17

 翌朝、携帯のアラーム音で目覚めた夏祈は、ベッドから起き上がるとすぐに部屋のカーテンを開けた。


「あ〜っ、また雨かぁ……。学校行きたくないなぁ」


 窓の向こうには、昨日と同じ、どんよりとした梅雨空が広がっている。


“これじゃあ、グランドも使えねーな”


「あっ、せーや!」


 聖也の声がする、ピンクのソファーの方を振り返った。


「昨日、ゆーやから電話があったんだよ」


“まじか……。なんか言ってた?”


「せーやが、私んとこで遊んでる夢見たんだって……。そこの広場で、誰かとキャッチボールもしてたとか言ってたけど……、ほんと?」


 窓の外に、視線を戻す夏祈。


“キャッチボール? あ〜っ、やってたやってた”


 聖也の声が、隣りに近付いてきた。


「嘘っ! 誰と?」


“俺の……、分身?”


「せーやが2人? ってこと……?」


“まぁ、そんな感じ”


「やだっ、まじで怖いから、そういうの止めてくれる!」


 雨に霞む広場を覗き込みながら、全開にしていたカーテンを勢いよく閉める。


「そんなことより、ゆーや、あっちの学校行ってないみたいよ。いじめにでも遭ったのかなぁ」


“あいつ、生意気だからなぁ”


「確かに……。でも、可哀想だよ! せーや、なんとかしてあげられないの?」


“なんとかって?”


「う〜ん、例えば……」


 その時、夏祈の背後で物音がした。

 振り返ると、夏祈を起こしにきた母親が、ドアに手を掛けたまま目をパチクリさせている。


「あっ、ママ!」


「夏祈! まだ、聖也君の声が聞こえるの?」


「えっ、あっ、まぁ、時々……」


 血相を変えた母親は、倒れそうになりながら自分の部屋へと戻っていった。

 そのままパソコンの前に座り込み、夏祈の症状について真剣に調べ始めている。


「夏祈! とりあえず病院に行ってみよう」


「えっ、嫌だよ! 大丈夫だから」


 降りしきる雨の中、母親の知り合いに紹介された心療内科に無理矢理連れて行かれ……、


統合失調症とうごうしっちょうしょうですね」


(ほんとかよっ)


 その気になってしまいそうな病名が告げられ、大量の薬を飲むはめに……。


 母親にとって、その医師の診断は絶対に正しい! ということになっていた。

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