2.巻いた角。

 草の門の櫓。

 そこは錚々そうそうたるメンバーがそろっていた。

 ヴィート、ビアン、白布アルテ痴女ステイシアだ。

 夜目の効くアルテが精霊魔法も併用し、周囲の警戒。

 ビアンがステイシアにまとわりつかれて調理している間、ヴィートは長い筒で遠くを観察していた、何となく元気がないのは、ゴブリンの洞窟に行けなかったので少し拗ねていた為だ。

 ステイシアはビアンの焼いた肉を頬張りながら酒を飲んでいた。

 この前ビアンが調理したステーキというものに興味があったようだ。

 あの鉄板で焼いていた生焼けの肉を作ってくれとせがんできたのだ。

 ばかり見てもおかずにならんじゃろうからと背中ごしにステイシアの胸の圧力をビアンは喰らいながらとご褒美付きで・・・。

 なんじゃ、前がいいのか?と前側に回り押し付けてくる。

 はだけた服の間からはちきれんばかりの胸の谷間がせりあがってくる。

 ステイシアの胸の谷間おかず提供酒のアテのおねだり作戦に陥落したビアンは肉を焼き、ご所望通りブルー(ほぼ生焼け、表面を少し焼いた程度)で提供した。

 ルワースやティタの部下同僚sはミディアムレアで、生肉や焼きすぎた肉ではなく、「調理」という魔法の良さを少しでも感じてほしかった為敢えてそうしていたのだ。

 ステイシアの性格上、そして彼女の嗜好から、ミディアムより更にレア度の高いブルーで出したのだ。


「うむ、これじゃ、さすがビアンじゃ。イートも食べ飽きん優しい絶妙な味付けじゃが、おぬしは人に合わせて、絶妙なトコを突いて来るじゃなw」

 ステイシアなりの最上級の誉め言葉に、胸に片手を当てお辞儀をするビアン。

「まぁ、ステーキをせびりに来ただけではないんでしょうけど・・・」

 肉と酒をある程度味わったステイシアにビアンはポツリと呟く。

「その頭の回転の速さくらい腰が動くならからだの相手もしてもらいたいところじゃが。」

 手を止め立ち上がる。

 実にわざとらしく前かがみに立つので胸元が凄く強調される。


 ビアンは逃さない・・・・。


「ルマリアとティタについてじゃ。」

 ビアンだけではない。アルテ、ヴィートもそれとなく近くに寄る。

 二人はこの「湖の村」の住人になった際、おおよその者は判っていたが、ルマリアは性別を明かした。

 しかし、だ。

 ティタ同様認識阻害の上位の術を仕込んだ飾りをつけ、ふたりは見た目を、特に「角」を隠していたのだ。

 魔人や半妖魔たちには人と魔人、妖魔等の血が交じり合うため、外見的にも、片親の血筋に寄る傾向がある。

 魔人は特に魔人の血が強いので、ほぼほぼ外見は寄るのだが、その時に特徴の一つとして「角」がある。

 異界に住む鬼の様に二本の者もいれば、太い一角などがある。

 しかし、悪魔や伝承にある羊の様な巻角まきづのなどは、上位魔族や王級魔族に多々おり、はじめ見たティタやルマリア達は、ほぼ通常角の形で中位の魔人の血と思っていたのだ。

 だが、認識阻害の上位の術の仕込まれた飾りを取り、二人が見せたのは、巻き角。

 ルマリアはやや耳の上方額に掛けて小さく。

 ティタは太く幅のある巻き爪だった。

「まぁティタの膂力からしてそうであってもおかしくねぇだろ?」

「確かにヴィートの言う通りじゃ。お前のバカ力も人智越えじゃが、あんな鈍器は迷宮の牛頭魔人ミノタウロスが振るうもんじゃ。」

「ステイシア様のおっしゃりたいことは、ルマリア殿のことですか?」

「そうじゃ、白布アルテ。わしが言いたいのはあやつの事じゃ・・・」

 ステイシアはビアンの手を取りそのままアルテの胸元に持っていこうとする。

 アルテは両手でやんわり、でも目は真剣にお断りしてくる。

 ステイシアはつまらなそうに、しかたないのぉ、わしのを揉んどけといってビアンに左胸を触らせた。

 

