15.焼肉
ジュウウウウウウウウウッ。
細い鉄の格子で出来た網の上で、焼かれた肉が肉汁を垂らし、
火元である赤味を帯びた黒い木たちがその脂で火力を上げる。
そこから立ち上る香りのよい煙。
こうやって命は還っていくのかと現実逃避に近い想いを抱きながら、数日前、天幕を張ったその場所で、ティタは肉を焼いていた。
湖の村の石壁の、補修用に使う長方形の
更に、木製の椅子やら丸太でそこに座ると、肉を焼いて食べる為の
それらのブロックの壁と網の屋根は、至る処で設置され、その
他の門の辺りでも煙が上がっているのが見える。
同じような状況なのであろう。
その間に黒い木を置き、それらを燃やして網を熱し、上の肉を焼く。
勇者たちの中に知識の勇者が居り、その勇者のひろげた、『バーベキュー』、『ヤキニク』と言う物らしい。
木の炭に魔法の加工を組み込み、使用回数を上げ安定した火力を生み出し、このような粗目の
決して、その、良い感じに焼けた肉が・・・今まで焼いて食べた肉の中でも、
そして、果実や調味料という物で作られた焼き肉の『たれ』という少し赤黒い液体。
さっき少し舐めてみたが、それだけでも複雑な味で旨味があり、部下の数人は飲み干していた。
焼いた肉をつけて食べるらしい。
そして自警団の一人から渡されたこの、白い粒の塊。
ほくほくと湯気を上げ、炊いたものらしく、白い虫の集まりのようだが、「エプロン」という、料理専用の装備をした一人、
木匙で食べてみる。
甘みがあり、噛めば噛むほど溶けてなくなっていく。
これが肉とタレで絡まった瞬間、止められない連鎖が。。。
ひやりと冷えた薄い鉄のコップや、木製のジョッキに
『トング』という、握り易く、また肉も掴みやすいスプーンをお互い向き合わせて重ねたような挟む物で、ティタは、ヴィート達に言われるがまま肉を焼いていた。
『親睦』もかねての
完膚なきまで叩きのめされたといっても過言ではない。
通常であれば捕虜または即刻首を刎ねられ、晒されてもおかしくはない。
だが、こうしてお互い膝を突き合わせての『ヤキニク』・・・
心中複雑な思いの兵士達だが、食べる手は止まっていない。
ティタは真意が読めずただただ
「ティタ、その
「ヴィート。置いても良いが、ホルモンは脂身も多くて焼けているかどうかの判断も難しい、その上、炙られて落ちる脂で火も上がりやすい。少しづつひろげて焼いたほうが早いぞ。」
屈託なく話してくるヴィートに、ティタはタメ口で話す。
ティタのいる混成組は、ティタ焼肉奉行隊長、ヴィート飲食専門隊長。
ルマリア担がれて俯き隊副隊長、ミカゲお客の毒味をして焼き肉提案団長の四人だ。
他はエプロンを着て塊肉を焼くスチュアートと、その軸に投げ槍の一本を使われたパーチェと
一番網が長く連なっているのは、ビアンが
他は、イートの左右を譲らない、ステイシアとフィート。イートを補佐する腰エプロンをしたケット達だ。
ステイシアはどこから出してくるのか次々と冷えた酒瓶を出してくる。
イートもその酒に合うツマミも手早く作りながら、ケットの焼いた肉に生野菜の葉物をまいたりタレをつけて創作料理を左右の席を譲らない
ビアンは網の上の一部を薄い鉄板にして、少し厚めの大きい肉を焼いている。
香辛料やワインで炙り、香りを付けてそれをサイコロ状や、縦長に切り、皿に盛っていく。
ルワースとその護衛達は上品にナイフとフォークで淡々と。
ルワースも話しかけたりして、一部談笑しているところまである。
スチュアートは炙った塊肉を、細長い小刀で薄く削いで、パンや皿の上に。
もう一つは、でかい寸胴に肉と野菜と香辛料を入れて煮込み、香ばしい、ドロッとしたゴハンにかけるととにかく匙が止まらない『カレー』というものを作っていた。
子供たちがティタの武器持ちの二人に遠慮することなく、座る場を圧迫しつつ、スチュアートの作るカレーの前に行列を作る。
大量に手に入った良質の肉。
ミカゲの見立て通り、筋肉質で焼きにも適した肉だ。
内臓もしっかり良い脂分を蓄えていた。
