「聖也君……、夏祈が帰ったすぐあとに息を引きとったんだって……」


「えっ、嘘でしょ!」


 翌朝、目覚めるとすぐに、聖也が還らぬ人になったことを母親から知らされた……。


 淡々と事は進められ、午後には1階の聖也の自宅にひつぎが3つ運ばれてきた……。

 解放された玄関ドアからは、何足もの靴がはみ出している。ポーチにスニーカーを脱ぎ捨てて、夏祈も中へと入っていく。


「お邪魔します……」


 気付いた母親が、奥の和室を指差した。

 葬儀について話し合う大人達を横目に、懐かしいリビングを抜けてその部屋に近付いていく。

 襖を少し開けて、顔を覗かせてみた。聖也の祖母が、背中を丸めて座っている。

 その向こうに、白木の棺が並んでいるのが見えた。


「あの、おばあちゃん。せーやの顔見てもいいですか?」


「あっ、夏祈ちゃん。いろいろとありがとね」


 ヨロヨロとよろめきながら重い腰をあげ、聖也の祖母が1番手前の棺に近付いていく。その顔を覆っている白い布を、ゆっくりと外してくれた。

 夏祈も棺の傍まで歩いていき、その姿を直視する。


(うわっ、ほんとに死んでる! せーや、まじで居なくなっちゃったんだぁ……。だけど、これって、ほんとにせーや? なんか、人形みたい……)


 整った聖也の顔には、いくつもの傷がある。ガラスの破片が刺さっていたと医者が言っていた。

 絶対に交通事故では死にたくないと思いながらその布を元に戻そうした。


 その時、


“なつき”


 聖也が、自分を呼ぶ声が聞こえたような気がした。


(んっ……?)


 もう一度、その顔をじっと見つめてみる。


(まさか……、まさかだよね〜)


 何事もなかったかのようにそのまま布を戻して、祭壇の前に移動する。

 お線香を手に取り、ろうそくの火に近付けていく。


“なつき、俺だよ! 俺、ここに居るんだけど”


「えぇーーっ!!」


 振り返って棺の上を見た。

 その周辺を確認するが、変わった様子はない。

 首を傾げている聖也の祖母と目が合う。


「あれっ? えっ? おかしいなぁ」


(何、今の? 幻聴!? 空耳!? あっ、私、寝てないから疲れてるんだ)


 愛想笑いをしながら、自分の中で無理矢理解決させて手を合わせる。


「なつき!」


 今度は確実に、背後で声がした。

 急いで振り返ると、固定された右足を松葉杖でかばいながら、聖也の3つ年下の弟・祐也ゆうやが入ってきた。

 後部座席に座っていた祐也は、奇跡的に1人だけ助かっていたのだ。


「なんだ、ゆーやだったのか……」


「えっ?」


 杖を受け取って、祐也が祖母の隣りに座るのを手伝う。


「大丈夫? 椅子持ってこよっか」


「平気だよ! はいっ、これ」


 祐也は、ポケットから小さな包み紙を取り出した。


「なーに?」


 祐也と祖母を交互に見る夏祈。


「兄ちゃんからのおみやげ」


「えっ、私に?」


 2人のやりとりを眺めながら、聖也の祖母が淋しそうに微笑んだ。

 混乱しながら受け取り、すぐに中を覗いてみる。

 クシャクシャになった包み紙の中身は、たこ焼きキューピーのストラップだった。

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