16.陰謀
焼肉の煙が上がっている湖の門からまっすぐ行った湖の
ひとけの無いところで、黒いローブを着た者が
顔は深くフードを被り、良く見えない。
黒ローブの手には小瓶が握られていて、その瓶の中身を湖の中に入れようとしていた。
「!」
瓶に向かって何かが飛来し、黒ローブの手から離れて飛んで草むらに落ちた。
瓶にゼリーのような粘液の塊が覆っており、落下しても割れることなく草むらに転がった。
塊の飛来してきた方向に黒ローブは体を向ける。
黒ローブの顔の辺りで花火のように光が発火する。
しかし黒ローブの顔は明るく光を反射することなく、確認することが出来ない。
「物理・魔法防御に認識阻害まで、ずいぶん手が込んでますね。」
そこにはルードと、妙にぴったりした服、上下に分かれた音のしにくい着物の様な服-忍装束を着た黒髪の女がいた。
「団長の言うとおり警戒していたら、案の定、あなたが来ましてね。」
ルードは黒ローブに向かって話し始める。
「しかもその杖。それは依然
黒ローブの持つ異様にオーラを放つ杖。
禍々しい気を放つその杖は、そのまま湖に入れるとたちまち汚染されそうな程、
「何が、目的なんですか?考えても判らないので、教えてください。」
ルードが黒ローブに問いかける。
と、同時に後ろの黒髪の女が何かを黒ローブに投げつける。
ひし形の形の刃。一端には重し代わりの物が付いていた。
黒ローブの手に二本突き立っている。
「驚かなくても。術を掛けていてもそれは刺さるんですよ。」
苦無の突き立った箇所がまばゆい光を放つ。
黒ローブは後ろに飛びのく。
片腕は吹き飛び、無くなっているが何もいわず、血も流れず。
「錫杖の魔王の邪竜の杖。誰が直したんですか?」
黒ローブの男は身をひるがえす仕草をする。
滲んで消えていく。
黒髪の女は追いかけようと、動き始める。
ルードの手が前を
「追わなくていいですよ。この計画自体、露見してしまってはすること自体無駄ですからね。」
「・・・」
胸に当たった手を、女はじっと見ていた。
********************
「そうか、今回の
ミカゲは冷酒を飲みながら横に座ってきたルードと話している。
「錫杖の魔王、邪竜の杖に違いないと思います。」
ミカゲだけに聞こえる特殊なこの響き。
聞こえるのは、聞こうとしても聞けるのはおそらくステイシアと精霊の力を借りたアルテくらいだろう。
隠密系統の偵察、斥候等の特殊技能の持ち主のルード。
時空系の魔術もつかえ、ある程度の距離で有れば行った場所で有れば、色々な制約はあるものの、移動することは可能だ。
彼が国境近くの話しや、イートやフィートたちが追跡帰りの場所にと行けたのはこの能力が有るからだ。
先ほどあった出来事をミカゲに報告すると、ルードは
一緒にいた黒髪の女はいつの間にか自警団装備を着、ステイシアから酒を注がれ、一気に飲み干している。
「野兎を香草と塩で固めてるやつを持ってきたよ。火の下で蒸し焼こうか」
ケットに渡し、その横に座る。
イートの少し酔った顔が笑みで埋まる。フィートは不機嫌そうだ。
ミカゲは対面の、俯いたまま肉をつまむルマリアを見る。
そっと酒の入ったコップをわたす。
普通のコップよりも小さく、
「以前一口飲んだ果汁を少し合わせた冷酒だ。」
ルマリアはそれを受け取る。
「ありがとう。その、すまない。」
「いや、自分もすまん。加減はしたつもりだったんだが。」
「それはよいのだ、ミカゲ殿。それよりもここまでして頂いたことを、とてもうれしくもあり、またすまないとしか言えないのだ。」
どうやらミカゲが思っていた、俯いていた理由とは違っていたようだ。
「ティタ、ちょっとおれらは『カレー』食いに行こうぜ。」
「まだ食うのか、どこにそんなに入るんだ・・・・」
「まぁまぁ、主たるもの、他の
そう言って軽く肩を叩く。
「そうだな、そういうことなら。」
ヴィートの提案に渋々ティタも着いて行った。
「ルマリア、必然という言葉は知っているか?」
ルマリアの開けた御猪口に酒を注ぐ。
「うむ。知っている。それがどうかしたのか?」
「君が自分の店に着た時に、こうなることはほぼ、決まっていたんだ。」
ミカゲはもう一つ御猪口を取り出すと酒を注ごうとする。
ルマリアが手を出してきたので渡して注いでもらう。
「美人に次いでもらうと又旨いものだな。」
「茶化すんじゃない・・・認識阻害の術をかけて男装までしていたのに、はじめから、確かにミカゲ殿は私が女性と言う事にも気づいていたのだな…。」
ミカゲが自分に言っていた「綺麗な顔が」という言葉に、優男して見えていたのでは無く、女性としての誉め言葉の「キレイ」と感じていた事を思い出していた。
「
ミカゲはお道化てみせる。ルマリアも口元に笑みを見せる。
「それに、隠しても隠せない『色気』は、術を施しても隠せるものじゃない。」
ルマリアの顔が真っ赤になり、又俯いてしまった。
「あまり面と言われてそんな事を言わないでくれ・・・どうすればいいのかわからなくなる。」
俯いたままルマリアは、ミカゲに呟くように言う。銀髪の髪から覗く少し長い耳が自肌の赤黒さと重なって更に真っ赤になっている。
「そ、その、なんだ、出来ることなら皆仲良くしていきたいからな。デューハンも帝国で、ルマリア達が上手くやるならそれで、そうならなければおのずと俺達が動けるように仕組んだのかもな。」
「そうだったんだな・・・。」
ルマリアとミカゲは御猪口の酒を一気に飲み干した。
度数も高く、飲んだ後に果実の風味とこの酒独特の喉に熱さが巡ってくる。
それでいて果実の甘みもある為ついつい飲んでしまう。
「その、色々と、これからも世話になるとはおもうのだが、よろしく頼む。」
ルマリアはそう言ってミカゲに頭を下げようとしたが、ミカゲの手の平が傾いたおでこを軽く抑える。
「髪が焼けるから気をつけろ。」
ミカゲの少しごついマメの出来た手の平。様々な武具や、鍛冶で使う道具などで使い込まれた手の平だ。
「いいな、こういうのも。」
ルマリアは顔を上げてほほ笑む。
そこには女性らしく、心の底から笑えた瞬間であった。
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