12.環境整備。

 乗馬した3人が並走できるくらい。


 広いところではそのくらいの道幅だ。


 街道ではないが、そこそこに広い道幅で、視野も確保しやすい。


 何か所かある離合もできる場所になる拠点跡にミカゲとティタは活動基準のベースを置き、森の捜索をすることにした。


 ミカゲは自警団装備の革鎧を中心に、捕縛用の縄や背負い袋。


 ティタもサイズを合わせてもらった革鎧の胸当てを付けている。


 得物はこの前借りた二対のフレイル。


「小物は向かってくるようなら仕留めよう。今回の目的は馬と、魔牛だ。


 雌がいいがな。」


 地図を広げながらミカゲはビアンやルードが調査した場所を示す。


「この辺りで小さい群れを見つけたそうだ、魔牛のほうのな。

 基本警戒して周りを見ている魔牛がリーダー格だ。今回はそれより一回り小さい同じく警戒しているサブリーダーのどちらかを捕獲、または狩る。

 動きの遅い雌の魔牛がいればそれも捕獲だ。」


 小袋から小さいケースを出す。


「捕獲前にこれを使うと、少しはおとなしくなる。雄は少し弱らせないと効かないがな。」


 ティタはその丸いケースを持ってみると、魔力に反応してぼんやりと光る。


「興奮状態をおさえて、獣などの戦闘意欲をそぐ。道のわきに上ってっている魔物除けの木から作った魔導具だ。」


 今回はミカゲとティタ二人で向かうことにして、獲物が獲れればベースで待機するティタの部下達が回収に来るという形だ。


 ルマリアは村でイートから家事全般のレクチャーを。

 ステイシアも村で作業があるために今回はいなかった。


 拠点に近い、ルードたちのチェックの入った場所から探索を開始する。


 森の中にまた開けた所があり、そこに幾つかの気配が。


 ミカゲとティタは風向きにも注意し、その方向に進む。


 ひざ下程度の草地の空間。そこに魔牛が数頭いる。


 一頭はやけにでかく、周りを警戒し、その対面にその魔牛よりも小さい魔牛が警戒しているようだ。


 その間に何頭かの魔牛が居り、草を食んでいる。


 ミカゲはティタの合図を送り、一番大きいリーダー格の魔牛の方へとゆっくりと移動する。


 両手の砂入りの籠手を握りなおし、やる気満々である。


「対面の魔牛が来たら任せる。」


 木々の陰に隠れながら迂回するように魔牛に近づくミカゲ。


 頷くティタ。


 ひとしきり近づいたところでミカゲが気迫をみなぎらせて林から魔牛の前に姿を現す。


 途端に敵意のオーラを察した魔牛。


 警戒し、頭を低くし角をミカゲに振り回せるよう角度を合わせながら鳴く。


 草を食んでいた魔牛の群れがすぐに動き出す。


 対面の魔牛がが殿で群れを見守る。


『早くいかぬか、儂はこの者を足止めする!』


『しかし、父上、私は父上を置いていくことなど!!』


 ん・・・?


 ティタの頭に会話が飛び込んでくる。


 ミカゲもティタを見る。


「ミカゲ殿、この声は?」


「うむ、こいつらのようだ。魔牛と思ったが、違う種か?」


 魔牛と思われる二頭はまだ話している。


「おい、父上と言う事はお前たちは親子か?」


 ミカゲの言葉に二頭の魔牛はミカゲをみて目を見開いた。


『我らの言葉を理解できるのか?』


 ミカゲは後ろから出てきたティタも指さす。


「自分もきこえます・・・。」



 ***



 息子魔牛が逃げた群れを呼んでいる間、父親魔牛はミカゲと対峙していた。


 大きく息を吸い込むとメキメキと音を立て、頭が牛の姿に。


 手は人と同じ五本指、足はつま先に向けて蹄な形だ。


「ミノタウロスだな、まるで」


「そう、呼ばれることもあるが私達は牛魔族という魔人族の一種だ。」


 全身を黒い剛毛におおわれ、まるで獣の様な鎧を着た牛首の巨漢は胡坐をかいて座る。


 礼に倣い、ミカゲやティタも座る。


「先の戦いで私はこの地に残り、流れ流されこの森で生活していたのだが、あの群れの雌は魔牛種で間違いない。息子はその間に出来た私のたねの方が強い子だ。」


「南の湖の村の者だ。北の集落と交易するために道を作り、魔牛や魔素を取り込んだ馬を追っていた。」


「なるほど、そして私たちを見つけたのだな。」


「申し遅れた、拙者はオーギュという。オーでも何でも好きに呼ぶがよい。」


「ミカゲだ。」


「ティタといいます。」


「生粋の魔牛は北の方に群れを作っているはずだ、私がこの辺りで群れを作る時に大群れの頭は打ち負かしたのでな、わしの群れにちょっかい出すやつもいてちょっと教育したら逃げてしまった」


 笑うオーギュ。


「そうか、じゃあ交易と合わせて狩りに行くか」


「ある程度なら呼べなくも無いぞ、魔界で魔牛を飼っていたこともあるからな。

 我らは魔牛にも似た種だが、それらを飼い、子を成し、また生きる糧にもする。

 魔界の性質上理解はしにくいだろうがそうゆう種族だ」


「珍しい気を感じたから来てみれば牛魔族かえ」


 ティタの背中から声がして、豊満な胸をティタの背中に押し付けたままステイシアが顔を出す。


「ほぉ、魔女か。」


「お主らはそう呼ぶのぉ。珍しい魔界の種がまぎれこんだか」


 ステイシアとオーは目を合わせ、会話を続ける。


 ステイシアからの刺激を受け続けるティタ。


「こ奴らに似た牧羊をする羊頭種はしっておる。魔牛を従える種もいてもおかしくは無かろう。質もよさそうじゃしな」


 ステイシアはオーギュの放つオーラでも見ているのか、何かを値踏みしている。


 執拗に胸をティタに押し付けたままオーギュと会話を続ける。


「ワシの雌をヤルわけにはいかんが、乳や生え変わりの角などなら分けてもよいが。」


「お主らもここの魔素がひつようじゃろうて、そのへんはまた人をよこそう。

 わしらもこの森を抜ける道を使うにあたって、余計な気を使わなくてすみそうじゃ」


 後日ビアンを交渉に向かわせる話を付け、会話できる魔法石を渡し、彼らと別れた。


 ***


「これで森の行き返りも心配事は少なくなりそうじゃな。奴らはかなり強いぞ。」


「手合わせしてみたかったがな、成り行き上しかたない。」


「奴らの美的感覚上、人族には発情せぬしな、良い守人ができたわい」


 ティタの肩に乗って話すステイシア。


 ミカゲとティタは横並びに重機が入る前の道を歩く。


「しかし・・・ヤキニクはくいたかったのぉ」


 一人愚痴り、ティタの頭に抱き着くステイシアだった。



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