スミス・ロード ~辺境の鍛冶屋~
しんごぱぱ
序章 灰の山の麓 鍛冶屋キュロプス
ツルギとマホウの世界。
そういうのが最も想像しやすいと思う。
ここは帝国と王国の国境に近い場所。
この辺りは様々な魔物の
帝国側には上ることも下ることも、人力では難しい『崖』という天然の城壁に囲まれ、その間にある『渓谷』が唯一帝国領へと進める道といえるだろう。
その道も、帝国と王国側の国境として、それぞれ城壁のような壁と鉄の扉で固められ、通行証を持つ者だけが、通ることができるようになっていた。
両国とも、それほどいがみ合っているわけではない。
王国はつい数年前まで、突如魔物が大量発生して沸いた王国領にて、魔物を引き連れて攻めてきた『魔王』を倒したばかりだ。
その時は帝国側も、ほかの国も協力して、王国と共に戦った。
ただ、それはそれ、これはこれ、互いに線引きはしっかりしいきましょうということである。
そんな帝国と王国の国境に近い『灰の山』の麓寄り、そして『魔の森」の囲まれた一角に開けた所があり、更には人工物がる。
家屋のようだ。
家屋は一帯を、道といえる所以外は丸太を積み重ねた、塀のような囲いで守られていた。
畑もその囲いの中にあり、少し異質な雰囲気のある柵は、害獣や不意の来客に対してのけん制というところか。
家屋は囲いの一帯の端に長屋のような作りで二階建てで建てられており、1階の中央の扉の横には表札ではなく、平板の看板のようなものが立て掛けられていた。
「鍛冶屋 キュロプス」
と。
その中には人の気配があり、中央のドアから入ったあたりに一人、そしてその一人を囲むカウンターのような机を挟んで一人の計二人の気配。
客と店主であろうか・・?
扉のほうの人は背の高い、すらりとした人影である。
銀色の長い髪、そして赤黒い、見慣れない肌がより一層、
不可思議な印象を与えなくもない。
その印象をより強調するのが、額のあたりから生えている角。
まっすぐと前方に伸びるように伸び、そして少し上にそりあがっている。
長さにして数センチ程か。
羊などの動物の角と同じような表面で、皮膚が硬化しているのだろうか?
きれいに磨き、手入れもされておるようで、好奇心の強い人は触りたくなるような感じだ。
扉側から角の生えた人を、机を挟んで話している方は、見た目明らかに人である。
背こそ扉側の、角のある人影と同じくらいだが、肩幅も筋肉の盛り上がりで良く鍛えらえており、がっしりしており、一つ一つの動きに無駄がない。
少し茶色掛かった短髪、無精ひげも所々みられ、顔や、衣服から覗く腕やあちこちに、薄っすらと切り傷のようなものが見られた。
壮年のいかついおやじそのものである。
「大変、助かった。よもや、このような近場で、装備の手入れが、でき、るとは思って、いなかった。」
角のある人は、微妙な区切りと口調でそう言った。
「たしかに、こんな
角の人の喋りには一切気にする様子もなく、体躯の良い男は、よく通る、低い声で、笑顔を浮かべて、そう言った。
「ミカゲ殿、と言ったか、何故こ、のような
所で?鍛冶屋、など?そな、たの腕なら中央の、工房や、貴族の、お抱えでも、十二分に、生きていけそう、なの、だが?」
角の人に「ミカゲ」といわれた男は肩をすくめて、
「他人に縛られるのはもうこりごりなんですよ。それにこの森の動物や山から頂けるものは生活にも、仕事にも使えるものばかりで。それを知るとどうも人の多いところには・・・♪」
角の人は成程と納得した雰囲気でかるく頷く。見た目とは裏腹に、角の人も気性の粗さもなく、穏やかな人柄のようだ。
たわいもない会話にミカゲという男が
答えていく。
ある程度角の人も笑みをうかべた、柔らかい表情で受け答えをしていた。
「また自分、でも、手入れ、が難しくなれば、持ってきます。」
角の人は腰に収めた剣の
「また、よろしくお願いします。今後とも、ご
角の人から何枚かの帝国通貨と、宝石のようなものを受け取り、ミカゲは答えた。
「店を出てその中央の石の台に、実践的に確認できる的やら木の杭など置いてるので、確認するならそちらで。」
店の扉を出る角の人にミカゲはそういうと、角の人は軽く会釈して、腰の剣の柄を握りながら、石でできた台の上に立った。
弓を撃つやや長方形の道場のような縦長いところで、端には弓矢の的。その間に、邪魔にならないように、木の杭などが数本、人の形に似せて打ち込まれていた。
角の人は剣を腰から抜くと、中段の構えから、前に歩むように、流れるように木の杭に突きを放つ。まったく無駄のない、流れるような、素早い
細身の剣の様に、刺突に特化した剣ではなく、薙ぎ払いもできる直刀の両刃の剣。
背中に背負うほど長くなく、かといって小回りが利く程短くもない。自分に合わせた使いやすい長さの、両刃の
