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 ——シーン 野球チーム——


 次の映像は、軟式少年野球チーム・ビッキーズの練習風景……。

 コーチが、全員集合するよう声を掛けている。レギュラー発表の瞬間だ。


「ピッチャー、大野。キャッチャー、長谷川。ファースト、……」


 次々に、ポジションと名前が発表されている……。

 4年生は、聖也と、親友・沖田と浜中の3人。今のところ、誰も呼ばれていない。


「あとは〜、ライトに沖田。以上!」


 沖田が、ガッツポーズを決めている。

 結局、聖也と浜中は、レギュラーになれなかった。


(頑張ってたのに……)


 聖也が悔しそうに、沖田を見る……。

 浮かれていた沖田は真顔に戻り、申し訳なさそうな視線を聖也に向けた。


(へこんでたらダメだ! オキが、気にしてんじゃん。アイツが頑張ってたから、認められたんだ!)


 心を切り替えて、聖也は沖田に近付いていく。


「オキ、やったな! 次は、俺もレギュラーに入るから」


 歯を食いしばり走り続ける聖也が、キラキラと眩しく映っている。


 ——〜〜〜〜〜〜〜——


『コレは、ミラクルのゾーンかもしれないナ』


「ミラクルのゾーン?」

“何それ?”


 映像を見つめるおじさんを、2人は再びガン見する。


『分かりやすく言えば、聖也の心が試されテル時!』


「まぎらわしい……。そのまま言ってよ」

“えっ、俺、試されてたの?”


『オソラク……。セーヤ、この時、もの凄く苦しかったデショ?』


“うん! 泣きたいくらい悔しくて、野球やめようかと思った。オキより、俺の方が上手いと思ってたから”


『ソレソレ! モー、ダメだ! 逃げだしたいと思うような苦しい時は、ダイタイ、試されてる時なんダヨ! 人間のドラマには、必ず、ミラクルのゾーンが組み込まれているラシイ。ソノ部分を、どういう気持ちで乗り越えるかで、評価が大きく変わってくると聞いテルヨ』


「その、評価って、いったいなんなの?」


『見てれば、分かるヨ』


 はっきりとした答えを聞けないまま、3人は再びスクリーンに集中する。


 ——シーン 野球部——


 中学生になった聖也、つい最近の映像が流れだす。


 野球部に入部し……、

 厳しいコーチや先輩にしごかれ……、今と同じ真っ白いユニフォームを着た聖也が、スクリーンの中を忙しそうに走りまわっている。


 練習試合の風景に、切り替わった。

 1年生の中で、1番最初にレギュラーになった聖也が、バッターボックスに立っている。


 その一球に、狙いを定めてバットを強く振る。

 確実な手応え。

 同時に、カキーンッ! という音が響き、白い球が真っ青な空へと吸い込まれていった。


(やったーーっ!)


 風を切り、グランドを走る。

 1塁ベース、2塁ベース……、ホームベースに滑り込む。


 コーチや仲間にもみくちゃにされ、舞い上がる聖也。


(もっと、上手くなりたい! 強くなりたい!)


 汗だく泥んこユニフォーム姿の聖也の笑顔が、キラキラと輝いている。


 ——〜〜〜〜〜〜〜——








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