ちっさいおじさんと過ごした夏!

華美月

第1章 灰色の空

突然の別れ

 その事故は、間もなく中学2年生になろうとしている春休みの週末に突然起きた。


「ふぅ、疲れた〜っ」


 部活を終えて家に帰ってきた夏祈なつきは、リビングに入るとすぐにテレビのスイッチを入れた。

 静まり返った広い空間に、残りわずかになった西陽が差し込んでいる。


“先ほど発生しました、東名高速上り線多重事故の映像が入ってまいりました。警視庁の発表によりますと、死者5名、負傷者も多数でている模様です。それでは、現場に……”


 夕方6時のニュースが始まっていた……。大画面には、夕焼けに染まる山々を背景にした事故現場が映っている。

 

 他人事ひとごとだと聞き流しながら、夏祈はそのままキッチンへと進んでいく。


「やった、ハンバーグだ!」


 作り置きの煮込みハンバーグをレンジに入れ、タイマーをセット。

 冷蔵庫から1人用のサラダを取り出し……、湯気が上がっている白いご飯を盛り付ける。


 チン!


「できた」


 急いでトレーに並べ、アイスクリームのCMに切り替わったテレビに近付いていく……。ガラスのテーブルに夕食一式を置いて、白い革張りの3人掛ソファにゆったりと腰を下ろした。


 大島おおしま 夏祈なつき、13歳。

 神様とかサンタクロースとか、とにかく目に見えない不確かなものは絶対に信じない、現実主義者。

 趣味は貯金、増えていく金額を見る度にテンションが上がる!

 アイドルのような可愛らしい容姿ではあるが、自分以外の人間に興味がない為、親友と呼べる友達は居ない。

 

 父親は大手銀行の支店長、母親は総合病院の看護士。共に忙しい毎日を送る夫婦の1人娘。

 当然、1人で過ごす時間が多い訳だが、今時の中学生が欲しがるものは全て持ち合わせている為、なんの不自由もなく淋しくもない。


 今夜も母親は夜勤、そんな日は決まって、複数の友達とLINEのやり取りをしながら1人の夕食を楽しむ。

 誰にも文句を言われない、自由かつ心地よい居場所がここにある。

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