杭に吸い込まれた切っ先が、抵抗もなく、
「スッ」とぬける。
角の人は刺した剣先の刃先をみる。木の杭もしっかりと乾燥して身がしまっている。普通の剣先だとこうも刺さり、また抜けるものでもない。
先刻受け取る際軽く試してみたが、仕上がりも申し分なく、握り、振り、共にしっくりくる感覚だ。
「スバラシイ」
ミカゲと話した言葉とは違う言葉で、角の人は呟く。
店の扉のその横の部屋の勝手口開き、そこからミカゲが出てきて、長屋の横の倉庫のようなところに入っていく。
小さい台車にきれいに並べられた木炭や、それが落ちないように積み重ねられた、平たい板状の、溶岩が固まった様なものを載せて来た。
それを勝手口の部屋に入っていき、何往復かする。
その後、ミカゲは長屋の家の中から、木のコップに何か入れて角の人に持っていく。
「良かったら。」
角の人は剣を鞘に納め、軽く礼をしてうけとる。コップの中には水が入っている。指先には冷えた感触がある。
匂いは
少し口をつけると、冷たい水と、その後から
角の人は少しびっくりしてコップの中身を見た。
見た目水だ。
でも飲むと水の喉越しと、柑橘類の
「この山でとれる柑物の果汁、と清流の水を冷やしたものを合わせたものですよ。」
ミカゲがそう言うと、角の人は一気に飲み干し、もう一杯ミカゲに頼み、
「この味が、ここ、から離れ、られな、い理由の、ひとつな、のだな」
角の人はそうつぶやき、次はゆっくり味わいながら飲んでいると、
「お客さん、軸足か、利き腕の健か骨を、痛めていないですか?」
ミカゲのぽつりと言った言葉に、角の人は少し驚いた様子でミカゲを見た。
「なぜ、ソウオモウ?」
帝国訛りと、そうでない言葉を話してしまい、角の人は自分がかなり焦っていることを、ミカゲにさらす形となってしまった。
「お客さん言葉はおきになさらず。ここは王国の辺境地。帝国から北方や、先住民の種族、様々な人が訪れます。もちろん、魔族の国の言葉でも、」
ミカゲはそこで区切り、
「ジブンハ、ハナセマスカラ」
と角の人の言葉でそう言った。
空気が、ぴんと張りつめた。
二人の間にはその張り詰めた空気の塊が、やがて二人を包み、それは緊張の糸となり、ミカゲを凝視する角の人の視線に、殺気を込める形となった。
柵の向こうの木陰から、その殺気を察知した黒い鳥が数羽飛んでいく。
「お客様、そんな怖い顔なさらず、キレイな顔が、台無しですよw」
ミカゲは笑みを浮かべて角の人を見る。
「不躾ですいません。お客様の装備とその剣を診て居る時に、その
言った辺りの損傷が激しかったので。
先ほど話していた時も、普通に動かせていたご様子なので、気にはしなかったんですが・・・。
自分が思うに、魔法の回復術で直したものの、完治はしていない感じの「ブレ」があったものでして」
ミカゲはそういうと、角の人の上腕を軽く指さして言った。
角の人は気取られぬように息を吐く。
併せて言葉にしてきた。
「確かに、私は数週間前、蛮族の討伐で抜けにくい矢を受け、右手を損傷しました。軸足も、同じ戦場にいた弟をかばい・・・。回復魔法の使える術師に治療をしてもらい、回復はしていたと思っていたのですが、。
私以外、誰も気づかぬその「ブレ」をあなたが気付くとは・・・。」
ミカゲが自国の言葉でもと言ったので、気にせずその言葉で話す。角の人も、自分の体の回復具合を、気にはなっていたようである。
戦場ではそういった僅かなブレでも、扱う武器によっては、大きなミス---死に
回復魔法も様々な国々、世界で唄われるほど万能ではなく、術の施行で表向きは治っていても、完全に回復するほどの術の行使となれば、術の精度、練度、技術、魔力や、場合によっては、儀式などを行う等の条件も関係してくる。
神の使いといわれる神聖魔法の使い手といえど、人の命を呼び戻すのも、杖を振りかざし、エイッと言うわけにはいかないのだ。
逆に人の命は、何の
角の人は
しかし、だ。装備の整備を頼んだものの、その損傷個所や具合でそれでもその動きを「ブレ」ととらえ話してくる、このミカゲという鍛冶屋の店主。
信のおける武人から聞いて来たものの、高位の術のかかった魔物除けと、人除けの処理済みの柵。
作り直すしかないと思った装備も、以前の状態で、耐久度も同じほどに仕上げる技術。
一級の鍛冶師ならばと思ったのだが、それだけではないような気がする。
その時、この鍛冶屋を教えてくれた人の言葉をふと思い出す。
「ミカゲ殿」
「はい、なんでしょう?w」
「一度、ミカゲ殿と手合わせ願えないだろうか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます