14.趣味没頭。

 湖の村に研ぎ終えた包丁やら調理器具を持っていく。

 

 何度か打ちなおしたところなどはミカゲも覚えており、直接持って行ったりと中々忙しい。


 主婦の一人が伝導率のいい胴の鍋を作ってほしいと頼んできたが、表面の層に鉄などの別のコーティングをしないと内臓がやられるからとミカゲもマニアックな回答を主婦にかえす。


 できなくはないし、智の勇者のいう『ワガシ』を作る時などは確かそういう容器で『アン』とかいうのを混ぜたりするとは言っていたのだが。


 確かに熱伝導率が高く、温泉の湯沸かしなどに一部使っているところもあるが、

それを鍋にしてみたいという主婦もさすがである。


 一通り渡し終えると、村人が大きな俵を持ってやってくる。


「ミカゲ、待たせた、やっとできたぜ」


「おぉ、酒米か?!」


「おぅ、つい先日収穫できたぜ。脱穀はそっちで任せるぞ、磨くんだろ?」


「ああ、ありがたい、さっそく持って返って仕込もうと思う。」


 ミカゲは俵を担ぎ、シデレラを呼ぶ。


 街の一角から物凄い勢いで走ってくる走竜。


「何とも短い滞在じゃなw」


 ステイシアはティタの肩に座ったままその様を見ながら言う。


「まぁわし等はゆっくり帰るかの。どうせ酒作りで周りも見えておらんじゃろうしなw」

 

「大変じゃの、趣味に傾倒する旦那を持ってw」


 あっという間にいなくなったミカゲを呆然と見るルマリアにステイシアは言う。


「え?!いえ、私はミカゲ殿の嫁ではないですよ!」


「照れんで良かろうに、のぉ、ティタ」


「ステ殿、あまり姉上をいじめないでください。」


「そうか、じゃあ代わりにティタをいじめるとしよう」


 そういって胸を顔に押し付けてくる。


 いつもの光景に周りが和んでいる。


◇◇◇


 次の日、ティタ、ルマリアとステイシアがミカゲの工房に戻ってくると、薄い板の上に布を敷き、そこに湯気を立てている米が広げられていた。

 

 何でも今広げた蒸した米と、他に瓶の中に入れて『発酵』させたものと何とかいうものとを最終的に合わせるというのだが専門の呪文の様であまりよくわからなかった。

 ただ作業自体は面白そうなので、遠巻きにルマリアはミカゲを目で追っていた。


「ふぅ。やっとおちつきそうだ」


 コメを広げ、大きな瓶の中を棒で攪拌しながら一息つくミカゲ。


 水差しを持ってきてミカゲに溝の入ったコップを渡すルマリア。


「あぁ、ありがとう」


「これでお酒が出来るんですか?」


「うむ、コメからは冷酒とかで飲んでいる酒ができる。前回よりも米自体を脱穀して更に研いでいるから、雑味が少なくなるはずだ」


「いつものもミカゲ殿が?」


「うむ、たまに出している甘いのがそうかな。なかなかうまくできなくて人には出せないが、今回はいい感じだ。」


 ミカゲは嬉しそうに瓶の中を攪拌していた。


 熱の収まった米と瓶の液体などを大きな瓶の中に入れていく。


 それらをゆっくりと攪拌し、木の蓋をすると、瓶の横に書かれた文様に魔力を注ぐ。

 

 魔道具というもので、瓶の中の発酵の促進や雑菌の増殖を抑える特殊な魔法が発動するのだそうだ。


 実際はミカゲ程仕込みをしなくても、この瓶の魔導具であればそこそこの酒ができるらしいのだが、ある程度酔い仕込みをすればするほどうまくもなるので、しない手はないというのがミカゲである。


「また楽しみが出来た。」


 満面の笑みのミカゲをみるルマリアだった。

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スミス・ロード ~辺境の鍛冶屋~ しんごぱぱ @shingopapa

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