 服の上からだがビアンは心の中で歓喜したw


「今日のおかずには事かかんのぉw」


 はぐらかしながらも、ステイシアは、同じ形をしたあの巻き角を持つ魔族の事を考えていた。

「あの角と色は、わしも、ミカゲも、見覚えがあるんじゃ・・・」


 ********************


 ゴブリンの洞窟の入り口。

 ルードが焚火に何かを投げ込み、その後すぐに二匹と一匹は眠りに落ちた。

 二人はミカゲからもらった短剣をゴブリンの首筋にスッと挿した。

 呼吸と共に最後の呼吸音をしながらそのまま永遠に動かなくなる。

 一匹も同じように。

 五人は先頭をルード、その後ろをミカゲ、カエデとルマリア、ガッハの順で洞窟に入る。

 中は広くも無く狭くも無く、適度な広さと、快適ではない湿度があった。

「湿気が強いので、臭いも探知されにくいですが、おきをつけて。

 ひどいですよ。」

 ルードはそう言ってゆっくりと進んでいく。

 通路に転がる骨や腐った塊。

 同種のゴブリンのモノもある。

 手足を刺され、壊死した冒険者の様な物も壁に張り付いている。

 首筋に真新しい傷があり、どうやら先ほどまで生きていたのかもしれない。

 壊死がすすみ、思考回路や激痛にさいなまされながら、神の奇跡で治療を施されたとしても、この状態では四肢を完全に治すことはもはや不可能だ。

 わずかながらの意識を保ち、止めを頼んだのかもしれない。

 血と、体液と、所かまわず糞尿をまきちらし、彼らはそういう清潔感や倫理を持ちちあわせていない。

 むしろ、そう言う考えを持つのは少なからず人という者だけで、魔物にそういう考えなど元から無いのだ。

 同じ二本足歩行の物として、同じ考えだろうと思うこと自体おかしなことである。

 かといって、四本脚なので、獣の本能のみで生きているとも限りはしないのだが。

 

 進んでいくと右や左に分岐している道があるが、ルードは迷うことなく皆を道案内していく。

 わずかな時間でここまで見てきたのだろうか?

 ルマリアは彼の能力の高さをそれでも、「甘く」見ていた。

 すすむにつれて臭いが強くなるが、この辺りからゴブリンの死骸が道脇に転がっている。

 「この辺りから少し上の階級の場所のようです。それなりに区画されてました。」

 確かに洞窟内の通路の荒れ具合も幾分かは収まり、洞窟の所々えぐれた穴のようなところに汚物や物が詰め込まれている。

 ほぼ首筋、心臓を一刺しされ、道のわきに転がるゴブリン達。

 ガッハも背後を警戒しつつも、ほぼ前を向きついてきている。

 「ここから今回指揮したゴブリンの頭領リーダーの部屋まで一直線です。

 裏の逃げ道のルートはフィートとイートがふさいでますので、ここを潰せばほぼ、おわりです。」

 ルードの声で皆の歩みが止まる。

 開けた所の曲がり角の通路だ。

 静かに。

 そういう意識が聞こえた気がした。

 カエデが印を結ぶ。

 ゴブリンが通路に入ってきたが全く気付いていない。

 カエデが印を結び、何かの術で、自分達がわからないのだろうか?

 ゴブリンの背後にミカゲ。

 そしてゴブリンはゆっく首をかしげるように動かなくなる。

 背後から首筋と心臓の二か所素早く短剣を挿し込んだようだ。

 ひらけたところでは、うめく声やゴブリンの野太い奇声、何かを叩く音の様な物も聞こえる。

 ルードが腰の袋から何か取り出す。

 カエデもルードの横に着き、何かを唱える。

 ルードの手球状の何かが数個開けた所に投げ込まれる。

 ルマリアは眠気に少し襲われたが、ミカゲに肩を揺らされ、意識が回復する。

「カエデは対面の通路。ルードと俺が掃除しよう。

 ルマリアはガッハのサポで来た道を警戒してくれ」

 開けた所には寝ころんだゴブリンと、その被害にあった、

あっていた、

あっている最中の者達が居た。

 ゴブリンの中でも特に体が大きく、力ある者だろう。

 おのおのその旺盛な性欲を、対象に吐き出していたようだ。

 中には鎖で四肢を縛られ、さるぐつわの様にゴブリンの着ていた布の端を口に当てられ、抵抗する気力も無く蹂躙されていたようだ。

 ルードの投げた球とカエデの術で、一時的に眠っている。

 その影響でルマリアにも軽い眠気が襲ってきたようだ。

 通路の両方を警戒し、ルードとミカゲがゴブリンの首に短剣を刺していく。

 通常何度も深く差し込めば、血液の成分で鉄はかなり傷んでくる。

 刀も、突きなどをすれば同様だ。切り付けるにしてもすぐに刃がいたんでしまう。

 ロングソードの様な物は主に叩き割る力任せの構造が多い。

 しかも鎧を着、斬られなく。突かれなくすると、機動性を生かし、急所を突くか、鈍器でその上から叩き潰すかという図式が出来上がる。

 とかく剣に憧れる、象徴としてのものはどこにでもあり、とかく使われがちだが、戦場を経験し、生き伸びることに精通したもの共通にして言えることは、まんべんなく何でも使えるものが多い。

 時と場所で得手不得手なく何でも使いこなせる者が初手やそういう場所では強いのだ。

「急ぎ作ったが、の魔核の短剣はいい仕事をする。」

 ミカゲが作業を進めながらいう。

「そうですね。刃こぼれも、それに血や肉に絡みつかない…今度刃先を直刀にして作ってくれませんか?闇に溶け込んで使いやすそうです。」

「わかった。打ったらルードの小遣いきゅうりょうから引いておくぞ」

 ゴブリンのお掃除をしながら、二人の動作と会話は無機質な物であった。

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