そんな至福の時間を邪魔するかのように、自宅の電話が騒々しく鳴り響いた。


「こんな時間に……、誰?」


 フォークを持ったまま立ち上がり、リビングボードの上にある電話に手を伸ばす。


「もしもし?」


「もしもし、もしもし! 夏祈? い、いい? お、落ち着いて聞いてね!」


 動揺しまくりの母親からだった。


「どうしたの?」


「あっ、あのね! 聖也君せいやくんのおうちの車が事故に巻き込まれたらしいの……。詳しい状況はまだ分からないんだけど。と、とにかくこれから病院に行くから、夏祈も支度をして待っててくれる?」


 一方的な用件を告げて、母親は電話を切った。


「今から病院って……。えーっ‼︎ 今日、見たいテレビがあるのに!」


 今日は、毎週楽しみにしているテレビ番組の放送日だ。夏祈にとって、最高の夜になるはずだったのに……。

 迷惑そうに受話器を置きながら、その横に飾られている1枚の写真に目をやった……。


 三崎みさき 聖也せいや、夏祈と同じマンションの1階に住む幼なじみだ。

 赤レンガ造りの門の前で、幼稚園の制服を着た聖也と夏祈がピースサインをして笑っている。


「せーやが事故って……、そんなことってある?」


 

 30分もしないうちに母親の車がマンション前に到着した。

 慌しく録画予約をセットして、パーカーを羽織りながら夏祈は急いで部屋を出る。


「きっと大丈夫! 大丈夫よ」


 母親は何度も同じ台詞せりふを繰り返しながら、市街地を抜け夜の高速に乗った。次から次に対向してくる車のライトが、夏祈の瞳にも眩しく映る。

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