7.動向
ミカゲの住む場所から、帝国と湖の村に向かう道が何本かある。
道自体は山の傾斜に合わせて、馬車などの大型貨物も登ってこれるよう、道幅も大きく緩やかな道と、徒歩や登山道として湖の村にほぼ直通している道とあり、その中間地点の魔の森の中に、街道や湖の村周辺を一望出来る大きな櫓が建てられている。
そこに自警団の何人かが
ミカゲは食事を終えると、台所から横の店の方に入り、無造作に置かれている直刀の片刃の剣、『カタナ』を、腰帯を付け、金具で鞘ごと取り付ける。
やや短い印象のこの『カタナ』。
ミカゲは刀の鞘についた飾りを無造作に外す。
耳かきも出来る飾りで、カタナの装飾や作りにはこういった機能が付いている物もある。
この『カタナ』という刀種はミカゲが『智の勇者』や『剣の勇者』達から得た知識をもとに再現した一つで、ミカゲの耳の穴と手元で舞っているそれは、
鞘に組付けた
「
ミカゲが馬小屋に向かって声をかける。
馬小屋から先ほど水瓶を運んだ走竜が顔をひょっこりと出す。
さっきの肉を食べていた様だ。
野太い一鳴きをするとミカゲの方に来る。
ミカゲは笄を鞘に組付け、店の看板を中に入れると同時に、鞍の様な物をシデレラに取り付ける。
ひょいと無造作に乗ると同時にシデレラは魔の森の大櫓に向かって駆け出した。
貨物も通れるような大きな道から分岐があり、獣道よりもやや幅の広い山道を、シデレラに乗ったミカゲは下っていく。
数分もすると大きな櫓の屋根がはっきりと見えるようになる。
櫓の下には細い金属の棘の様な物と、網目状の格子が、櫓の大きな足場を守る様に囲い、その囲いは間隔を置いて三重に囲まれていた。
この網には仕掛けがあり、魔獣などが突進など仕掛けると、棘の様な物-有刺鉄線-が『熱』を発動。網には微弱な『電流』が流れる仕組みだ。
まぁこの辺りの害獣は、定期的にミカゲ達の食糧になり、スチュアートの言葉を借りるなら、お片付けもしているので害獣は来ることはない。
来るとするなら、それ以上に厄介な者の方が多いが…。
櫓の下に到着し、鉄線の扉を開けて中に入ると、櫓の下に馬などを
そこにシデレラを停めてミカゲは、櫓に登る階段を上っていく。
シデレラは横にごろんと寝ころび始めた。
「何か有ったか?下る途中『森の門』側の森に少し煙が上がっていた。」
ミカゲは下って降りる際、湖の村の横にある、『名も無き森』から、煙がうっすらと上がっているのを確認していた。
大櫓の真ん中には大きな丸テーブルがあり、食べかけの食事やこのあたり一帯の地図などが広げられていた。
顔の右目上の額から左頬の辺りまでえぐられたような傷を持つ長髪の男が、長い筒を手にミカゲに近づき、
「『草の門』の方にゴブリンが出たんですが、巡回中の『耳や盾組』が、
『森の門』側から攻めて来ようとした『別部隊』と接触したようです。」
ミカゲの質問に答え、長い筒を渡してくる。
数人大櫓には駐屯しており、湖の村の周辺を観察している者もいた。
ミカゲは一度村の方を見る。
「『草の門』に囮を立てて、『森の門』からか・・・。
ゴブリンの知恵じゃないな。」
ミカゲは長い筒を見ながらそう言った。
確かに、ゴブリンには指揮系統に優れた変異種のゴブリンロードや戦闘力も高く
かなりの脅威となるゴブリンチャンピオンやキング等が居り、人並みの知識で、軍略や指揮をとるものがいる。
だが、ミカゲの、これまでのそういった者達と何度も戦った経験則から、そうではない事を感じていたのだ。
顔に傷のある男も頷く。
そして湖側の方に少し移動して長い筒を見る。
「かなり手の込んだ計画だな。」
ミカゲの視線は、湖のはるか先、帝国側からの土埃を捉えていた。
********************
ヴィートは馬を駆る。
ヴィートの身長の倍近くある長い槍-馬上槍-を、馬上で器用に右手と右の太腿で固定して、先端はかなり鋭く、速度に乗った馬から突き出されるその槍は、固い鉄の盾さえも容易に貫き、強固な金属の全身鎧さえをも貫通する事が出来る。
草の門から少し迂回するように、ゴブリン達に出来るだけ気づかれないように馬を走らせ、速度を乗せ突っ込もうとヴィートは馬を駆る。
かなりの時間突っ立っていて、何もなく時間を過ごしていたゴブリン3匹は、よもや突然横合いから馬上槍を持った騎馬が来るとは思わなかったのだろう。
背の低い端のゴブリンはそのままに、背の高いゴブリンの頭は、馬上槍の先端に串刺され疑問に思うまでも無く、槍によって自らの頭を軸に回転しながら突き飛ばされていった。
馬上からヴィートは飛び降りる。
残りのゴブリン達は武器を構えてヴィートに向かって構える、が、馬から飛び降りたヴィートを確かに目で捕捉したものの、構えた瞬間その視界から消えてしまっていた。
気つけば傾く視界。
草原の、足元に生えてる草が横を向く。
あれ?と疑問に思いつつも意識が落ちる。
馬から降りたヴィートは素早く間合いを詰めて彼らの後ろに回り、その胴に、持っていたロングソードで横薙いでいたのだ。
剣を振り、鞘に納める。
かっこよく決まったヴィートと、とりあえず役目は終わったかなと草を食む馬が
それ以上に決まって見えたw
「ヴィート」
南の方角から、フィートが現れる。
その後から間を置かずイート、数分して長槍、それからさらに数分してスチュアートが息を切らせて走ってきた。
「『大櫓』から、はぁ連絡があって、ハァハァ、森の門側のゴブリンの殲滅をしながら「森の門」から戻れとのことです。」
息を整えながらスチュアートはヴィートにそう言って、一度呼吸を整えて、
「あと、湖側から追加で『お客さんだ』と。」
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