辿り着いた大学病院の待合室は、午後9時をまわっているというのに異常な賑わいを見せていた。同じ事故に遭った家族や知人が、受付カウンターに詰め込み名前を確認している。

 事の重大さにうろたえながら、母親もその輪に加わっていく。


 ふと辺りを見渡す夏祈の視界に、聖也の祖母の姿が入ってきた。


「あっ、せーやのおばあちゃんだ」


 その先にある救命センターの前の廊下で泣き崩れている。隣には、ただ壁を見つめ立ち尽くしている聖也の祖父の姿もある。


 背中をトントンと軽く叩いて母親に知らせると、すぐに輪を抜けて聖也の祖父母の元に走り寄っていった。

 青ざめた表情で、その経緯を知らされている。そして、母親もその場で泣き崩れた。


「ママ?」


 夏祈の声に、慌てて振り返る母親。


「夏祈……、聖也君、危ないんだって。今夜がっ」


 弱々しい声を発しながら、手のひらで涙を拭いている。


「嘘っ……」


 大阪に住む祖父母の家からの帰り道、聖也の家族・三崎一家は、暴走する大型トラックに激突されるという不運な事故に遭遇していた。

 父親が運転していた車は横転し、あとから来た車数台をも巻き込む大惨事になったという。

 聖也の両親は即死、聖也は意識不明の重体でこの病院に運ばれてきたことが告げられる。


「夏祈ちゃん……。聖也に会ってやって」


 聖也の祖父が消え入るような声をやっと出し、救命センターのドアに向かって歩いていく。夏祈も、母親と一緒にそのあとに続いた……。

 インターホンでのやり取りが終わると、固く閉ざされていた自動ドアがいきなり開かれる。


 空気は一気に変わった……。


 鼻にツンとくる消毒液の匂いが立ち込め、幾つもの不気味な電子音が響き合っている。

 慌しく動きまわる医師や看護師。

 その異様な空間に、母親と夏祈も足を踏み入れた。


(やばっ、まじでやばい! 本当にこんなふうになってるんだぁ)


 テレビドラマで見た風景が、夏祈の頭の中で重なった。けれどもすぐに、それが現実である事を思い知らされる。

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