2.蠢(うごめ)き
「私の負けだ、ミカゲ殿。動けぬ上に、打ち込みようがない」
私は肩をすくめておどけて見せた。
本意ではない、悔しそうな笑みを含ませ構えを解く。
それこそ剣一つで今まで生きていた自分である。
この森に来る時でさえ、鍛えた兵士何人かでやっと倒せる大型の魔物を、軽くいなしてきて、この場所迄きたのだ。
己の腕には自信があった。
今までは。
しかしどうだ、辺境の鍛冶屋の、このミカゲという男と対峙して、改めて
「上には上がいる」
ということを痛感していた。
デューハンという男もかなりの使い手ではあったが・・・。
「積極的回復って言うんですが・・・」
ミカゲは話し始めた
「キツイ稽古の後など使った部分、腕や足が数日痺れたり痛かったりするじゃないですか。それを『キンニクツウ』というそうで・・・それが何日か休むことで体の力が更に増すんですが、そのキツイ鍛錬ほどでなく、
少し軽めの鍛錬をすることで、その回復が早くなる『セッキョクテキカイフク』という効果が出るそうです。
おきゃくさ「ルマリアだ、ルマリアと呼んでくれ。」
私は自分の名前を言った。ミカゲは続ける。
「ルマリア殿も怪我を負って何日か静養していた筈。その後、少し、負荷を下げ鍛錬されてたと思います。
鍛錬をすることも大事ですが、その鍛錬の中身を変えると、その「ブレ」を通常よりも早く治し、練度、精度を上げることも可能ですよ。」
ミカゲはそういって「タイカン」という基礎訓練のような物の仕方や、剣の素振りのコツ等を要点だけ搔い摘んで教えてくれた。
そこそこの基礎は習ったものの、ほぼほぼ我流なのも彼には分っていたのだろう。
「色々と為になった。ミカゲ殿また、出来れば近いうちに来たいと思う。」
ミカゲから余りそうだということで手土産に、ここらで捕らえた獣の肉や先ほど飲んだ爽やかな水の元の柑橘等入った袋を片手で触りながら。
好感的な笑みをミカゲにみせる。
「ええ、いつでもお越しくださいw」
先ほどの打ち合い【さえならなかったのだが】の時の雰囲気を全く感じさせない、朗らかな表情でルマリアに返す。
「その時は私も何か持ってこよう、そしてまた、・・・わたしの剣の相手をしてくれ」
次こそは、という決意を瞳に感じ、ミカゲは、
「わかりました、お相手しましょうw」
と銀髪の剣士にそういった。
********************
おっさ・・・ミカゲの店のある灰の山の麓から、森の中を抜けると、平原に出る。
無論辺境地、通行する道は一応草も生えておらず、だが、馬車や馬などの通行も然程無く、森の中や草の中を歩くよりかは幾分マシな程度。
それでもそこを王都に続く街道、道と言った。
その道を東は帝国、西に進路をとると、少しして分かれ道が見える。左は魔の森のすぐ横を通る道、もう一つは南の辺境区に向かう道が2本ある。
ちょうどその分かれ道のところに、割としっかりした木の杭と、柵がかなりの距離で植え込まれていた。大の大人なら要領よく飛び越えれるか飛び越え
れないか、子供なら少しよじ登る感じの柵だ。
放牧している家畜が道に出ないようにする感じと取ればよいか。
間違いではないのだが。
その道の分岐、柵から少し目をやると、大きな湖があり、晴れ間の太陽の光をキラキラと反射させていた。
その湖の、分かれ道を挟んで、少し離れた所に大きな石壁の外壁がある。外壁も、たかいところでは2m以上あり、大きな門の上に
湖の村といわれるそこは、今となっては帝国領に行く王国領最西端の村、となる。
湖の水は灰の山からろ過された地下水が湧き出ているようで、水質は飲み水や生活用水として問題なく使用できる。
そこに村があるのも当たり前のことなのだが、石の外壁と言い、その上の櫓にいる見張りといい、村というにも、村人というにもかなり、想像として『異質』と捉えてしまうかもしれない。
だが、治安の保証されない、力のない村など、魔物や盗賊など本能に任せた暴力にとっては、良い『餌場』としかならないのだ。そして、万が一の事態としても、最低限の防衛力は今更言うまでも無く、有るべきものなのだ。
村の大きさとしても、なかなかの広さ、宿屋や酒場、食堂とにぎやかな露店も幾つか見て取れる。
昼間から酒を飲んでいる少しガラの悪そうなメンツも何人かでテーブルを占拠して、店の子にちょっかいを出している。
そこそこ使い込まれた剣、木の皮と毛皮の様な材質で作っている盾などが、無造作にでかいリュックの横に置かれている。
傭兵か冒険者の
喧騒をはなれ、何か所かある、村の大きな門の直ぐ横に、櫓と連結した建物があり、酔いちくれた冒険者たちよりも、遥かに身だしなみもしっかりした装備をした若者達が何人か出入りしていた。二人は、机の上に置かれた皮の地図の様な物を見ながら話をし、一人は建物を出てすぐ横で素振りをする子供たちの指導、一人は、大きな黒い板に白い石の様な物で、文字や数字を書き、興味のある子供達は地べたに座って食い入る様にその話を聴いていた。
『湖の村自警団』
と書かれた木の札が建物の入り口横に掛けられていた。
「ヴィート隊長。」
先程櫓の上で、長い筒を持っていた男が、櫓から建物のほうに向かって言った。
「おう。」
先程、建物の下で子供達の素振りを指導していた一人が、木剣で子供達数人と木剣で稽古しながら返事をした。
茶髪の短髪。
両肩と胸を守る皮の鎧を装備し、腰には細身の両刃の
よく手入れされているのか、表面にしっかりと油が塗り込まれていて、日光に鈍く光りを反射していた。
自警団はほぼほぼこの革の装備で統一しているようだ。使い込まれ感も半端なく
よく手入れしているのも伺える。中には
ヴィートと呼ばれたその男は相手をしていた子供達の木剣を、手に持つ木剣で素早く絡め落とすと「また後でなw」と手を振ってあっという間に建物の壁を利用して櫓に駆け上がった。
子供たちの何人かは「すげぇ!」と言って真似しようとする。
櫓の上からその様子を見て手を振り、長い筒を持った男のそばにヴィートは歩いていく
「
長い筒の端を目に当て、遠くを見る様に、村の外を見るようにしたまま筒を持った男はヴィートに言った。
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