17.賭け
宴もたけなわ。
智の勇者がそういえばそういう締めの言葉を言っていたなと頭の隅で思いながら、ミカゲは自分の周りに広げた装備を確認しながら絞め直していた。
布と金属の部品で出来ている腕回りの服は、よく見ると細かい鎖の様な物を繋ぎ合わせていたもので、シデレラの鱗と金属で組み、音もたたず通気性もよいものだ。
細かい鎖帷子の様なものと言えばわかりやすいだろうか?
それを手袋をつけるかのように指の先から肩口迄覆い、その籠手の肩口から縫い付けてある紐を肩周りに組付け、結ぶ。
手を握ると少しギュッと音がする。
手袋の様に指を包んでいる五指の布の中には細かい砂の様な物があり、それは拳を握るとその形で硬くなる。
殴るにしてもその砂が固まり手に来るダメージは少なくなり、その分、力の乗った拳は鎧を着ている
胴回りは自警団の通常時使用している革鎧の、強度を上げたギル・ボアール。
胴から腰は籠手と同様の素材で出来ている布製品に縮緬鎖を網付けた様な物を履いている。
少し余裕のある動き易い感じで肌ざわりもよさげである。
脛当ては金属製で、足は足懸。
異界にある装備の『具足(ぐそく)』という鎧の一種を織り交ぜた独特な装備だ。
腰には細工の施された、頑丈な鍔のついた小太刀。
先ほどまで被っていた狼の兜を被り、下あごを下げて顔を出す。
「いつでもいいぞー」
籠手の上腕部に組付けた金属の小手に挿した角の部分の鎧抜きの先端を確認し、差し直す。
腰の鎖の巻き付けも直し、稼働できる範囲でストレッチを始める。
声を掛けた方向には、円陣を組み、ヴィート、ルワース、アルテ、スチュアート、パーチ、ケット、ティタ、そしてティタの同僚や部下の、騎馬に乗っていた者数名だ。
村の者達がでかい黒板の様な物を持ってきて何やら書き込んでいる。
最後まで立っている自警団のメンツは誰かというものと、ミカゲに対して誰が最後まで喰らい付いているかというものだ。
ティタ達の名前も別枠で書かれ、これはこれで別の賭けが始まっている。
ミカゲが負ければ大損になるのだが、主催も村人一同、そうは全く思っていない。
「ちょっと待ってくれ
ヴィートがまじめに返答する。
いつものふざけた雰囲気ではない。目つきも鋭く他の自警団員も真剣な表情で打合せをしている。
「ティタ、俺達とはまだ連携は無理だろうから、お前たちはお前達で作戦を立ててくれ、そしてプランが決まったら教えてくれ。その辺りで調整しよう。
「お、おぉわかった・・・気合が凄いな。」
確かに、ミカゲには底知れぬ何かがある。
だが、ヴィートの気合の入れ方には、自分達と戦った以上に、それとは違う気迫を感じた。
ヴィートはその気合の入った目で更にティタに言った。
「ティタ、わかりやすく言うが、お前を「1」で例えるなら、本気を出していない
「「ルード、お前は入らんのか?」」
ミカゲが遠くからも聞こえる声で声を掛ける。
「「お酒も入りましたからね。見ているほうがたのしめますよww」」
酒の入ったグラスと、先ほど蒸し焼けた固まった塩の中から出てきた野兎の肉を両手に挙げて見せ、会釈をする。
「「その肉少し残しといてくれ。」」
ミカゲは終わってからの酒のアテを確保した。
ルードは軽く手を挙げてこたえる。
会話を聞いていたイートが皿代わりの広い葉っぱにその肉を切り分けて包む。
「カエデ、参加したいのかい?」
ルードがステイシアの横でモジモジする黒髪の女に声を掛ける。
カエデはこくりと頷き立ち上がる。
「なんじゃ、わしと飲むよりミカゲ《おっさん》と戯れるほうに行くのか?」
ステイシアが
「後で・・・・飲むことが出来れば又来ます。」
意を決し、戦場に向かう様な気迫のこもった声をステイシアは聴き、少し真面目に、
「善戦しただけでも、とっておきの
と見送りの言葉を掛けた。
ルマリアの横に、ミカゲが座る。
「まだかかりそうだからもう少し食っておこう」
兜を脱ぎ、ハシを器用に操り、肉を頬張る。
「大丈夫か、ミカゲ殿。かなりの面子ではないか?」
「ああ、そうだな。草と湖では主力だ。久しぶりだから楽しみだ。」
米も一緒に食べ始め、酒も飲み始めた。
腹が減ってはというが・・・さすがは『師匠』である。
「・・・そうだな、ミカゲ殿の事だ、私も腕を上げたらお願いしよう。」
にこやかにミカゲは笑みを返し、ルマリアから酒を注いでもらった。
「ウシ、決まった。おやじ待たせたな!!」
ヴィートが最終確認し、後から参加したカエデもこくりとうなずく。
ティタ達と
ミカゲの前にヴィートとティタ。
その三人を左右から囲むようにティタの騎馬隊の数人。
左に4人、右に5人。
少し距離を置いてヴィートの後ろにスチュアートを前衛にパーチ、ケット、カエデ。
その後ろにルワース、アルテだ。
アルテが歌を歌うかのように言葉を紡ぐ。
ミカゲ以外の者達の体をぼやけた光が明るくは消え明滅しはじめる。
ルワースも盾を自分の前におき、言葉を紡ぐ。
青い光と明るい光が皆を包み、消えていく。
ルワースの周りに円ができる。その円は草の様な紋様をえがき、
いにしえの言葉で出来た文様とは違う形と光を放った。
「使えるようになったんだな。」
ミカゲが呟く。
「必死にアルテと練習していたよ。喉がつぶれて、二人とも何日かはガラ声だったよ。」
ヴィートミカゲに答えながらロングソードを抜く。中段に構え、ミカゲを見る。
ティタも、ヴィートに合わせ、モルゲンステルンを構え、もう片方に持った分厚い盾越しにミカゲを見据える。
左右のティタの部下sも盾と鈍器を構え、緩やかに囲む。
「
ミカゲは無手のまま前を見据える。
大狼に戦車を引かせたステイシアがミカゲ達の近くに戦車を付ける
「開始じゃ!」
ステイシアが片手を上にあげると、白い光が空に飛んでいき、大きな光となった。
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