現実感がないまま、隣り駅のセレモニーホールでお通夜が始まった。

 会場から溢れ出ていた参列者が、順々にお焼香しょうこうを行う。


(凄っ……。これ、全員が終わるの待たなきゃいけないの?)


 うんざりしながら、その光景を親族席から眺める夏祈……。


 式も中盤に差し掛かったところで、見慣れた制服の集団が入ってきた。同じ中学の生徒達だ。


(うわ〜、みんなも来たんだぁ)


 聖也の友人達も、戸惑いながら不器用に手を合わせている。

 その後も、夏祈の知っている面々が次々に入れ替わっていく。


(あっ……)


 その中に、聖也の彼女を見つけた。

 スラっと背の高い遙香はるかが、友人に支えられながら瞳を真っ赤にして遺影を見つめている。


(せーやのこと、ほんとに好きだったんだね……)


 複雑な思いで、遙香の行動をじっと眺める夏祈。

 ふと、祐也から受け取った聖也のお土産を思いだした。


(もしかして、あのストラップ、岸本さんに買ったんじゃないの? 色々あり過ぎて、ゆーやが勘違いしてるのかも?)


 滞りなく式が終わると、お経を唱えていたお坊さんが紺色の袈裟を整えながら振り返った。

 それから、あの世の話が延々と続く……。


(あの世なんてある訳ないし……。せーやはもう消えちゃったんだよ! それにしても長〜いっ。はぁ〜っ、お腹すいた〜)


 全く興味の湧かない話に、飽き飽きしてくる夏祈。


“結局、食い気かよ”


 どこからかまた、聖也のような声が聞こえてきた。


「……ん?」


 夏祈は息を潜め、様子を窺う……。


“なぁ、なつき! 俺ってやっぱ人気あったんだな”


 更に、聖也の声が近付いてくる。


「ちょ、ちょっと待って! まじっ? まじでせーやなのっ」


 まわりをキョロキョロと確認しながら、立ち上がる夏祈。

 その声は会場に響き渡り、参列者達もざわめき始めている。


「夏祈、大丈夫?」


 隣りに座っていた母親が、哀れむような目で夏祈を見つめた。


「もう少しなんだから、おとなしくしてなさい!」


 その隣りに座っていた父親が、夏祈を叱り付ける。


(はっ! 別に飽きて騒いでる訳じゃないし。全く、パパはなんにもわかってないんだから!)


 父親を睨み付けてから、自分の席に深く座り直す。


“プッ、怒られてやんの!”


 バカにするような聖也の声に微妙に反応しながら、

 何かの間違いに決まってる! と、夏祈は平常心を装う。


 それから暫くしてお坊さんが退場し、静まり返った会場で3つの棺が開かれた。親族達がそれぞれを囲み、別れを惜しんで泣いている。

 夏祈も、じわじわと聖也の棺に歩み寄っていく……。

 人形のようなその顔を見つめながら、恐る恐る手を伸ばしてみた。


「息はしてないし、ホッペもこんなに冷たい……。やっぱ、死んでるよね?」


「あっ、夏祈、触っちゃだめよ!」


 母親が、慌てて夏祈を止めに入る。


「ママ! せーや、ほんとに死んでるのかなぁ」


 母親は泣きじゃくりながら、何度も頷いていた。

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