆを匙で頬張りながら、それにティタは答える。
「思った通り筋がいい。魔力もこもっていて、良いものが出来そうだ。」
「良い音色は聞こえて来てたが、出来上がりも楽しみじゃな。」
「後で微調整して、後は研ぎかな。少し仮眠とってもいいが、その辺は任せるぞ。」
「ですね、ご飯食べたら眠気に負けそうです。」
ティタは食べながら笑みを浮かべる。
夜中から集中して鍛冶作業をして朝食の準備。
仕上げをする前に少し体を休めて集中するのも悪くないかな言うところがティタとミカゲの考えだった。
「俺も眠いしな、すこしねて、昼過ぎからにするか。そういそぎでもないしな」
ミカゲも眠そうだ。
「ではわしも二度寝するかの、ティタの片腕を枕代わりにさせてもらおうかの」
おかゆを平らげ、焼き飯を取り皿に大量に盛り付けながらステイシアは言った。
ほんとこの人はどこにそんなにこの量が・・・え?腕枕?
にやけるステイシア。
「ベッド狭いですし、寝返り打ったら潰れますよ?」
「大丈夫じゃ」
「じぶんねぞうもわるいで「大丈夫じゃ」」
「・・・・」
二人のやり取りをみてにやけるミカゲ。
苦笑するしかないルマリアだった。
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