「しかし、本当に良いのか?」
肉を焼きながら、焼けた肉をそれぞれ皆の取り皿に入れていきながら、ティタはヴィートに話を続ける。
ミカゲはホルモンをメインに何やら小さいコップに水のような無色透明の酒をいれて飲んでいる。
お米で作った『冷酒(れいしゅ)』とかいうものらしい。
ヴィートはタレではなく、黒い粉末を肉に掛けて、細い棒を二本、指に絡ませ、器用に動かして肉を挟みお米を掻き込んでいる。
ミカゲもその『ハシ』というものをうまく使っている。
姉上も一応ハシは持っているものの、ミカゲに
少しづつは食べているが、供給に消費が追い付かず、姉上の取り皿には大盛のお米の器のように重なった肉が積み重なっている。
「ん?ああ、ティタ達の身柄だろ?あの貴族も魔獣に食われたし、お前らも死んだ事に記録官が報告するから、問題ないと思うぞ。」
食べるハシを停めることなく、ヴィートは言葉を返す。
ミカゲの提案。
それは
ヴィートが、ミカゲがイートやビアン、スチュアートとお客さんを捌いている間に、ティタの率いる半妖魔戦団を集めて言った事。
「帝国では戻ってもおそらく奴隷、場合によっては貴族殺しの汚名をかぶせられ、処刑。
ここで死んだことに記録官に手を回すので、この村の自警団に成れ。」というものだった。
確かに大型魔獣の騒動でカラーデルは邪獣に食われ、こっちに向かってきたとの事だ。
あとで檻のあった所に行ったのだが、何人かカラーデルの部下が魔獣に襲われたような跡があった。
例え、帝国に戻ったとしても
それならば、だ。
ヴィートは敵ながら、裏表のない、信頼するに足る器量があると思う。
そして、部下達も路頭に迷うことはない。
「しかし、記録官に手を回すなど・・「できるぞ」」
ヴィートがハシでティタを差しながら、言葉にかぶせてくる。
なぜかすごく行儀の悪い感じがするのだが、この気持ちは何だ?うむ、不快だ。
「あのルワースがここの領主の息子の一人だ。」
「?!」
「ついでに近隣の領主の息子もスチュアートと言って居るぞ。
あの寸胴の鍋で子供にカレーや炙った薄きり肉作ってるヤツがそうだ。
大概の事も良い様に言えるぞ。」
手を休めず、ミカゲの
ホルモンをタレにつけて、お米にワンパウンドさせて頬張り、お米を掻き込んでいく。
「単なる自警団にしては装備も力も有るとは思っていたが・・・」
ティタは思ったことを口にした。
「ああ、それは、以前に俺たちは「銀狼騎士団」メンツが自警団の主力メンバーだからな。
先の大戦で「剣の勇者」「槍の勇者」「槌の勇者」の武術教育担当したり、「智の勇者」と親友だぞ、あの
ヴィートはそう言ってヒョイと首を下げる。
その瞬間、ヴィートの頭のあった処に、とんでもない方向から飲み干した酒瓶が数本飛んでくる。
ハシで一本受け止め、あとは器用に躱していく。
いい感じに酔っぱらって、酒気と色気を放つステイシアが、ヴィートの悪口が聞こえたのか、投擲してきたようだ。
そこそこ距離は離れているのだが、じごくみ・・・
ステイシアがティタも睨む。心も読めるのだろうか・・・。
しかしさらっと凄いこと言っていなかったか??
先の戦いで、終止符を打った勇者達の殆どを教育したとか・・・・。
「最初から無理だったんだな。」
改めて、ティタは敗北感を感じ、ヴィートに負けを認める言葉をぼかしながら吐いた。
彼らは自分たちの立場を知ったうえで、戦いに応じ、このシナリオを遂行したのだ。
そういう複雑なことはヴィートは疎く、
「そうでもないぞ、ティタと俺だと膂力くらいだと、そう変わりないぞ。」
ヴィートはハシを置き、ティタの使っていた
「持つのは持てるが、振り回すのには少し修練がいりそうだな。
そう言って、ブレることなく上下に振りまわしている。
ティタの部下達もそれに気づき、え?と固まっている。
「いや・・・そう言う事ではないのだが・・・
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